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017 熟考するシャロン
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それから三日三晩、私は新たな商売について考えた。
ベッドの上で正座し、時には寝そべり、考えに考えた。
が、浮かばない。
どれだけ考えても、後々売却できるような事業を閃かなかった。
商品自体は無数に浮かぶのだが、どれも私抜きでは回らない。
どうにもならないのでトムに愚痴も兼ねて相談することにした。
しかし、トムは忙しいので電話を掛けても出てくれない。
だから出るまで延々と掛け続けた。
そしてうんざりした声の彼に、遠慮することなく捲し立てた。
すると――。
『そんな簡単に閃いたら苦労しねぇよ! つか俺だっていつでも娼館に入り浸ってるわけじゃねぇんだ! 掛けてくるなら営業時間外にしろ! ボケ! アホ!』
怒られた。
なんとも冷たい男である。
「じゃあヒントちょうだいよ! ヒント!」
『そんなもんあったら俺が知りてぇよ!』
「はぁー! トムさんつっかえない!」
『なんて言い草だ。ま、俺から言えることは二つだ』
「二つも!? なになに!」
『一つは考えて閃かない時は息抜きをしろ。シャロンとの付き合いは短いが、こう見えて人を見る目はあるから、君の性格については分かっている。どうせ三日ずっと部屋の中でウンウンウンウンと唸っていたのだろう』
「ギクッ」
物の見事に当たりだ。
『だから外に出ろ。太陽の光を浴びて、新鮮な空気を吸って、美味いもの食って、いい女を抱い……っと、これは余計だな。ゴホンッ、とにかく、そうやってスカッとした生活を送って頭をリフレッシュさせるんだ』
「分かったよ! で、もう一つは?」
『これは非常に大事なことだ。なんならこっちのほうが大切とまで言ってもいい。ちゃんと耳の穴かっぽじって聞けよ』
えらくもったいつけてくる。
よほど凄い情報のようだ。
「いいよ! 音量も最大に上げた! 耳も痛いくらいくっつけてる!」
『じゃあ言うぞ』
「うん!」
トムがスゥーと息を吸った。
と思いきや。
『今度から営業時間外に電話を掛けてこい! 俺は親じゃねぇんだよ! 子供扱いされて怒る大人なんだろ! 弁えろ! バカ!』
トムのバカみたいに大きな声が響く。
耳がきーんとして頭がくらくらした。
「何を言い出すかと思えばトムさ――」
ツーツー、ツーツー。
「切れてるし……」
やれやれ、なんとも冷たい男だ。
しかし、トムのおかげで今日の行動が決まった。
「外に出て新鮮な空気を吸うぞー!」
◇
思えば町の外に出たのも三日ぶりだった。
この数日は宿屋の食堂でご飯を食べていたのだ。
お風呂も宿屋内の大浴場で済ませていた。
混浴という名の男湯だったが気にしていない。
むしろ男性陣が私に気を遣ってくれた。
「あー! 空気が美味しい! ボロっちい宿屋の埃ぽい空気とは大違い!」
宿屋から「うるせー!」という店主の声が響く。
長らくお世話になっているだけあって、すっかり仲良しになっていた。
「とりあえず森に行って川釣りでもしよっと!」
私にとって息抜きに最適な場所は森だ。
隙あらば喰い殺そうとしてくる野生動物と戯れているほうがいい。
ということで、町の外に向かう。
「おー、シャロンちゃんじゃないか」
「本当だ、シャロンちゃん、なんだか久しぶりに感じるわねぇ」
老夫婦が話しかけてきた。
この町の人で、名前は知らないが顔には見覚えがあった。
「こんにちはー!」
「シャロンちゃんや、ワシらのために頑張ってくれてありがとうなぁ」
「無理させてごめんねぇ」
老夫婦がペコリと頭を下げる。
串焼き屋を廃業した件について言っているのだろう。
大まかな理由については知れ渡っている。
立て看板や新聞などでアナウンスしてもらったからだ。
他所から串焼きを求めてくる人もいなくなった。
「無理だなんてとんでもない。私こそ楽しみにしてもらっていたのに閉めちゃってごめんなさい」
うわぁぁぁ、と心の中で叫ぶ。
罪悪感がすごかった。
「そんなことねぇさ。あれだけ美味しい魚の串焼きを食えただけ十分ってもんよ」
「本当にねぇ。なんだか若い頃に戻った気がしたものね」
「そう言っていただけて何よりです」
「じゃあなぁ、シャロンちゃん、良い一日を」
老夫婦が笑顔で去っていく。
その後も多くの町民から同じように声を掛けられた。
皆の温かさに涙が出そうになる。
「作業量を減らしてまた串焼き屋をやろっかなぁ」
そんな考えも脳裏によぎる。
と、そこへ――。
「いた! シャロン!」
クリストだ。
イアンと一緒に駆け寄ってきた。
「あら戻ったのね、おかえりなさい」
二人は別の町へ遊びに出ていた。
