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2章
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しおりを挟む苓の言いつけを守ったのか、周が追いかけてくる気配はなかった。
宿を出て沿道に出ると、特に行く当てもなく人込みにまぎれた。
超のつく方向音痴である。路地を曲がらずにまっすぐ進もう。そう決めて歩き始めた。
そうしてしばらく歩いて、すでに自分が来た道を見失って迷子となったのだった。
なんで?同じ道しか歩いていないのに元の通りに戻れないなんて!
辺りをきょろきょろ見渡してみるものの見覚えのある通りではなくて肩を落とす。
歩き疲れて石段に腰かけてぼんやりと道行く人を眺める。
運よく陸が通りかからないだろうか、、、と淡い期待をもってみる。
しかし、陸に会えたからとてどうするというのだ、結局逃げ出してきたはずの周のもとへ戻る事となるのだ。
なんとも格好がつかない。
あまりにも自分が情けなくて、思わず「はぁ~」っと深いため息をこぼして項垂れた。
そんなとき不意に苓の頭上に影が差した。
周に見つかってしまったのだろうか。
そう思って見上げると、こちらをのぞき込んでいる人物としっかり目が合った。
少し年上の若い男性で、、、顔は見たことがなかった。
男性は苓と目が合うとニコリと急に表情を崩した。
「ねぇ君旅の人?今時間ある?」
あまりにも軽い調子でなれなれしく話しかけられて、苓の思考は一瞬停止する。
なにこの人!すごいグイグイ来るんですけど!!
田舎の小さな村育ちの苓にとっては都会の街中で、出会ったばかりの同年代の異性に気安く話かけられるなんて初めての経験である。
「ちょっと一緒に遊ぼうよ!俺さっきこの町に着いてさぁ!一人でぶらぶらしててもなんだし、どうせならかわいい子と過ごしたいじゃん?」
そう言って肩に手を乗せられる。
「甘味とかどう?おごるよ?」
「えぇっとぉ」
今出会ったばかりの人が、甘味をごちそうしてくれるなんてそんなうまい話があるのだろうか。
これは何かの詐欺ではないのだろうか、それとも本当にこの人は甘味が食べたくて一人じゃ寂しいから暇そうにしていた苓に声をかけてるのか、、、。
わっ、、、わかんない!!
無下に断るのも難だし、かといって着いて行って大丈夫なのだろうか?
しかしこのまま、物陰に連れ込まれでもしたら、、、
さぁっと血の気が引く。
今苓の懐には、母の形見のあの櫛が入っている。もし物取りだったら、苓一人では太刀打ちできない。
なんとしても物陰に連れていかれることだけは避けねばならない。
そう思って辺りを見渡して、目に入ってきた店の一つを指さす。
「あ、あの!!じゃああの店がいいです!!」
そう言って少し先にある、甘味処を指さす。そこは外にも客席があって、通りを見通せる。
上手くすれば陸を見つけられるかもしれないし、甘味を指定している青年の希望も聞ける。
とにかく今すぐ物陰に連れていかれることだけは避けられる。
持ち金も、甘味を食べる分くらいは持っているので、大丈夫だ。
とにかく、甘味を食べて適当なところで逃げ出そう!
「ん?あぁいいねぇ!じゃあ行こうか」
青年は、店を一瞥してこだわりなく笑った。
どうやら本当に甘味を誘っただけだったのかもしれない。
そのまま彼に肩を抱かれて居心地が悪いまま歩き出す。
そうして甘味処に入る目前で、パンっと力強く、手をつかまれて、急に身体を後ろに引かれた。
「わっ!!」
突然バランスを失って後ろに倒れこみそうになった身体は、少しバランスを崩しただけで、すぐに何か大きなものにぶつか
た。
「お前!こんなところで何してんだ!」
そうして頭上から落ちてきた、不機嫌な周の低い声に、苓はさぁっと血の気が引いた。
「えっと?お知り合い?」
目の前の青年も苓と同じように血の気が引いたような顔をしていた。
うん、怖いよねぇだって周、お兄さんよりずいぶん体大きいし、変な圧あるからね。
しかもなんとなく背中だけで感じるだけの雰囲気でも、彼が相当怒っているのを感じるのだ。
「うん、ごめん、、、同行者なの、見つかっちゃったからごめんね」
仕方なく彼に逃げ道を与えてやる。
「あ、ははは、じゃあ仕方ないねぇ!またいつか!」
そう言うと青年は、すごい速さで逃げ去って行った。
どうやら本当に苓と甘味を食べたかっただけなのかもしれない、かわいそうなことをしたなぁとその背中を目で追った。
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