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第1章
自信崩壊
しおりを挟む「お疲れ様でした」
「お疲れ様でございました」
国内ナンバー1の航空会社客室乗務員室で、ロンドンフライト終了後、同乗クルー同士で挨拶をしてみんなそれぞれに帰っていく。
アップにしていた髪を下ろして、少しその名残が髪にうねりとなっていて、
フルメイクの綺麗な卵形の顔とマッチし、「色っぽいな」と40代には見えない美しい先輩を見ながら美織は思った。
そして、ふと10年前の出来事に記憶が飛んだ。
あの美しい先輩に、少しは恩返しができているのだろうかと。
「今日からの3ヶ月間は、あなたたちの人生にとって一番灰色の人生となると思います。
座学の訓練の最終試験に合格できなければ、その時点で解雇となります。
それは契約書に書かれてあったとはずです。
あなたたちは、まだCA(客室乗務員、飛行機の中の人)ではありません。
訓練生です。わからないことはなんでも聞いて、訓練に合格して、一人前の客室乗務員になるよう頑張りましょう」
美織はこの華やかで美しい、でもビリッとした教官の言葉に、「しまった、なんか大変な会社に入ってしまった」と思ったことは、同期にさえ言っていない。
彼氏はいないのに、いや、だからこそ「仕事を一生懸命やっていたら、婚期が遅れる」と思ったりも、した。
確かにこの仕事は、いろんなところに行けたらいいなと思って受験したけど、
一回の受験でスルッと合格したので、訓練は大変だと聞いていたけど、「大丈夫でしょ」って
思ってた。
同期には、5回受験してやっと合格した、という者もいる。
一般的には、2回、3回受験して合格した人がほとんどで、
美織のように一回、一社で一発合格した人はほとんどいない、とわかってからは、
同期にさえそれを言わなくなった。
その自信は、入社式後のオリエンテーションで半分崩れた。
「既に暗記してきていただいたものは、理解しているということでテストだけ行います。
テストは毎日朝一番で行います。翌日には採点を終えて皆さんにお返ししますが、
80点以上の方の名前を発表します。80点以下の人たちは、教官室に来ていただきます。
皆さんはお客様の安全をお守りする仕事に就きます。いざという時に、知識が曖昧ではお客様のことを助けることなんてできません。そのための知識ですので、100点が
本来当たり前です。知らないことがあったら、わからないことはなんでも遠慮なく聞いてください。訓練生の時が、一番なんでも質問ができる時です。早速今日の課題を渡します」
そう言って分厚いマニュアル2冊と、プリントを配布された。
このプリントが明日のテストに出るらしい。
訓練生とは言え、毎日学びながらお給料がもらえる。
客室乗務員の辞令はもらっていないので、まだお給料は多くはないが、一応生活
して行けるくらいのお金はもらっている。
と言うことは、「好き、嫌い」で勉強するのではなく、「絶対に」やらないといけないのだと、
美織は思った。
「早く帰って勉強しよう」
そうつぶやいて、同期たちと京急の駅へ急いだ。
つづく
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