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4章
59 2日目朝 野放しの狂人
しおりを挟む狂人が指すものが誰を指すものかは、嫌と言うほどによく知っている。
しかし、湖紅側には今回、凰訝が帯同している事は伝えていなかったはずだ。
「そんなところまでお前達は掴んでいるのか?」
驚いて烈を見れば、彼は不思議そうに首を傾けた。
「いえ、昨晩翠玉様に接触なさってきたので」
「「は?」」
2人して間の抜けた声が出た。
あまりにも予想していなかった行動だった。
こちらの反応を見た烈は「ご存知無かったのですか?」と再度首を傾けた。
「昨晩、唐突に我が主の逗留する宮に現れたんですよ。当然我らの網に掛かりましたが、悪びれもせず名乗られたので、内密にご案内しました」
その言葉を聞いて2人して頭を抱えた。
「あの人は、、、何の用でまたそんな所に」
董伯央に集中しているとばかり思ったのに、まさか湖紅側で騒ぎを起こすととは、、、相変わらずの読めなさにどっと疲れを覚えた。
「表向きは、冬将軍への挨拶と言うことでしたが、どうやら奥方様を見にいらしたようです。」
「翠玉を、、、か?」
ますます意味がわからない。
「お顔を見られて、なるほどあなたがあの策の提案者かと、言い切られておいででした。どのような女性か興味が湧いた、周殿の妹君であるからには一筋縄の女ではないとは聞いていたが、お顔を見て確信したと言われておりました」
そこまで説明した烈は、それを聞いて顔を引き攣らせた2人を見てまたも首を傾けた。
「お2人からお話していたわけではなかったのですか?」
その言葉に、2人揃ってため息と共に首を振った。
「恐ろしい人だ。こちらからは翠玉の事は何も話していない。恐らくあの人の勘だろう。カマをかけていたんだろうな。そして確信した。恐らく、そのためにそちらの宮に行ったのだろうよ、単に興味がそそられた、、、恐らくあの方の行動動機としてはそんなもんだろう」
「それだけですか?」
そんなバカなと言いたげな烈に、首を振る。
「興味さえあれば、そんな事で動く人なんだ、他には何か言っていたか?」
「いえ、突然の不躾な来訪を詫びてそれではお互いに武運をと言って帰られました。主達は意図を測り兼ねていましたが、、、」
「そう言う人なんだ、気にしないでくれと伝えてくれ」
深くため息を吐く。
「承知しました」
烈のこちらを見る目に同情の色が見て取れた。
「とにかく、今夜が賓客の夕食会か、そして明日が本番の式典。頼むから大人しくしててくれよ」
呟きつつ、天を仰ぐ。
まるで背中に刃物を突きつけられているような気分だ。いつ刺されるのか、何を突きつけられているのかも分からない。
一気に疲れ切った2人を尻目に、「では私はこれで」と烈が頭を下げて、退室して行った。
しばし沈黙の後、ゆっくりと立ち上がった蓉芭はそのままのそのそと寝台に登る。
時間はまだ早朝。今日は特に外に出るつもりもないため。2度寝を決め込むことにした。
一気に失った気力と体力は回復させねばならない。
「あぁ、宇麗に会いたい」
ボソリとつぶやいて、傍に投げた剣に付いた房飾りを握る。
何年目かの結婚記念日に、妻からプレゼントされたそれは、遠征の際には妻の代わりだ。
こうして疲れたり気力が萎えた時はこれを握って妻子の顔を思い出す。
そうすると、少しずつ気力が戻ってくる気がするのだ。
最後の夜に、1人ひっそりと涙していた彼女を思い出す。
出会った頃から、気丈な女だった。母として妻として毅然と送り出すつもりだったのだろう。自分に涙は見せたく無かったはずだ。
もう、あんな風に泣かせることはしたくない。どれだけ乱されようと、邪魔が入ろうと、この大義だけは通さなければならないのだ。
だからこそ、こんな事に乱されてはいけない。そう自分に言い聞かせて、、、否、言い聞かせていないとやっていられない。
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