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021 サトウキビジュース

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 サトウキビジュースで荒稼ぎしようと動き出して一週間。

 私はポンポコタウンで待機していた。
 温かみのある木の家々を眺めながら、町の中央でぼんやり過ごす。

「お!」

 クリストとイアンがやってきた。
 二人は私の作った竹籠を背負っていて、籠の中はパンパンだ。
 瓶詰めされた作りたてのサトウキビジュースが入っている。

「おかえりなさい。ボブたちに襲われなかった?」

「ああ! それどころかサトウキビの伐採を手伝ってくれたぞ!」

「兄者なんて顔を舐められていたぜ!」

「それは何よりね」

 ふふ、と笑う。

「シャロンのおかげだよ! コレを着けるだけで安全になるなんてな!」

 クリストのいうコレとは腕章のことだ。
 クマと思しきシルエットの刺繍が施されている。

 私の手作りだ。
 ただ、これ自体は市販品にいくらでも似たものがある。

「その腕章には魔法が掛けてあるからね」

 もちろん比喩表現。
 賢者の国ハーメルンの者たちと違って本当には使えない。

「とにかく、私がいなくても安全に作業ができることが確定したわね。サトウキビジュースの製造自体はどう? 難しかった?」

「いや、全然! イアンでも余裕だったぞ!」

「そーだそーだ! 俺でも余裕だったぞ! がははは!」

「なら楽勝ね。先行投資した甲斐があったわ」

 サトウキビの自生地に作業小屋をこしらえた。
 中には圧搾機と瓶詰めの際に使うろうし布がある。
 搾りたてのジュースを濾し布に通し、漏斗で瓶に詰めるという流れ。
 小屋を自分で建築したこともあり、投資額は20万程度で済んだ。

「全て問題ないことだし、今からは私も手伝うよ。残りの瓶にもジュースを詰めて国が運営する氷室の保管庫に預けましょ」

「「了解!」」

 サトウキビジュースの販売は週3回を予定している。
 仕込みと販売を交互に繰り返し、空いた7日目は休日の予定。
 人員が増えれば毎日販売も可能だが、その前に売却するつもりだ。

 ◇

 翌日。
 今年は例年よりも暑いらしく、気温は35度に迫っていた。
 もはや立っているだけでも汗がだらだらと流れる。
 絶好の商機だ。

「久しぶりにお店を始めますよー! サトウキビジュースはいかがですかー!」

「キンキンに冷えていて美味いぞー!」

「レミントン王国名物サトウキビジュース! ルーベンスで飲めるのはココだけだ!」

 三台の屋台を並べて声を張り上げる。
 串焼き屋の時と違い、三台分のお金を役所に支払った。
 二台目以降が割増料金だとは知らなかったが問題ない。

「サトウキビジュースって何だぁ?」

「昔ルーベンスで飲んだことあるわよ。すごく甘いジュース!」

「へぇ興味深いのう、どれ、ワシら夫婦に売ってくれんか」

 老夫婦が私の前に立った。
 今のところ客はこの人らだけで、他は遠巻きに見ている。
 サトウキビジュースに縁が無いから分からないのだろう。

「一本2000ゴールドになりまーす!」

「飲み物に一本2000ゴールドとは強気な価格設定じゃのう」

「ウチは品質重視なので! 鮮度と糖度が最高ですよ! ルーベンスで売られているサトウキビジュースと違って水で薄めてもいませんからご安心を!」

「サトウキビが何か知らんが、どれどれ……」

「楽しみだわねぇ」

 老夫婦が私からジュースの瓶を受け取る。
 まずは冷たさに笑みを浮かべたあと、ジュースを飲み――。

「こりゃすごい! なんという甘さじゃ!」

「本当! こんなに美味しいサトウキビジュースは初めて飲むわ!」

 ――案の定、大興奮。
 お爺さんのほうはグビグビと一気飲みした。

「シャロンちゃん、おかわりをくれんか」

「もちろんです! まいどありー!」

 このやり取りを見て町民が集まってきた。

「サトウキビジュース美味しそうねぇ!」

「ワシにも試しに売ってくれー!」

「こっちにも頼むー!」

 ガンガン注文が入る。
 そして、飲んだ町民はもれなく大絶賛。
 興奮の声が客を呼び、串焼き屋の時みたいに人が増える。
 初動は完璧だ。

「いらっしゃいませー!」

「早くしないと売れ切れちまうぞー!」

「レミントンでもここまで美味いのは飲めないぜー!」

 三人で声を張り上げて売りまくる。
 その結果、この日は営業開始から3時間で500個が完売した。

 売上はちょうど100万ゴールド。
 瓶代が1個50ゴールドなので、それを差し引くと975万の儲けになる。
 保管庫の賃料は月に5万もするが、1日であっさり回収できた。
 私たちの人件費や屋台の賃料を差し引いても余裕の黒字だ。

「お久しぶりです、シャロン様。商売への復帰おめでとうございます。明日以降は再び追加分の屋台を無料にしますので、遠慮なくご利用ください」

 串焼き屋の商売でお世話になった役人がやってきた。

「シャロンさん、お久しぶりです。新しい商売を始めたと聞いて飛んできました。いやぁ、まさかルーベンスでサトウキビジュースとは! 私も飲みましたがとんでもない美味しさで感激です。是非とも取材させてください!」

 さらに耳の早いローカル紙の記者もやってきた。
 私は二つ返事で承諾し、記者の取材に応じる。

 初日は文句なしの大成功だ。
 今後は他所の街からも多くの客が訪れるだろう。

 しかし問題ない。
 今回は様子見するため販売数を意図的に抑えていた。
 その気になれば私たちだけでも無理なく数倍に増やすことができる。
 仕入れと販売を別々の日に行うから効率がいいのだ。

 この日、私たち三人は久しぶりに贅沢なディナーで盛り上がった。
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