5 / 75
1章
4
しおりを挟む
翌日、荒らされた家を一目見て苓は決意を固めた。
そんな苓の心情を理解した村長は、苓に荷物を纏めさせるとすぐに村を出た。
村を出てすぐ、まだ集落の一部が目視で確認できる距離で村長は足を止めた。
そこに立つ小屋に誰が住んでいるのか、苓は知っていた。
ゴクリと生唾を飲み込む。
この小屋には大きな熊みたいな男が住んでいるのだ。
髭面で、いつも仏頂面、がなり声が大きい怪物みたいな男だ。
村の子供達はお使いでこの家の前を通る際には小走りで通り抜けている。
もちろん苓もそうした経験がある。
「おーい!漠!いるかぁ?」
固まる苓をよそに村長はあろう事がその家の主の名を呼び扉を雑に叩く。
するとすぐに扉が開いて、中からぬっと大男が姿を表す。
怖い、いつ見ても怖い。
思わず逃げ腰になりながら見上げれば、バッチリ男と目があってしまい、腰を抜かしそうになる。
男は苓と村長を見比べて息を吐いた。
「思ったより早かったな、気の毒に」
そう言って苓を見る瞳がわずかに悲し気に揺れた。
「なんとか昨夜は無事だったがもう村の中に置いておくのは危険だ。お前の所の奴らは準備できているか?」
村長の言葉に大男、漠は入れと2人に手招きをして、室内に戻っていく。
村長はなんの躊躇もなくそれに続き、仕方なく苓も恐る恐る後に続いた。
「奴らなら朝から山に行った。まったく!治ったと思やぁ、すぐに動き回りやがる!すぐ戻るから茶でも飲んで待っててくれ!」
がなり声で乱暴にそう言うと彼は大きな手で手際良くお茶を入れて出してくれた。
促されるままに椅子に座る。
家の中は意外なほど小綺麗で、無駄なものがあまり置かれていない。
テーブルや椅子、棚や籠全てのものが木を利用して手作りされていて、それが良い味を醸し出している。
見た目からガサツで怖い人だと思っていたが、どうやらなかなかの几帳面な人のようだ。
出された茶の入れ物も、木をくり抜いて作ったもののようで、つるりと磨かれた側面の手触りと木の温かみが気持ちいい。
「彼ら?」
2人の会話を不思議に思い、首を傾けると、村長が「あぁ」と笑って肩を竦めた。
「2.3ヶ月前にな、こいつが山で怪我した男2人を見つけてな、ここでずっと養生させてたんだ。俺は時々、薬草なんかを届けていたから知ってるんだが」
そう言ってチラリと漠を見る。
見られた漠は一度苓に気遣わしげな視線を向けて話し始めた。
「1人は衰弱と軽傷。もう1人はひでぇ傷でさ!だけどどうしてこんな事になったのかは思い出せねぇって言うんだ。とにかく手当てをして動けるようになって、今は走り回ってる。年の頃は18だって言ってたな。2人とも孤児で、何かしらねぇが葡葉に行くって言ってんだよ」
「ちょうどその話を聞いてすぐ後にお前の母さんが倒れたから、俺が彼らを少し引き留めてもらっていたんだ。できるなら、苓を一緒に葡葉に連れて行ってくれないかって」
「え?」
話を引き継いだ村長の言葉に苓は目を瞬かせる。
「どこで習ったのか腕っ節は2人ともいい、君1人くらいなら守れると思うぞ」
つまりは、案内役兼用心棒と言うことらしい。
たしかに女の一人旅よりは数倍心強い。なにより苓にとっては道標がいるだけで随分と違う。
しかし、男2人にいくら色気の無い痩せっぽっちでも妙齢の女1人ってどうなのだろうか?
