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012 日常:昼休憩

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 昼休憩になる。
 当たり前のように弁当を忘れた俺は、食堂へ向かった。

「……今日は昼飯抜きでいいな」

 だが、食堂が混んでいるのを見て諦めた。
 俺は並ぶという行為が大嫌いなのだ。
 這々ほうほうていで教室へ戻ると、俺の席に志乃亜が座っていた。

「私のお弁当、分けてあげよっか?」

 当たり前のように俺の席で弁当箱を展開する志乃亜。
 その様子を多くの男子が勃起しながら眺めていた。
 今朝のチャラ男もそうだったが、志乃亜はモテモテだ。
 明らかにこの学校のアイドルである。

「不要だ……と言いたいが分けてくれ。腹が減った」

 隣の席から椅子を持ってきて座る。

「いいよー! 何が欲しい? タコさんウインナー?」

「うむ。いただくぜ」

 弁当箱に手を伸ばし、ウインナーに刺さった爪楊枝を掴む。

「そのウインナー、私の手作りなんだよ。味わって食べてね」

「すごいな、わざわざ腸に挽き肉を詰めて作ったのか」

「そんな前から作ってないって! もー、わざと言ってるでしょ」

「俺なりのジョークだ」

 志乃亜が「あはは」と笑う。
 俺も軽く口角を上げ、ウインナーをペロリ。
 すごく久々となる家庭の味で、通常よりも美味しく感じた。

 周囲の男子から俺を羨む声が聞こえてくる。
 彼らは言っていた。「これだけは分かる。嫉妬だ」と。

「志乃亜って俺以外に友達いないの?」

 弁当の具をつまみながら尋ねる。
 志乃亜は「ひどっ!」と驚きながら呆れた。

「私にだっているから! 友達!」

「本当かよ。今もこうして俺と食べているけど」

「不登校だったし友達がいないと思って配慮してあげたのよ」

「気遣いが出来る女アピールか。流石だな」

「その言い方なんかむかつくー!」

 などと言いつつも笑う志乃亜。

「それに、私の友達はNPCになっちゃったんだよね」

 ここで一気に雰囲気が変わる。
 軽い調子だったのが、急に重くなった。

「そうだったのか。それは悪いことを訊いたな」

「ううん、問題ないよ。それにしても、NPCって凄いよね。人間みたい」

「知らない奴だとPCとの違いが分からないもんな」

 俺は視線をずらして大杉を見る。
 大杉は一人で弁当を食べていた。
 見た目と行動が全く一致していない。
 PCの頃は仲間と食べていたはずだ。

「大杉、一緒に食うか?」

 なんとなく声を掛けてみた。
 教室に居た人間が一斉に雑談を止めて聞き耳を立てる。
 丸眼鏡の女が見たら発狂しそうだが、彼女はこの場に居ない。

「ありがとう、綾杉。でももう食べ終わるから遠慮するよ」

「そうか、じゃあまた今度な」

「ああ、今度は一緒に食べよう」

 大杉との会話を終える。

「悠一君、もしかしてあの人」

「そう、NPCだ」

「言われないと分からないよね……本当に」

「NPCは完成度が高すぎてやばいよ。世界中の高校生がNPCになっても、この様子なら何の支障も無い。それって怖いことだと思わないか?」

「たしかに」

「でも、もしかしたらNPCばかりのほうがいいかもしれないぜ」

「どうして?」

「間違いなく犯罪は激減するからな」

「あっ、たしかに」

 NPCは退屈な真面目ちゃんだ。
 全員がNPCなら、悪いことをする奴はいない。
 国民総真面目ちゃん……まさに理想の世界だろう。

「でも、絶対につまらないんだよなぁ、そんな世界」

「私もそう思う」

「だから俺達は絶対に死なないで生き残らないと」

「うん。次は私も頑張るからね。次がいつかは分からないけど」

「良い心がけだ――卵焼きもらい!」

「あー! 最後に食べようと残しておいたのに!」

「はっはっは」

 志乃亜の弁当を堪能する。
 どう見てもカップルのような雰囲気で楽しく過ごす。
 志乃亜みたいな女が彼女なら最高だろうな、などと思った。

 だが、彼女を作るつもりはない。
 彼女を作ると、そいつとしかセックスできないからな。
 今の俺はたくさんの女とセックスしたいから、彼女はお断りだ。
 ムラムラしてきたし、今日も帰ったらデリヘルを注文するとしよう。

 そんなことを考えていると、放送が流れた。

『3年1組の綾杉悠一君』

 スピーカーから俺の名が呼ばれる。
 用件を言う前に、2度もクラス名と名前を呼ばれた。

「俺に何の用だろう?」

「落第だったりして!」

「あり得るけど、その場合ってクエストはどうなるんだ?」

「高校生じゃなくなるから終わるのかな?」

「気になるけど自分で試すのは嫌だな。人柱を待つか――で、何の用だろう」

 放送の続きに耳を傾ける。

『校長先生がお呼びです。至急、校長室へお越し下さい』

「校長先生が俺を?」

「ちょっと、本当に落第しちゃうんじゃないの? 不登校だし」

 心配そうな志乃亜。

「それはないはずだけど……校長とは話がついているし」

「どういうこと?」

「マックドポテトで話すよ。今は校長室に行ってくる」

 俺は「悪いな」と志乃亜に謝ってから席を立ち、校長室へ向かった。
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