「ただいま! って、それよりシャロン、大事な話があるんだ」
クリストが真剣な顔で言った。
ベッドの上で正座し、時には寝そべり、考えに考えた。
が、浮かばない。
どれだけ考えても、後々売却できるような事業を閃かなかった。
商品自体は無数に浮かぶのだが、どれも私抜きでは回らない。
どうにもならないのでトムに愚痴も兼ねて相談することにした。
しかし、トムは忙しいので電話を掛けても出てくれない。
だから出るまで延々と掛け続けた。
そしてうんざりした声の彼に、遠慮することなく捲し立てた。
すると――。
『そんな簡単に閃いたら苦労しねぇよ! つか俺だっていつでも娼館に入り浸ってるわけじゃねぇんだ! 掛けてくるなら営業時間外にしろ! ボケ! アホ!』
怒られた。
なんとも冷たい男である。
「じゃあヒントちょうだいよ! ヒント!」
『そんなもんあったら俺が知りてぇよ!』
「はぁー! トムさんつっかえない!」
『なんて言い草だ。ま、俺から言えることは二つだ』
「二つも!? なになに!」
『一つは考えて閃かない時は息抜きをしろ。シャロンとの付き合いは短いが、こう見えて人を見る目はあるから、君の性格については分かっている。どうせ三日ずっと部屋の中でウンウンウンウンと唸っていたのだろう』
「ギクッ」
物の見事に当たりだ。
『だから外に出ろ。太陽の光を浴びて、新鮮な空気を吸って、美味いもの食って、いい女を抱い……っと、これは余計だな。ゴホンッ、とにかく、そうやってスカッとした生活を送って頭をリフレッシュさせるんだ』
「分かったよ! で、もう一つは?」
『これは非常に大事なことだ。なんならこっちのほうが大切とまで言ってもいい。ちゃんと耳の穴かっぽじって聞けよ』
えらくもったいつけてくる。
よほど凄い情報のようだ。
「いいよ! 音量も最大に上げた! 耳も痛いくらいくっつけてる!」
『じゃあ言うぞ』
「うん!」
トムがスゥーと息を吸った。
と思いきや。
『今度から営業時間外に電話を掛けてこい! 俺は親じゃねぇんだよ! 子供扱いされて怒る大人なんだろ! 弁えろ! バカ!』
トムのバカみたいに大きな声が響く。
耳がきーんとして頭がくらくらした。
「何を言い出すかと思えばトムさ――」
ツーツー、ツーツー。
「切れてるし……」
やれやれ、なんとも冷たい男だ。
しかし、トムのおかげで今日の行動が決まった。
「外に出て新鮮な空気を吸うぞー!」
◇
思えば町の外に出たのも三日ぶりだった。
この数日は宿屋の食堂でご飯を食べていたのだ。
お風呂も宿屋内の大浴場で済ませていた。
混浴という名の男湯だったが気にしていない。
むしろ男性陣が私に気を遣ってくれた。
「あー! 空気が美味しい! ボロっちい宿屋の埃ぽい空気とは大違い!」
宿屋から「うるせー!」という店主の声が響く。
長らくお世話になっているだけあって、すっかり仲良しになっていた。
「とりあえず森に行って川釣りでもしよっと!」
私にとって息抜きに最適な場所は森だ。
隙あらば喰い殺そうとしてくる野生動物と戯れているほうがいい。
ということで、町の外に向かう。
「おー、シャロンちゃんじゃないか」
「本当だ、シャロンちゃん、なんだか久しぶりに感じるわねぇ」
老夫婦が話しかけてきた。
この町の人で、名前は知らないが顔には見覚えがあった。
「こんにちはー!」
「シャロンちゃんや、ワシらのために頑張ってくれてありがとうなぁ」
「無理させてごめんねぇ」
老夫婦がペコリと頭を下げる。
串焼き屋を廃業した件について言っているのだろう。
大まかな理由については知れ渡っている。
立て看板や新聞などでアナウンスしてもらったからだ。
他所から串焼きを求めてくる人もいなくなった。
「無理だなんてとんでもない。私こそ楽しみにしてもらっていたのに閉めちゃってごめんなさい」
うわぁぁぁ、と心の中で叫ぶ。
罪悪感がすごかった。
「そんなことねぇさ。あれだけ美味しい魚の串焼きを食えただけ十分ってもんよ」
「本当にねぇ。なんだか若い頃に戻った気がしたものね」
「そう言っていただけて何よりです」
「じゃあなぁ、シャロンちゃん、良い一日を」
老夫婦が笑顔で去っていく。
その後も多くの町民から同じように声を掛けられた。
皆の温かさに涙が出そうになる。
「作業量を減らしてまた串焼き屋をやろっかなぁ」
そんな考えも脳裏によぎる。
と、そこへ――。
「いた! シャロン!」
クリストだ。
イアンと一緒に駆け寄ってきた。
「あら戻ったのね、おかえりなさい」
二人は別の町へ遊びに出ていた。
「ただいま! って、それよりシャロン、大事な話があるんだ」
クリストが真剣な顔で言った。
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