ふいにそんな事が不安になってきたと思ったところで、バタンバタンと裏口の方から人が出入りしてくる音が響いてくる。
「帰ってきたな」
ぼそりと漠が呟いたのが聞こえて、「え?」と思ったのも束の間。
目の前にそれはそれは逞しい男の裸体が2つ現れて
「ひっ、、、ひやぁあああああ!!」
「っいで!!」
思わず叫んだ苓は、持っていた杯を先頭にいた青年にぶつけてしまった。
そんな苓の心情を理解した村長は、苓に荷物を纏めさせるとすぐに村を出た。
村を出てすぐ、まだ集落の一部が目視で確認できる距離で村長は足を止めた。
そこに立つ小屋に誰が住んでいるのか、苓は知っていた。
ゴクリと生唾を飲み込む。
この小屋には大きな熊みたいな男が住んでいるのだ。
髭面で、いつも仏頂面、がなり声が大きい怪物みたいな男だ。
村の子供達はお使いでこの家の前を通る際には小走りで通り抜けている。
もちろん苓もそうした経験がある。
「おーい!漠!いるかぁ?」
固まる苓をよそに村長はあろう事がその家の主の名を呼び扉を雑に叩く。
するとすぐに扉が開いて、中からぬっと大男が姿を表す。
怖い、いつ見ても怖い。
思わず逃げ腰になりながら見上げれば、バッチリ男と目があってしまい、腰を抜かしそうになる。
男は苓と村長を見比べて息を吐いた。
「思ったより早かったな、気の毒に」
そう言って苓を見る瞳がわずかに悲し気に揺れた。
「なんとか昨夜は無事だったがもう村の中に置いておくのは危険だ。お前の所の奴らは準備できているか?」
村長の言葉に大男、漠は入れと2人に手招きをして、室内に戻っていく。
村長はなんの躊躇もなくそれに続き、仕方なく苓も恐る恐る後に続いた。
「奴らなら朝から山に行った。まったく!治ったと思やぁ、すぐに動き回りやがる!すぐ戻るから茶でも飲んで待っててくれ!」
がなり声で乱暴にそう言うと彼は大きな手で手際良くお茶を入れて出してくれた。
促されるままに椅子に座る。
家の中は意外なほど小綺麗で、無駄なものがあまり置かれていない。
テーブルや椅子、棚や籠全てのものが木を利用して手作りされていて、それが良い味を醸し出している。
見た目からガサツで怖い人だと思っていたが、どうやらなかなかの几帳面な人のようだ。
出された茶の入れ物も、木をくり抜いて作ったもののようで、つるりと磨かれた側面の手触りと木の温かみが気持ちいい。
「彼ら?」
2人の会話を不思議に思い、首を傾けると、村長が「あぁ」と笑って肩を竦めた。
「2.3ヶ月前にな、こいつが山で怪我した男2人を見つけてな、ここでずっと養生させてたんだ。俺は時々、薬草なんかを届けていたから知ってるんだが」
そう言ってチラリと漠を見る。
見られた漠は一度苓に気遣わしげな視線を向けて話し始めた。
「1人は衰弱と軽傷。もう1人はひでぇ傷でさ!だけどどうしてこんな事になったのかは思い出せねぇって言うんだ。とにかく手当てをして動けるようになって、今は走り回ってる。年の頃は18だって言ってたな。2人とも孤児で、何かしらねぇが葡葉に行くって言ってんだよ」
「ちょうどその話を聞いてすぐ後にお前の母さんが倒れたから、俺が彼らを少し引き留めてもらっていたんだ。できるなら、苓を一緒に葡葉に連れて行ってくれないかって」
「え?」
話を引き継いだ村長の言葉に苓は目を瞬かせる。
「どこで習ったのか腕っ節は2人ともいい、君1人くらいなら守れると思うぞ」
つまりは、案内役兼用心棒と言うことらしい。
たしかに女の一人旅よりは数倍心強い。なにより苓にとっては道標がいるだけで随分と違う。
しかし、男2人にいくら色気の無い痩せっぽっちでも妙齢の女1人ってどうなのだろうか?
ふいにそんな事が不安になってきたと思ったところで、バタンバタンと裏口の方から人が出入りしてくる音が響いてくる。
「帰ってきたな」
ぼそりと漠が呟いたのが聞こえて、「え?」と思ったのも束の間。
目の前にそれはそれは逞しい男の裸体が2つ現れて
「ひっ、、、ひやぁあああああ!!」
「っいで!!」
思わず叫んだ苓は、持っていた杯を先頭にいた青年にぶつけてしまった。
11
お気に入りに追加
798
あなたにおすすめの小説
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる