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031 イフリート
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イフリートは洞窟の最奥部で僕達を待っていた。
何もない円形のだだっ広い空間で突っ立っている。
馬鹿正直に最奥部から動かないのはゲーム時代の名残だろう。
僕がイフリートなら洞窟内を徘徊する。
なんだったら洞窟内で留まらずに外へ行くだろう。
こんなところで引きこもっているなんてもったいない。
ちなみにイフリートの見た目は僕の想像に近かった。
身長は約2メートル半で、パンツ代わりに腰蓑のようなものを纏っている。
髪の毛は生えておらずツルピカで、プロ野球選手のような筋肉の付き具合。
首には炎のマフラーを巻いていた。
イフリートは僕達を見ているが動かない。
桜宮さん曰く、「テリトリーに入っていないから」らしい。
もう少し近づくと動き始めるそうだ。
なぜ洞窟全域をテリトリーにしないのだろう?
僕はそのことが気になったけれど、訊かないでおいた。
「イフリートは直線的な攻撃しかしない。だからそれを避けてカウンターを叩き込むヒットアンドアウェイ戦法が効果的。一撃は重いし速いけど、直線状にしか飛ばないから射線を把握していれば避けられる。敵の攻撃モーションに目を凝らして」
桜宮さんが真剣な表情でアドバイスをくれる。
しかし、僕には難しすぎてよく分からなかった。
おそらく桜宮さんは簡単に話しているつもりなのだろう。
「とにかく攻撃を待って、避けて、反撃……でいいの?」
「そうだよ」
「分かった」
僕達は左右に展開していく。
「いくよ、友沢君」
「了解」
桜宮さんの合図で僕達は突っ込んだ。
するとイフリートの目がキラーンと光る。
「我、汝、殺す」
イフリートが動き始めた。
最初に桜宮さんの方へ身体を向けた。
「私を狙うつもりだ! 友沢君、攻めて!」
「分かった!」
僕はイフリートを目指してダッシュ。
イフリートは桜宮さんに火の玉を飛ばした。
サラマンダーのものよりも遥かに大きな玉だ。
それでいて速い。
「桜宮さん!」
「問題ないよ!」
桜宮さんがひらりと攻撃を躱す。
その際、スカートがふわりと浮き上がった。
パンツが見えそうで見えない。
僕は見えろと念じた。
「なんで足を止めているの! 走って!」
桜宮さんに怒られる。
「あ、ごめん」
僕は凝視を止めて走る。
「こんにゃろー!」
距離を詰めて剣を振り下ろす。
イフリートは炎の盾を召喚し、それで攻撃を防いだ。
攻撃を回避する敵は今までにもいたが、防御はコイツが初めて。
僕は「うっそぉん!?」と驚いた。
「反撃来るよ! 伏せて!」
「うん!」
言われた通りに慌てて伏せる。
次の瞬間、僕の頭上を火の玉が走っていった。
その時に気づいたが、拳を振ると火の玉が出る仕組みらしい。
てっきり口から吐いているのかと思っていた。
「カウンター!」
桜宮さんが叫ぶ。
僕は「言われなくても!」と言われてから動いた。
「グォォォォ! 汝、我に傷を……!」
僕の攻撃がイフリートの足に直撃。
これまでの敵と違い、豆腐のようにサクッとは切れない。
刃は皮膚にめり込むも、切断できずに止まった。
僕は慌てて剣を引き抜き、横にクルクルと転がって距離をとる。
「隙あり!」
そこへ桜宮さんが襲い掛かる。
「させぬ」
イフリートはスッと滑るように移動して回避。
空を切った桜宮さんのハンマーは――。
「ぎょえええええええええ!? 桜宮さん!?」
「ごめん、大丈夫?」
「死ぬかと思ったよ!」
「生きているなら問題なし!」
――僕の真横に叩きつけられた。
目と鼻の先というか、鼻にかすめるレベルの先だ。
そのため、地面に打ち付けられた時の衝撃波が顔に届いた。
「流石はボス、やるわね」
「僕は桜宮さんのほうが怖いよ……」
G3ハンマーは桜宮さんの筋力だとやや重すぎるようだ。
グレードが上がると軽くなるらしいから、早くG5くらいになってほしい。
今のままだと僕はいつ顔面をミスヒットされて死んでしまうか分からない。
桜宮さんに殺されるのはある種の幸せだけど、痛いのはゴメンだ。
前回は即死だったから痛みはなかったけどさ。
「いい感じに攻めることができてるよ。この調子ならいずれ倒せる」
「桜宮さんが僕を殴り殺さなければね」
「次はちゃんと当てるから」
「僕の顔に?」
「敵によ」
桜宮さんがプクゥっと頬を膨らませた。
なんと可愛いことか。
「これが終わったら帰れるんだよね?」
「そうよ。帰ったら約束通り私をめちゃくちゃにさせてあげる」
「ほんとに!?」
「ほんとに。だから頑張ってね」
「うん! 頑張る!」
このやり取りで僕はパワーアップした。
全ての能力が3倍になり、驚異的な強さを発揮する。
「さっさと死ね! 僕は桜宮さんとイチャイチャしたいんだ!」
「な、なんだ、この力は……! 汝、本当に人間……か……!?」
僕に圧倒されるイフリート。
そして――。
「トドメ!」
桜宮さんが背後からイフリートを殴り殺した。
背中に強烈な一撃をもらったイフリートは、断末魔の叫びすら上げずに死亡。
僕達は特に怪我をすることなく勝つことができた。
「よーし帰ろう!」
感慨に耽ることもなく洞窟の外へ向かおうとする僕。
「待って、友沢君」
桜宮さんが止めてくる。
「なに? キスでもしてくれるのかな?」
「違うよ、あそこ、宝箱がある!」
最初にイフリートが居た場所を指す桜宮さん。
そこには立派な宝箱が置いてあった。
「いつの間に!?」
「ボスを倒すと宝箱が出る――アルプロと同じだね」
「はやく開けよう!」
「うん!」
僕達は宝箱に駆け寄った。
「ほら、桜宮さん、宝箱を開けなよ」
「いやいや、友沢君が開けて。私より頑張ったんだから」
「そうかな?」
「そうだよ。今回の勝利は友沢君のおかげ。道中も私は駄目駄目だったし。だから友沢君が開けるべきだよ」
「そこまで言うなら一緒に開けよう」
「優しいね」
桜宮さんが「ふふっ」と笑う。
僕は「でへへ」とニヤけた。
それから僕達は仲良く宝箱に手を掛ける。
「開けるよ、桜宮さん」
「うん」
せーの、と合図して一緒に開けた。
何もない円形のだだっ広い空間で突っ立っている。
馬鹿正直に最奥部から動かないのはゲーム時代の名残だろう。
僕がイフリートなら洞窟内を徘徊する。
なんだったら洞窟内で留まらずに外へ行くだろう。
こんなところで引きこもっているなんてもったいない。
ちなみにイフリートの見た目は僕の想像に近かった。
身長は約2メートル半で、パンツ代わりに腰蓑のようなものを纏っている。
髪の毛は生えておらずツルピカで、プロ野球選手のような筋肉の付き具合。
首には炎のマフラーを巻いていた。
イフリートは僕達を見ているが動かない。
桜宮さん曰く、「テリトリーに入っていないから」らしい。
もう少し近づくと動き始めるそうだ。
なぜ洞窟全域をテリトリーにしないのだろう?
僕はそのことが気になったけれど、訊かないでおいた。
「イフリートは直線的な攻撃しかしない。だからそれを避けてカウンターを叩き込むヒットアンドアウェイ戦法が効果的。一撃は重いし速いけど、直線状にしか飛ばないから射線を把握していれば避けられる。敵の攻撃モーションに目を凝らして」
桜宮さんが真剣な表情でアドバイスをくれる。
しかし、僕には難しすぎてよく分からなかった。
おそらく桜宮さんは簡単に話しているつもりなのだろう。
「とにかく攻撃を待って、避けて、反撃……でいいの?」
「そうだよ」
「分かった」
僕達は左右に展開していく。
「いくよ、友沢君」
「了解」
桜宮さんの合図で僕達は突っ込んだ。
するとイフリートの目がキラーンと光る。
「我、汝、殺す」
イフリートが動き始めた。
最初に桜宮さんの方へ身体を向けた。
「私を狙うつもりだ! 友沢君、攻めて!」
「分かった!」
僕はイフリートを目指してダッシュ。
イフリートは桜宮さんに火の玉を飛ばした。
サラマンダーのものよりも遥かに大きな玉だ。
それでいて速い。
「桜宮さん!」
「問題ないよ!」
桜宮さんがひらりと攻撃を躱す。
その際、スカートがふわりと浮き上がった。
パンツが見えそうで見えない。
僕は見えろと念じた。
「なんで足を止めているの! 走って!」
桜宮さんに怒られる。
「あ、ごめん」
僕は凝視を止めて走る。
「こんにゃろー!」
距離を詰めて剣を振り下ろす。
イフリートは炎の盾を召喚し、それで攻撃を防いだ。
攻撃を回避する敵は今までにもいたが、防御はコイツが初めて。
僕は「うっそぉん!?」と驚いた。
「反撃来るよ! 伏せて!」
「うん!」
言われた通りに慌てて伏せる。
次の瞬間、僕の頭上を火の玉が走っていった。
その時に気づいたが、拳を振ると火の玉が出る仕組みらしい。
てっきり口から吐いているのかと思っていた。
「カウンター!」
桜宮さんが叫ぶ。
僕は「言われなくても!」と言われてから動いた。
「グォォォォ! 汝、我に傷を……!」
僕の攻撃がイフリートの足に直撃。
これまでの敵と違い、豆腐のようにサクッとは切れない。
刃は皮膚にめり込むも、切断できずに止まった。
僕は慌てて剣を引き抜き、横にクルクルと転がって距離をとる。
「隙あり!」
そこへ桜宮さんが襲い掛かる。
「させぬ」
イフリートはスッと滑るように移動して回避。
空を切った桜宮さんのハンマーは――。
「ぎょえええええええええ!? 桜宮さん!?」
「ごめん、大丈夫?」
「死ぬかと思ったよ!」
「生きているなら問題なし!」
――僕の真横に叩きつけられた。
目と鼻の先というか、鼻にかすめるレベルの先だ。
そのため、地面に打ち付けられた時の衝撃波が顔に届いた。
「流石はボス、やるわね」
「僕は桜宮さんのほうが怖いよ……」
G3ハンマーは桜宮さんの筋力だとやや重すぎるようだ。
グレードが上がると軽くなるらしいから、早くG5くらいになってほしい。
今のままだと僕はいつ顔面をミスヒットされて死んでしまうか分からない。
桜宮さんに殺されるのはある種の幸せだけど、痛いのはゴメンだ。
前回は即死だったから痛みはなかったけどさ。
「いい感じに攻めることができてるよ。この調子ならいずれ倒せる」
「桜宮さんが僕を殴り殺さなければね」
「次はちゃんと当てるから」
「僕の顔に?」
「敵によ」
桜宮さんがプクゥっと頬を膨らませた。
なんと可愛いことか。
「これが終わったら帰れるんだよね?」
「そうよ。帰ったら約束通り私をめちゃくちゃにさせてあげる」
「ほんとに!?」
「ほんとに。だから頑張ってね」
「うん! 頑張る!」
このやり取りで僕はパワーアップした。
全ての能力が3倍になり、驚異的な強さを発揮する。
「さっさと死ね! 僕は桜宮さんとイチャイチャしたいんだ!」
「な、なんだ、この力は……! 汝、本当に人間……か……!?」
僕に圧倒されるイフリート。
そして――。
「トドメ!」
桜宮さんが背後からイフリートを殴り殺した。
背中に強烈な一撃をもらったイフリートは、断末魔の叫びすら上げずに死亡。
僕達は特に怪我をすることなく勝つことができた。
「よーし帰ろう!」
感慨に耽ることもなく洞窟の外へ向かおうとする僕。
「待って、友沢君」
桜宮さんが止めてくる。
「なに? キスでもしてくれるのかな?」
「違うよ、あそこ、宝箱がある!」
最初にイフリートが居た場所を指す桜宮さん。
そこには立派な宝箱が置いてあった。
「いつの間に!?」
「ボスを倒すと宝箱が出る――アルプロと同じだね」
「はやく開けよう!」
「うん!」
僕達は宝箱に駆け寄った。
「ほら、桜宮さん、宝箱を開けなよ」
「いやいや、友沢君が開けて。私より頑張ったんだから」
「そうかな?」
「そうだよ。今回の勝利は友沢君のおかげ。道中も私は駄目駄目だったし。だから友沢君が開けるべきだよ」
「そこまで言うなら一緒に開けよう」
「優しいね」
桜宮さんが「ふふっ」と笑う。
僕は「でへへ」とニヤけた。
それから僕達は仲良く宝箱に手を掛ける。
「開けるよ、桜宮さん」
「うん」
せーの、と合図して一緒に開けた。
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