孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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1章

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それから1週間、3人の旅程は順調に進んでいた。一度だけ、追剥のような男たちに遭遇したものの、周と陸が難なく追い払い、事なきを得たくらいだ。

苓も馬での移動にも慣れてきて筋肉痛になることもなくなった。

「残すところ半分か・・・ここまで来たし、今日は宿を取ろうか?」
「え、宿!?」

その日は、夕刻にその州でも指折りの大きな街に到着した。陸の提案に苓がピクンと肩を揺らし反応する。
宿に泊まるなんて生まれて初めてなのである。

「ずっと女の子を土の上で寝かせるのも忍びないしね。それにほら、今日は雨も降りそうだから」

そう言って陸は空を指す。つられて見上げるが、青空が広がるばかりで、雨の気配はない。

「?」

首をかしげると陸はくすくすと笑って。
「嘘だと思うでしょ?でも降るんだ!」と断言した。

陸が言うならそうなのかもしれない。
この一週間で、苓の彼に対するこうした事の信頼度は上がっていた。

物資の調達にしろ、野営にしろ、ほとんどのことは、陸が手配をしてくれていたし、彼の知識が役立っていた。


街に入った三人は陸の鮮やかな立ち回りでさっさと宿を決めて物資の調達に出た。
とは言っても、必要な資材や保存食の買い足しは陸が請け負って、周と苓に課されたのは、苓の衣類や夕食の買い出しだった。

自身の買い物が主なので一人で・・・とも思ったが。「一本道の街道の来た道を戻っていくような奴が宿に無事に戻ってなんか来られるわけがない」と二人に一蹴されてしまった。

その通りなので結果、周をお供に買い物に出ることになったのである。
そんな頃には、青々と晴れ渡っていた空に雲が多くなってきて、雨の降りだす前特有の生暖かい風が吹き始めていた。


「陸って天候まで把握してるの、すごすぎない!?」

頬で風を感じながら周にこぼせば、彼は「確かにな」と笑う。

「あいつは昔から器用なんだ、特に知識的なものはすぐに吸収するんだよ」

「すごいのね、それで剣も使えるのでしょ?」

「本人は剣術は苦手だって言っているけどな。剣術と・・・いや剣術だけは俺のほうが僅差で勝つだけで、知能戦になったら確実に俺は負けるな」

自嘲しながらも周はどこか楽しそうだ。

博識で常に冷静沈着な陸に比べ、彼は豪快でいてそれなのにどっしり構えている。この旅程だって、表向きは陸が細やかに段取りをして進めているように見えて、実のところ周の決断や指示で動いていることを苓は知っている。

この二人の関係性は、よくわからないが、なんとなく上下関係があるような気がするのだ。
しかも、互いに互いの判断に絶対の信頼を置いているのがわかる。

そして実は優しそうな風貌でニコニコと人当りの良さそうな陸よりも、見るからに男っぽく豪快でガサツそうな周のほうが、他人の心情の動きには敏い。おそらく見た目とは裏腹に繊細で、そして優しいのだ。


今だって、苓の少し前を歩いて、自らを盾にしてさりげなく人込みから守ってくれている。

「そのうち二人の打ち合いが見られる?」

村人達や追剥を追い払った時は、抜刀しただけで彼らの殺気に充てられ逃げていったので、実際のところの実力は未だ拝めていないのだ。
いずれにしても、二人とも随分と鍛えられた体躯をしているから、それなりの使い手ではあるのだろうけれど。

「俺達の?どうかなぁ最近鍛錬してねぇし、そろそろ一回くらいしてもいいかもしれないな。そん時は声かけるわ。ところで、ここが目的の店じゃねぇの?」

そういって立ち止まって彼の指をさす先は、苓の目的の古着屋だった。

「わ!すごい周!たどり着いたわ!!」

あまりにスムーズについてしまったことが意外でつい歓声を上げると。

「いや、ここまで通りまっすぐだぞ?迷いようもねぇぞ」と呆れられてしまった。

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