全国の高校生が魔物と戦う世界で、不登校の俺が無双します

絢乃

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069 オルセイア編：戦闘フェイズ⑤

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　金好の顔が歪む。
　これまでに経験したことのない激痛だった。
　小学生の時に歯医者で行った虫歯の治療の時よりも脂汗が出る。

「「金好！」」

　アベヤスと香澄が叫ぶ。
　二人は取り乱していた。

「逃げろ！」

　金好は残った力を振り絞って叫ぶ。

「アベヤス……俺を……」

　金好の言葉が途切れる。
　意識は朦朧としており、身体が動かない。

「分かったで、金好！」

　アベヤスは勘違いしていた。
　金好が「俺を背負って逃げろ」と言っているものだと。
　金好は「俺をおいて逃げろ」と言いたかった。

「香澄、俺は金好を背負う！」

「敵は私に任せて！」

　アベヤスがシャムシールを放り投げる。
　香澄はそれをキャッチし、前方の敵に突っ込んだ。
　走りながら左右の手に持つ武器をチェンジする。
　左手に杖、右手に剣の格好で敵に襲い掛かった。

「今や！　アベヤス！」

「おう！」

　香澄が死に物狂いで道を切り開き、そこをアベヤスが駆け抜ける。
　すかさず骸骨射手が矢を射かけるが、それらは全て地面に突き刺さった。
　骸骨射手の攻撃精度は低く、動いている限りは当たらない。

「この家に逃げ込むで！」

　アベヤスが路地裏にある適当な民家を指す。

「その中にも敵がおるんちゃう？」

「中におる敵くらいなら俺がどうにかする。それにこのままやと金好が死んでまう。はよ助けたらなあかん。香澄は金好のこと頼むで」

「分かった！」

　二人は家に飛び込んだ。
　扉の鍵を閉め、玄関で金好をうつ伏せに寝かせる。
　金好の呼吸は荒い段階を超えて弱まっており、今にも止まりそうだ。

「よっしゃ間に合った」

　金好が生きているのを確認して、香澄は安心する。
　これなら助けられる、と。
　だが、うかうかしていられる状況ではない。
　香澄は乱暴な手つきで金好の背中から矢を引っこ抜く。
　それによって血が溢れ出すが気にしない。
　香澄には切り札があるからだ。

「はよ起き！」

　それが回復魔法〈ヒール〉だ。
　効果は絶大で、対象のあらゆる怪我を一瞬で治療する。
　香澄が魔法を発動すると、金好の傷口が瞬時に塞がった。

「助かったんか、俺」

　金好の意識が戻る。

「死ぬかと思ったで、世話やかしなや」

「生き返ったんか、金好！」

　二人に背中を向けた状態で言うアベヤス。
　彼は家の中に隠れていた魔物と戦っている。

「そもそも死んでへんから助かったんや」

　金好は笑いながら突っ込む。
　そして、算盤を握りしめながら立ち上がった。

「ちょいと驚いたが問題あらへん。ボスまで突っ込むぞ。作戦は変わらずや。オーパイ状態の迫撃で宮殿の入口を砲撃できるようにして、ボスを外までおびき寄せる。ええな？」

「「了解！」」

　無事に立て直すと、金好ＰＴは作戦を続行した。

　◇

　同刻、佐竹和博はＮＰＣ軍団を率いて大通りを進んでいた。

（本当に弱いな、こいつら……）

　ＮＰＣ軍団は遅いだけでなく弱い。
　単体の戦闘力はゴブリンに劣る程である。
　だから、佐竹はＮＰＣを盾に攻撃する戦術を採用していた。

「フンッ！」

　毎分1発、佐竹は左手に持ったＧ２ボウガンで矢を放つ。
　矢が敵を撃ち抜く度、ＮＰＣ隊の隊長ジンバが「お見事です」と拍手する。
　佐竹にはその拍手が心地よかった。

「理子、いいぞ、その調子だ」

　佐竹が自身のＰＴに所属する1年の山川理子に声を掛ける。

「はい！　部長！」

　芋臭い顔をした黒髪セミロングの理子は必死にラケットを振るう。

　彼女は佐竹のお気に入りだ。
　自分に従順で、何よりもモテそうにない雰囲気が良い。
　陽キャラに奪われることなく、安心して口説けると考えていた。

「部長、敵が多すぎます。〈グラビティゾーン〉の使用許可を！」

　もう一人の女子部員こと久原くはら真紀が言う。
　芋臭い顔をした黒髪ショートの2年だ。
　彼女は悠一のお古である刀で戦っていた。

「今は温存しろ、甘えるな」

　佐竹は真紀に対して厳しい。
　なぜなら佐竹は、去年の冬、真紀に振られたからだ。
　直接的に告白したわけではない。間接的に玉砕した。

　当時はＩＴ研究部で唯一の女子部員だった真紀に、佐竹は一目惚れした。
　理由は自分に対して優しく、それでいて地味な容姿だから。
　この女なら安心して口説けるに違いない、と佐竹は考えていた。

　佐竹は半年を費やし、真紀にネチネチとアピールした。
　自分の好きなアニメをマシンガンの如くオススメし、自分の好きなアニソン歌手をガトリングガンの如く押し付け、真紀が困っている時はググって得た知識を元に博識ぶって対応した。

　こういった努力の末、佐竹は勘違いした。
　真紀も自分に気があるはず、と。そして玉砕した。
　クリスマスに告白しようとデートに誘ったところ「彼氏と過ごす」と言われたのだ。

　その彼氏とは、同じＩＴ研究部の同級生であり、幽霊部員の男。
　同じＰＴで戦う三年の広沢だ。
　真紀が入部して以降、広沢が部に顔を出したのは1度しかない。
　新入部員の歓迎会を行った4月の初旬だ。
　広沢はその時に真紀と知り合い、1ヶ月後には付き合っていた。

　佐竹がそのことを知ったのはクリスマスの直前。
　彼はずっと、真紀には彼氏がいないものだと思っていた。
　それが実は彼氏がいて、しかも部に1度しか顔をだしていない男ときた。
　自分と大して変わりない陰キャラ臭い男。

　佐竹の心はズタボロだった。
　だが、ほどなくして立ち直る。
　真紀に対して冷たくなったのは、それからだ。

　自分のアイデンティティーを守る為、真紀をビッチ認定した。
　思わせぶりな態度で男をたぶらかすクソ女だ、と。
　真紀が「佐竹先輩がしつこいんです」と周囲に相談していた事実は知らない。

（このクエストでカッコイイ所を見せたら、理子に告白しよう。真紀の時は俺のアプローチが遅すぎた。今度は疾風の如き速度で決めるぞ）

　理子をモノにするべく、佐竹は頑張る。
　理子が同じＰＴで副部長の鈴木と恋仲であることを知らずに――。

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