上 下
34 / 42

034 魔法を使った戦闘に感動した

しおりを挟む
「大きいな。見たことのない敵だ」

 前方数十メートルの所に魔物が立っている。数は5体。
 赤い肌をした全長2.5メートル級の人型モンスターだ。
 肌の色こそ違うものの、角の生え方はゴブリンと似ている。
 ただし、角の長さはゴブリンよりも遥かに長い。

「オーガね」

 イザベラが教えてくれる。

「素手の単体だとF級扱いだけど、あいつらは武器を持っているから単体だとE級。群れているからD級。正式名称はオーガパーティーよ」

 たしかに前方のオーガは武器を持っている。
 棍棒持ちが3体に、斧持ちが2体。

「あいつらD級なのか。此処にはB級しか棲息していないのかと思ったよ」

「そんなわけないでしょ」

 イザベラが嘲るように笑う。

「〈リバーサイド〉はB級。ってことは、棲息している魔物の中で一番強いのがB級ってこと。レイドダンジョンには必ずボスが居るから、B級はそのボスを表しているのよ」

「そうだったんだ」

「何も知らないのね、本当に冒険者?」

「新米だけどな」

「でしょうね。ちなみに周囲の森が〈魔王の庭〉でA級よ。川の向こうにそびえている山が〈魔王の住み処〉でS級。魔王の住み処と呼ばれているけど、実際に魔王が住んでいるかは誰も知らないわ」

「なるほど」

 また一つ冒険者としての知識が身についた。

「周辺にオーガパーティー以外の敵影なし。これなら我々のPTだけで大丈夫だ。お前達は休んでいてくれ――行くぞ!」

「「「「おう!」」」」

 フリッツの合図で、彼のPTが突撃していく。
 このPTは武器や防具のみならず、動きまで統一している。
 完全に同じタイミングで抜刀した。
 思わず「おお」と感嘆する。

「戦闘態勢!」

 フリッツが言うと、PTは走ったまま陣形を変えていく。
 PTメンバーの一人が後衛に回り、残りが横並びの前衛だ。
 なんだか凄いクランに在籍しているだけあって、流石の連携力。

「おいおいおい! 最優秀賞狙いのポイント稼ぎはずりぃぞ!」

 少し遅れてザウスが突っ込む。

「ついてこい! お前達!」

「「「はい、ザウス様」」」

 ザウスの従えている3人の女も続く。
 自己紹介の時に聞いた話だと、彼女らは奴隷らしい。
 奴隷にも違法と合法があるらしいが、彼女らは合法奴隷だ。
 この世界には奴隷制度が残っている。

「フリッツとザウスは突っ込んだが……イザベラは加勢しないのか?」

 隣で傍観しているイザベラに話しかけた。
 彼女は「もちろん」とさも当然のように答える。

「わざわざ戦ってくれるっていうのだから任せるわよ。私は参加報酬と攻略報酬さえ貰えたらそれでいいからね。最優秀賞になんか興味ないし」

「なるほど、俺と同意見ってことか」

 ぼんやりと戦闘を眺める。
 よくよく思えば、他人の戦闘を見るのは今回が初めてだ。

「ほぇー、魔法ってすげぇな」

 それが俺の感想だった。
 どちらのパーティーも魔法を駆使して戦っている。

 フリッツのPTはメンバーが移り変わりで魔法を使うスタイルだ。
 魔法を使う者が後ろに下がって詠唱し、残りが前衛で盾になる。

 ザウスのPTはザウス以外の女3人が魔法を使う。
 ザウスはモンクらしく拳を振り回して戦っていた。

「おもしれぇ、魔法っておもしれぇ」

 魔法の効果は実に幅広い。
 仲間を強化・回復したり、敵を弱体化・攻撃したり。
 誰かが魔法を詠唱する度、次はどんな魔法が出るのかと胸が躍った。

「なにその感想」

 イザベラが笑う。

「ノブナガって魔法も知らないの?」

「生で見るのは今回が初めてでな。当然ながら使えないぞ」

「ゴブリンとワシをペットにしていて、シロコダイルとパープルラビットのクエストをソロで攻略し、挙げ句の果てには魔法をまるで知らないときた。貴方いったい何者なの? というか、今までどうやって生きてきたの?」

「サバイバル能力があれば自然の中でも生きていけるからな」

「サバイバル能力ってなに!?」

「サバイバル能力っていうのは……いや、口で説明しなくても一緒に行動していれば分かるさ。それより今は魔法を使った戦闘だよ。興奮するじゃねぇか」

 自分で言うのも変な話だが、俺は決して弱くない。
 数多の武器を使いこなせる上に、素手の戦いだって極めている。
 独自の戦闘スタイル〈吉永流戦闘術〉を確立しているくらいだ。

 そんな俺だが、所詮は地球で得られる知識しかない。
 かつて見たことない魔法を使った戦闘には学べるものが多かった。

「魔法って強力だけど隙が多い感じなんだな」

「そうね。魔法の詠唱中は全神経を注ぐ必要がある。例えばそこのゴブリンが後ろから石を投げつけるだけで詠唱が止まるわけ。でも、ひとたび発動すれば、その威力は戦況をひっくり返すこともある」

 まさにイザベラの説明通りだ。
 たった今、劣勢に思われたザウスPTが逆転勝利した。
 魔法で強化されたザウスが、魔法で固まった敵を殴り殺したのだ。

「流石はハードパンチャー、その実力に偽りはないな」

「お前達もやるじゃねぇか!」

 フリッツとザウスが戦闘を終了し、互いを讃え合っている。
 そこへ近づく中、俺は今の戦闘を振り返り、こう思っていた。

(魔法を駆使しても俺以下だったな……)

 たしかに魔法は凄まじい。
 先ほど彼らの強さを評価する際は、魔法に対する認識が欠けていた。
 魔法を知ったことで評価を上方修正したが、それでも「そこそこ」止まりだ。
 元々のお粗末な動きを魔法で補っているだけだから、どうしても物足りない。

 魔法はかけ算みたいなものだ。
 かける対象の数字が低ければ、かけた所で大して伸びない。
 魔法を最大限に活かすには、元の強さも大事ということだ。

「この調子でどんどん行こうか!」

 フリッツが剣を振りかざす。
 彼のPTメンバーとザウスが「おお!」と応じた。

(オーガパーティーがD級で、ここのボスはB級なんだっけか)

 本当にボスを倒せるのだろうか、と不安な気持ちに陥るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

処理中です...