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サンタさんもたまには失敗する
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「みんなが笑っていた訳の方は、どうする?」
確かにそちら側も気になっていた。
「この話を持ってきたってことは、よっぽどの事が起きたんでしょ?もちろん聞くわよ」
「そんなにハードルは上げないで欲しいかも。せいぜい駐車場の縁石程度で聞いてもらえるとありがたいかな」
話を急いでいたのは、こういった思惑もあったのね。
「なんだ、それぐらいならお茶の話は聞かなかったのに。あの雰囲気を出されたら、こっちとしたら期待しちゃうわよ」
「勘違いしてるなぁー、って分かったから、かなり焦ってた。とりあえずオチを先に言っちゃうと、外箱の目立つ所に『超重要!僕のクリスマスプレゼントのため取り扱い注意!壊したらカオちゃんが悲しむ。カオちゃんを泣かせた奴は許さない!越中』なんてメモ書きが貼り付けてあったんだよね」
「あら、相棒にそんな事されたの?」
越中さんは私達のキューピッド的な役割を果たした人だ。
今ではべったりな二人だけれど、私と夫が知り合った時は、歳も離れていたせいか今ほど仲良くは無かった。言うなれば、イタズラ好きな越中さんが受け身な夫を気に入り、一方的に連れ回しているといった感じだった。
「本当にやめて欲しいよ、あのおじさん」
今では、本人の前でもこれぐらいの軽口なら言い合っている。
自分から場を盛り上げないけれど、楽しい場所にいるのが好きな夫。結婚してから会社の飲み会への参加などは控えていたけれど、越中さんと遊びに行くのだけは私が嫌な顔一つしなかったので、自然と回数が増えて二人の仲が深まった。
「お茶会が終わった後にデスクで仕事していたら、派遣の伊藤さんがニコニコしながら近付いて来るからさ、理由を聞いたらチョイチョイって手招きされたんだよ。一緒に書庫に行ったらそれが貼ってあって、耳真っ赤だったよ。伊藤さんの顔なんてもちろん見れないから表情の確認はできなかったけれど、肩が震えてたから笑ってるのは確実だろ。頑張って感謝の一礼だけして席に戻ったよ」
しっかりと聞いたら面白そうな話だった。これを聞けなかったのは残念に思う。
「相変わらずなのね、越中さんて」
そして、あなたも、相変わらずね。
困った時の越中頼み。そこから突破口を開こうとして見事に撃沈されたのね。こっちは怒ってもないのに変な人。
「越中さんに感謝だね」
「こっちも感謝って思って良いのかな。まぁ、同じところに自分の苗字も書くから、憎めない存在ではある」
「あなたより越中さんの方がダメージ大きいものね」
「そうなんだよね」
夫の笑顔に私もつられて笑ってしまう。
「優しい君が言うように感謝できる部分があるとしたら、箱の中身が何なのか一目瞭然で、それによりみんなからも大事にしてもらえるってところぐらいかな。……百歩譲ってだけれど」
夫は親しかったり心を許している男性に対して少し天邪鬼になる。夫と義理のお父さんが似ているところなのに、二人とも似ていないと認めない部分でもある。それこそが似ている点なのに、お互い言い合うばかりでそこに気が付いていないのが笑ってしまう。
「苦情を入れると、正攻法が思いつかないなんて言い訳をよくするんだけれど、あれだけ悪戯を思いつくんだったら信じられないだろ?もっと上手い方法思いついているはずなのに、なぜやらないんだよ」
理解できないと顔も物語っている。
「やらないんじゃなくて、やれないんじゃないの?」
「君みたいに恥ずかしがり屋さんなら、やれないってのはまだ分かるよ。あの人は目立ちたがり屋でそうじゃないし、なにより、こんなことするのは僕にだけなんだよ」
ちょっと待って。とは思うけれど今回は話の腰を折らないでおく。
「あなたに最大限のダメージを与えつつ、被害は最小限に抑えながら目的を達成するなんて、ものすごい才能よね」
「そう、だから余計に腹がたつ」
真っ直ぐに愛情を表現してくれたら、こっちだって素直になれるのに。不器用なんて言葉は甘えの言い訳だ。と、帰省から戻ってくる車内で鼻息を荒くしていた時と同じ感じで怒っている。
「かわいいと思ってくれているのは分かるけれど、態度がそうじゃないと嫌よね」
「そう、その通りだよ。でも、そういう人ってなぜか好きなんだよね」
愛情の掛け方は違うけれど、同じような人を知っている。
あなたのお父さんてそういう人なのに。これを言うと臍を曲げてしまうから言わないでおく。
それより、面白そうな話を聞き逃してしまったので、若干の物足りなさを感じてしまった。
「ねぇ、あの話してよ」
「今年もするの?」
「うん、お願い」
