孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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1章

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翌日、荒らされた家を一目見て苓は決意を固めた。

そんな苓の心情を理解した村長は、苓に荷物を纏めさせるとすぐに村を出た。

村を出てすぐ、まだ集落の一部が目視で確認できる距離で村長は足を止めた。


そこに立つ小屋に誰が住んでいるのか、苓は知っていた。
 
ゴクリと生唾を飲み込む。
この小屋には大きな熊みたいな男が住んでいるのだ。

髭面で、いつも仏頂面、がなり声が大きい怪物みたいな男だ。
村の子供達はお使いでこの家の前を通る際には小走りで通り抜けている。
もちろん苓もそうした経験がある。




「おーい!ばく!いるかぁ?」

固まる苓をよそに村長はあろう事がその家の主の名を呼び扉を雑に叩く。


するとすぐに扉が開いて、中からぬっと大男が姿を表す。

怖い、いつ見ても怖い。

思わず逃げ腰になりながら見上げれば、バッチリ男と目があってしまい、腰を抜かしそうになる。



男は苓と村長を見比べて息を吐いた。

「思ったより早かったな、気の毒に」

そう言って苓を見る瞳がわずかに悲し気に揺れた。

「なんとか昨夜は無事だったがもう村の中に置いておくのは危険だ。お前の所の奴らは準備できているか?」

村長の言葉に大男、漠は入れと2人に手招きをして、室内に戻っていく。

村長はなんの躊躇もなくそれに続き、仕方なく苓も恐る恐る後に続いた。

「奴らなら朝から山に行った。まったく!治ったと思やぁ、すぐに動き回りやがる!すぐ戻るから茶でも飲んで待っててくれ!」

がなり声で乱暴にそう言うと彼は大きな手で手際良くお茶を入れて出してくれた。

促されるままに椅子に座る。

家の中は意外なほど小綺麗で、無駄なものがあまり置かれていない。
テーブルや椅子、棚や籠全てのものが木を利用して手作りされていて、それが良い味を醸し出している。

見た目からガサツで怖い人だと思っていたが、どうやらなかなかの几帳面な人のようだ。

出された茶の入れ物も、木をくり抜いて作ったもののようで、つるりと磨かれた側面の手触りと木の温かみが気持ちいい。


「彼ら?」
2人の会話を不思議に思い、首を傾けると、村長が「あぁ」と笑って肩を竦めた。


「2.3ヶ月前にな、こいつが山で怪我した男2人を見つけてな、ここでずっと養生させてたんだ。俺は時々、薬草なんかを届けていたから知ってるんだが」

そう言ってチラリと漠を見る。

見られた漠は一度苓に気遣わしげな視線を向けて話し始めた。

「1人は衰弱と軽傷。もう1人はひでぇ傷でさ!だけどどうしてこんな事になったのかは思い出せねぇって言うんだ。とにかく手当てをして動けるようになって、今は走り回ってる。年の頃は18だって言ってたな。2人とも孤児で、何かしらねぇが葡葉に行くって言ってんだよ」


「ちょうどその話を聞いてすぐ後にお前の母さんが倒れたから、俺が彼らを少し引き留めてもらっていたんだ。できるなら、苓を一緒に葡葉に連れて行ってくれないかって」

「え?」

話を引き継いだ村長の言葉に苓は目を瞬かせる。

「どこで習ったのか腕っ節は2人ともいい、君1人くらいなら守れると思うぞ」

つまりは、案内役兼用心棒と言うことらしい。
たしかに女の一人旅よりは数倍心強い。なにより苓にとっては道標がいるだけで随分と違う。


しかし、男2人にいくら色気の無い痩せっぽっちでも妙齢の女1人ってどうなのだろうか?

ふいにそんな事が不安になってきたと思ったところで、バタンバタンと裏口の方から人が出入りしてくる音が響いてくる。


「帰ってきたな」

  ぼそりと漠が呟いたのが聞こえて、「え?」と思ったのも束の間。


目の前にそれはそれは逞しい男の裸体が2つ現れて


「ひっ、、、ひやぁあああああ!!」

「っいで!!」

思わず叫んだ苓は、持っていた杯を先頭にいた青年にぶつけてしまった。
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