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3章
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「皇帝陛下には多くのご落胤がおられます。
息抜きと称して市井に降りて遊ぶこともしばしばございました。その記録やその管理をしていたのが当時近衛としておそばにいた私です。これまでに数人、同じような境遇の方がおられまして、皆様宮廷にお戻りになり、生活をしております。」
安心させるように気遣っている朗桓の言葉に苓は目を見開く。
「わたしも、そうなるの?」
宮廷とは、要は皇族が住む場所だ。今いる朗桓の邸よりもさらに贅が尽くされ華やかな場所だ。そのようなところに自分のような田舎の農民育ちの小娘が住むのだろうか、、、考えただけで震えが止まらない。
「はい、お母上のことは私もしかと覚えております。ほかでもない私があなたのお母さまを陛下に差し出しましたゆえ。
本日はこちらにて、お休みいただき、明日宮廷に移り皇帝陛下に顔見せをいたします。」
「明日!?皇帝に!?」
自分の素性から宮廷での生活だけでもお腹いっぱいな状態なのに、極めつけにこの国の皇帝に会うなどと、、、
夢だわこれは!!きっと私、都合のいい夢を見てるのよ!!
しかし宮廷生活も、皇女であったことも、自分にとってはなんの都合もいい話ではないことに気が付いて
悪夢?悪夢を見てるの?
もう何だかいろいろ訳が分からなくなった。
「そう緊張なさらなくても大丈夫です。御父上ですから。」
苓の混乱を悟った朗桓が取りなすように言い添えるが、父というものすら知らずに生きてきたのに突然大丈夫だと言われても、、、。そう思って、何かに縋りたくて、周囲に目を配れば、唖然としたように事の成り行きを見守っている周と陸と目が合う。
「か、かれらは?どうなりますか?」
縋るような気持ちで二人を見る。彼らは皇帝に会うことが目的だったのだから、どうにか同行できないだろうか、、、一人より心強い!何より今の苓にはこの混乱状態を落ち着かせるための相手が欲しい。
苓の言葉に朗桓が自身の後方に控える彼らに目を向ける。
「この者達は?」
「わ、私の護衛でここまで!」
「なんと!護衛をお雇いになられていらしたのですか?」
驚いた様子の朗桓に慌てて手を振る。
「ち、違うの!雇っているわけではないの、行き先が一緒で、、、私方向音痴なので」
多少恥じながら訳を説明するが
「なんと、、、やはり陛下のお子で間違いございませんね」
「え?」
なぜかとてもうれしそうに納得されてしまう。
「陛下は20年以上生活なさっているご自分の宮ですら迷子におなりなほどの方向音痴でいらっしゃるので!」
「あぁ、そうですか、、、」
そんな救いようのない方向音痴なんてめったにお目にかかれない。どうやら皇帝は本当に苓の父親なのかもしれない。
変なところで、なんだか腑に落ちてしまって、苓は若干気持ち悪くなってくる。
「では彼らにも相応の謝礼をお支払いいたしましょう。」
朗桓はそう言って二人に謝意のこもった笑みを向けた。
「あ、、あ、あの!!二人がここに来たのも目的があって、少し話を聞いてあげてほしいのですが」
ここでねじ込まなければ、二人は朗桓から謝礼を渡されてすぐに邸から出されてしまう。そんな予感がして苓は慌てる。
ここで彼らとの約束を果たさなくてどうするのだ!
「私が?」
言われた朗桓も、後ろに控えていた二人も驚いたような顔で苓を見ていた。
「お願いします!」
念を押すように言うと、朗桓が苓と、二人を見比べる。
「聞くだけになるかもしれませんが聞いてみましょう。」
そうしっかり頷いてくれた。
良かった、、、ほっと息を吐く、これで彼らの目的に少し近づけただろうか?
唐突にパンパンと朗桓が手を叩くと、ガラリと閉じられていた戸が開き、3人の女官風の女性たちが部屋に入ってくる。
「皇女殿下をご案内しろ」
朗桓の指示を受けた女官たちが苓を取り囲み、手を取る。
苓の手よりも数倍も美しく手入れされた手に恭しく手をそえられて、申し訳ない気持ちになりながらも、抗う術もなく彼女たちに部屋から出されてしまう。
え、まって!ここでお別れ!?嘘でしょう??
