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003 英雄の報酬

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「このベヒーモス……お主がやったのかい?」

 白く長い髭が特徴的な熟練の冒険者が話しかけてきた。

 前世では分からなかったが、今なら一目で分かる。
 この男は、強い。
 漂うオーラがそこらの冒険者とは一線を画していた。

「そうです。俺が倒しました」

「ほぉ……」

 男は何度か俺とベヒーモスを交互に見たあと、懐から紙を取り出した。
 ギルドが発行しているベヒーモスの討伐依頼書だ。

「なら報酬はワシではなくお主が受け取るべきだな」

「いや、俺は別に報酬は……」

「討伐した者に受け取る権利がある」

 俺に選択肢はないようで、依頼書を強引に押しつけられた。
 依頼書に書かれてある名前によると、男はロンというそうだ。
 前世では聞いたことのない名だった。

 話していると、ベヒーモスが灰となって消えた。
 入れ替わるようにして、手の平サイズの水晶玉らしき物が現れる。
 ロンはその玉を拾い、俺にトスした。

「ほれ、ベヒーモスの魔石じゃ。王都のギルドに依頼書と魔石を納めたら莫大な報酬が貰える」

「どうも、ロンさん」

「どうしてワシの名を? ああ、依頼書か」

 ロンは一人で納得すると、続けざまに言った。

「お主の名は?」

「ディウスです!」

「覚えておこう」

 ロンは鞘から剣を抜いた。
 プリズムガリバーとは比較にならない宝剣だ。
 上級の神聖武器であることは間違いないだろう。

「ついでだからコレもやろう」

 そう言って、ロンは追加のプレゼントをくれた。
 彼の神聖武器――ではなく、それに装着されていたスフィアだ。

「これは……〈ダークロードのスフィア〉か」

 B級のスフィアだ。
 超高級品であり、気軽に譲渡する代物ではない。

「ほう? 知っておるのか」

「えっ、あ、まぁ、はい。でもいいんですか? こんな物を」

「かまわんさ。ワシは今回で引退すると決めていた。戦いが終わった以上、スフィアを持っていても使うことがない」

 外野のレイナが「すごっ!」と驚いている。
 他の村民たちは、両親も含めて唖然としていた。

「ありがとうございます、ロンさん。大切に使わせていただきます」

「それは良い心がけじゃが、そのスフィアを使うのは至難の業じゃぞ。なんたってBランクだからな」

 ロンの言っている意味が俺には分かった。

「ランク制限ですね。神聖武器に装着できるスフィアは、武器と同等以下のランクの物でなければならない」

「そうじゃ。そのスフィアはB級だから、使いたければB級以上の神聖武器が必要になる」

 つまり、村長のプリズムガリバーでは〈ダークロードのスフィア〉を使えない。

「じゃあ、このプリズムガリバーとその素敵な宝剣を交換するというのは……」

 さりげなく無茶な提案をしてみる。
 村長が「ワシの武器!」と喚いているが無視した。

「なっはっは! 言いよるのう! そうしてやりたいが、残念ながらこの剣には思い入れがあってな」

 ロンは背を向け、王都のほうへ歩き始めた。

「ディウス、お前はきっと良い冒険者になる。地方の村でなんぞ燻っておらずに王都まで出てこい。お主ならワシのレベルを超えることもできるじゃろう」

「頑張ります!」

 村長には建前で「冒険者になる」と言っていたが、その気はなかった。
 二度目の人生だし、復讐を果たしたので違うことをするつもりだった。
 だが――。

(せっかくスフィアを貰ったんだし、また冒険者になってみるか)