話の内容は、彼がプレゼントを楽しみに寝ていたら、物音で起きてしまい父親がプレゼントを置く所を見てしまうというありふれた話だ。何度もこのネタを話しているためか、お目当ての箇所まで詰まることなく言葉が連なる。
「こっちは『サンタさん!?』て思うじゃん」
ここから私の好きな所が出てくる。夫もそれを分かっているので、話に抑揚がついてくる。
「ドキドキしながらそーっと首を動かすと、暗闇でも見慣れてるから分かるだよね。あっ父ちゃんだ、って」
私は、ここの「父ちゃんだ」の言い方が好きだ。
どの辺が面白いかと聞かれたら答えるのに困ってしまう。
説明になるか分からないけれど、この話を始めて聞いた時は浅くない失恋を引きずっていて、それが原因で仕事や体調に不調をきたしていた。私の事情を知っているのに、その場のみんなはそれに触れないように、それぞれの笑い話や趣味の話をしてくれていた。
それまではみんなの優しさに応えたくて頑張っても上手く笑えなかったのに、この『父ちゃんだ』が無性におかしくて大笑いをしてしまった。悩んでるのがバカらしくなって、もうどうでもいっかって思えた。
その時の集合写真は記念としてリビングに飾ってある。そんな大切な話で心の隙間を埋めてもらおう。
「父親も僕が起きたのに気が付いたんだろうね。おもちゃを手に持ったまま「サンタの正体を妹に言ったらお前のプレゼントはなしだぞ」だって。その場を取り繕ったり、優しい嘘とかは一切なしのど直球。妹との格差は常日頃から感じてたよ」
今でもじーじは夫には厳しいが妹さんには甘い。
それでも、妹さん夫婦に香織より二歳年上の流花ちゃんが生まれてからは、孫会いたさに夫への態度は軟化している。親子喧嘩が嫌いな妹さんを下手に怒らせて、帰省しなくなったらたまらん。といった感じである。
「次の年からは荷物持ちとしておもちゃ屋に連れてかれてたよ。ご褒美じゃないけど、その場で自分の好きなもの選べたのは良かったかな」
「じーじの愛を感じるわね」
去年は一昨年と同じ返しをしたらへそを曲げたので、今年はお望み通り変えてみる。
「愛なんてない。たぶん、女の子のおもちゃを持つのが恥ずかしいだけだよ」夫は笑ってみせる。「帰ってもプレゼントあるの分かってるのに、クリスマスまでおあずけだよ。それで当日は自分で選んだプレゼントが枕元に置かれるんだよ。ここはちゃんとやるんだって、朝イチで包装を破りながら子供ながらに思ったよ。可愛い妹の夢を壊さないために、お兄ちゃんてのは大変だよ」
このほのぼの兄妹エピソードも二人の関係を知っているから高評価のポイントだ。
「妹にかける情熱をを少しでもこっちに分けてほしかったよ」
「あっ、愛情じゃなくて情熱になってる」
「去年言ったことを覚えていてくれたからね」
なかなかやるなお主。
毎年聞いてるこの話。彼のすべらない話は私にとっての思い出深い風物詩なのだ。
「すべらんなー。だね」
「最近声出して笑わなくなってきたけどね」
「変わらぬ名店の味になったてことじゃない?」
「そーゆー事にしておく」
確かにそちら側も気になっていた。
「この話を持ってきたってことは、よっぽどの事が起きたんでしょ?もちろん聞くわよ」
「そんなにハードルは上げないで欲しいかも。せいぜい駐車場の縁石程度で聞いてもらえるとありがたいかな」
話を急いでいたのは、こういった思惑もあったのね。
「なんだ、それぐらいならお茶の話は聞かなかったのに。あの雰囲気を出されたら、こっちとしたら期待しちゃうわよ」
「勘違いしてるなぁー、って分かったから、かなり焦ってた。とりあえずオチを先に言っちゃうと、外箱の目立つ所に『超重要!僕のクリスマスプレゼントのため取り扱い注意!壊したらカオちゃんが悲しむ。カオちゃんを泣かせた奴は許さない!越中』なんてメモ書きが貼り付けてあったんだよね」
「あら、相棒にそんな事されたの?」
越中さんは私達のキューピッド的な役割を果たした人だ。
今ではべったりな二人だけれど、私と夫が知り合った時は、歳も離れていたせいか今ほど仲良くは無かった。言うなれば、イタズラ好きな越中さんが受け身な夫を気に入り、一方的に連れ回しているといった感じだった。
「本当にやめて欲しいよ、あのおじさん」
今では、本人の前でもこれぐらいの軽口なら言い合っている。
自分から場を盛り上げないけれど、楽しい場所にいるのが好きな夫。結婚してから会社の飲み会への参加などは控えていたけれど、越中さんと遊びに行くのだけは私が嫌な顔一つしなかったので、自然と回数が増えて二人の仲が深まった。
「お茶会が終わった後にデスクで仕事していたら、派遣の伊藤さんがニコニコしながら近付いて来るからさ、理由を聞いたらチョイチョイって手招きされたんだよ。一緒に書庫に行ったらそれが貼ってあって、耳真っ赤だったよ。伊藤さんの顔なんてもちろん見れないから表情の確認はできなかったけれど、肩が震えてたから笑ってるのは確実だろ。頑張って感謝の一礼だけして席に戻ったよ」