そう思いながら、部屋に残される二人をちらりと見ると、感謝するような視線とともに、頑張れというような強い視線が返ってきた。
息抜きと称して市井に降りて遊ぶこともしばしばございました。その記録やその管理をしていたのが当時近衛としておそばにいた私です。これまでに数人、同じような境遇の方がおられまして、皆様宮廷にお戻りになり、生活をしております。」
安心させるように気遣っている朗桓の言葉に苓は目を見開く。
「わたしも、そうなるの?」
宮廷とは、要は皇族が住む場所だ。今いる朗桓の邸よりもさらに贅が尽くされ華やかな場所だ。そのようなところに自分のような田舎の農民育ちの小娘が住むのだろうか、、、考えただけで震えが止まらない。
「はい、お母上のことは私もしかと覚えております。ほかでもない私があなたのお母さまを陛下に差し出しましたゆえ。
本日はこちらにて、お休みいただき、明日宮廷に移り皇帝陛下に顔見せをいたします。」
「明日!?皇帝に!?」
自分の素性から宮廷での生活だけでもお腹いっぱいな状態なのに、極めつけにこの国の皇帝に会うなどと、、、
夢だわこれは!!きっと私、都合のいい夢を見てるのよ!!
しかし宮廷生活も、皇女であったことも、自分にとってはなんの都合もいい話ではないことに気が付いて
悪夢?悪夢を見てるの?
もう何だかいろいろ訳が分からなくなった。
「そう緊張なさらなくても大丈夫です。御父上ですから。」
苓の混乱を悟った朗桓が取りなすように言い添えるが、父というものすら知らずに生きてきたのに突然大丈夫だと言われても、、、。そう思って、何かに縋りたくて、周囲に目を配れば、唖然としたように事の成り行きを見守っている周と陸と目が合う。
「か、かれらは?どうなりますか?」
縋るような気持ちで二人を見る。彼らは皇帝に会うことが目的だったのだから、どうにか同行できないだろうか、、、一人より心強い!何より今の苓にはこの混乱状態を落ち着かせるための相手が欲しい。
苓の言葉に朗桓が自身の後方に控える彼らに目を向ける。
「この者達は?」
「わ、私の護衛でここまで!」
「なんと!護衛をお雇いになられていらしたのですか?」
驚いた様子の朗桓に慌てて手を振る。
「ち、違うの!雇っているわけではないの、行き先が一緒で、、、私方向音痴なので」
多少恥じながら訳を説明するが
「なんと、、、やはり陛下のお子で間違いございませんね」
「え?」
なぜかとてもうれしそうに納得されてしまう。
「陛下は20年以上生活なさっているご自分の宮ですら迷子におなりなほどの方向音痴でいらっしゃるので!」
「あぁ、そうですか、、、」
そんな救いようのない方向音痴なんてめったにお目にかかれない。どうやら皇帝は本当に苓の父親なのかもしれない。
変なところで、なんだか腑に落ちてしまって、苓は若干気持ち悪くなってくる。
「では彼らにも相応の謝礼をお支払いいたしましょう。」
朗桓はそう言って二人に謝意のこもった笑みを向けた。
「あ、、あ、あの!!二人がここに来たのも目的があって、少し話を聞いてあげてほしいのですが」
ここでねじ込まなければ、二人は朗桓から謝礼を渡されてすぐに邸から出されてしまう。そんな予感がして苓は慌てる。
ここで彼らとの約束を果たさなくてどうするのだ!
「私が?」
言われた朗桓も、後ろに控えていた二人も驚いたような顔で苓を見ていた。
「お願いします!」
念を押すように言うと、朗桓が苓と、二人を見比べる。
「聞くだけになるかもしれませんが聞いてみましょう。」
そうしっかり頷いてくれた。
良かった、、、ほっと息を吐く、これで彼らの目的に少し近づけただろうか?
唐突にパンパンと朗桓が手を叩くと、ガラリと閉じられていた戸が開き、3人の女官風の女性たちが部屋に入ってくる。
「皇女殿下をご案内しろ」
朗桓の指示を受けた女官たちが苓を取り囲み、手を取る。
苓の手よりも数倍も美しく手入れされた手に恭しく手をそえられて、申し訳ない気持ちになりながらも、抗う術もなく彼女たちに部屋から出されてしまう。
え、まって!ここでお別れ!?嘘でしょう??
そう思いながら、部屋に残される二人をちらりと見ると、感謝するような視線とともに、頑張れというような強い視線が返ってきた。
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