 前世では、魔物に対する憎悪で冒険者になった。
 他の冒険者みたいにだらだらと活動していたわけではない。
 全ての魔物をこの世から駆逐しようと躍起になっていた。

 現世では、もっと気楽な冒険者になろう。
 他の冒険者と交流を持つのだって悪くないかもしれない。
 ロンのようにソロを貫くのもいいだろう。

 どういう形になるかは未定だが、俺は冒険者になることを決意した。

 ◇

 本来であれば、今日は祝賀会が開かれていた。
 ベヒーモスから村を守った俺を皆が祝福していたはずだ。

 ただ、今回に至ってはそうもならなかった。
 同じ日にジークが死んだからだ。

 そのため祝賀会は開かず、皆から感謝されるだけに留まった。

「ディウス、お母さんとお父さんはジーク君のお宅に行ってくるわ」

 晩ご飯を食べ終えると、両親は家を出た。
 今日はジークの両親につきっきりで朝まで過ごすそうだ。

「俺は寝るか」

 自分の部屋に移動して、就寝態勢に入る。
 服を寝間着に着替えて、プリズムガリバーを壁に立てかけた。
 村長から魔物討伐の報酬に貰ったものだ。
 傍の机には〈ダークロードのスフィア〉も置いてある。

「ディウス、いる?」

 オンボロベッドに入ったところで、玄関から声が聞こえてきた。
 レイナだ。

「いるよ。自室だ」

 狭い家なので、自室からでも玄関まで声が届く。
 ボロいせいもあるだろう。

「もう寝るの?」

 レイナは部屋にやってくると、ベッドサイドに腰を下ろした。

「そのつもりだったけど、どうしたんだ?」

 俺は体を起こしてレイナの隣に座る。

「どうって……最後に話をしておきたくて」

「最後?」

「だってディウス、明日には村を発って王都に行くんでしょ?」

「その予定だ」

 王都には俺一人で行くことになっている。
 前世と違って村が壊れていないため、レイナは村に残るそうだ。

「だから、その、私の気持ちを伝えて起きたくて……」

 レイナは顔を赤らめて俯いた。
 しばらく待っていたが話さないので、俺から切り出した。

「俺のことが好きなんだろ?」

「え!? そ、そうだけど、何で知ってるの……」

「見ていれば分かるよ」

 もちろん嘘だ。
 前世では告白されるまで気づかなかった。

「そっか……。私、分かりやすいんだね。それで、ディウスさえよかったら、その、私の恋人に……」

「すまないレイナ、それはできない」

 俺はきっぱり断った。

「やっぱり私じゃダメだよね」

 ごめん、と無理して笑うレイナ。
 涙目になっている。

「そういう意味じゃないよ」

「え?」

 俺はレイナの頭を撫でた。

「冒険者はいつ死ぬか分からない危険な仕事だから、誰とも恋人になるつもりはないんだ。生きて帰れる保証がないし、相手に対して責任を持てないから」

「そっか……」

「だから別の相手を見つけてくれ」

「うん……。分かった、そうする」

 ホッと胸を撫で下ろす俺。
 しかし、レイナの言葉には続きがあった。

「じゃあ、冒険者になる前までは恋人でいさせて」

「冒険者になる前まで?」

「村を発つまでってこと。それならいいでしょ?」

 断る理由がなかった。

「そういうことならいいよ」

「やった!」

 レイナは嬉しそうに立ち上がると、振り返って俺を見た。

「本当はこういうことって時間を掛けるものだと思うけど、明日には別れちゃうんだから仕方ないよね」

「というと? ――おわっ!」

 いきなりレイナが飛びかかってきた。
 抱きついて、そのまま俺をベッドに押し倒す。

「何をするんだ、レイナ」

「恋人らしいこと! 全部する! 私の初めてはディウスじゃないと嫌!」

 俺に拒否権はなかった。
 レイナは強引にキスしてくると、問答無用で舌を絡めてきた。

「んっ……、ディウス……んっ……」

 キスをされたことで俺も興奮してきた。

「レイナ……」

 俺はレイナを仰向けに寝かせて、その上に跨がった。
 彼女の服を脱がせて、下着を外し、体に舌を這わせる。
 腹部から首に向かって舐めていく。
 中でも胸は堪能しておいた。

「あんっ……いい、いいよ、ディウス……」

 レイナの嬌声が聞こえる。
 その声を堪能しつつ、さらにエスカレートさせていく。
 俺も服を脱ぎ、そして――。

「ああん! ディウス! 好き! 好き! ずっと好き! ああああっ!」

 俺とレイナは、魅惑的な一夜を共にした。
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