しっかりと聞いたら面白そうな話だった。これを聞けなかったのは残念に思う。
「相変わらずなのね、越中さんて」
そして、あなたも、相変わらずね。
困った時の越中頼み。そこから突破口を開こうとして見事に撃沈されたのね。こっちは怒ってもないのに変な人。
「越中さんに感謝だね」
「こっちも感謝って思って良いのかな。まぁ、同じところに自分の苗字も書くから、憎めない存在ではある」
「あなたより越中さんの方がダメージ大きいものね」
「そうなんだよね」
夫の笑顔に私もつられて笑ってしまう。
「優しい君が言うように感謝できる部分があるとしたら、箱の中身が何なのか一目瞭然で、それによりみんなからも大事にしてもらえるってところぐらいかな。……百歩譲ってだけれど」
夫は親しかったり心を許している男性に対して少し天邪鬼になる。夫と義理のお父さんが似ているところなのに、二人とも似ていないと認めない部分でもある。それこそが似ている点なのに、お互い言い合うばかりでそこに気が付いていないのが笑ってしまう。
「苦情を入れると、正攻法が思いつかないなんて言い訳をよくするんだけれど、あれだけ悪戯を思いつくんだったら信じられないだろ?もっと上手い方法思いついているはずなのに、なぜやらないんだよ」
理解できないと顔も物語っている。
「やらないんじゃなくて、やれないんじゃないの?」
「君みたいに恥ずかしがり屋さんなら、やれないってのはまだ分かるよ。あの人は目立ちたがり屋でそうじゃないし、なにより、こんなことするのは僕にだけなんだよ」
ちょっと待って。とは思うけれど今回は話の腰を折らないでおく。
「あなたに最大限のダメージを与えつつ、被害は最小限に抑えながら目的を達成するなんて、ものすごい才能よね」
「そう、だから余計に腹がたつ」
真っ直ぐに愛情を表現してくれたら、こっちだって素直になれるのに。不器用なんて言葉は甘えの言い訳だ。と、帰省から戻ってくる車内で鼻息を荒くしていた時と同じ感じで怒っている。
「かわいいと思ってくれているのは分かるけれど、態度がそうじゃないと嫌よね」
「そう、その通りだよ。でも、そういう人ってなぜか好きなんだよね」
愛情の掛け方は違うけれど、同じような人を知っている。
あなたのお父さんてそういう人なのに。これを言うと臍を曲げてしまうから言わないでおく。
それより、面白そうな話を聞き逃してしまったので、若干の物足りなさを感じてしまった。
「ねぇ、あの話してよ」
「今年もするの?」
「うん、お願い」
話の内容は、彼がプレゼントを楽しみに寝ていたら、物音で起きてしまい父親がプレゼントを置く所を見てしまうというありふれた話だ。何度もこのネタを話しているためか、お目当ての箇所まで詰まることなく言葉が連なる。
「こっちは『サンタさん!?』て思うじゃん」
ここから私の好きな所が出てくる。夫もそれを分かっているので、話に抑揚がついてくる。
「ドキドキしながらそーっと首を動かすと、暗闇でも見慣れてるから分かるだよね。あっ父ちゃんだ、って」
私は、ここの「父ちゃんだ」の言い方が好きだ。
どの辺が面白いかと聞かれたら答えるのに困ってしまう。
説明になるか分からないけれど、この話を始めて聞いた時は浅くない失恋を引きずっていて、それが原因で仕事や体調に不調をきたしていた。私の事情を知っているのに、その場のみんなはそれに触れないように、それぞれの笑い話や趣味の話をしてくれていた。
それまではみんなの優しさに応えたくて頑張っても上手く笑えなかったのに、この『父ちゃんだ』が無性におかしくて大笑いをしてしまった。悩んでるのがバカらしくなって、もうどうでもいっかって思えた。
その時の集合写真は記念としてリビングに飾ってある。そんな大切な話で心の隙間を埋めてもらおう。
「父親も僕が起きたのに気が付いたんだろうね。おもちゃを手に持ったまま「サンタの正体を妹に言ったらお前のプレゼントはなしだぞ」だって。その場を取り繕ったり、優しい嘘とかは一切なしのど直球。妹との格差は常日頃から感じてたよ」
今でもじーじは夫には厳しいが妹さんには甘い。
それでも、妹さん夫婦に香織より二歳年上の流花ちゃんが生まれてからは、孫会いたさに夫への態度は軟化している。親子喧嘩が嫌いな妹さんを下手に怒らせて、帰省しなくなったらたまらん。といった感じである。
「次の年からは荷物持ちとしておもちゃ屋に連れてかれてたよ。ご褒美じゃないけど、その場で自分の好きなもの選べたのは良かったかな」
「じーじの愛を感じるわね」
去年は一昨年と同じ返しをしたらへそを曲げたので、今年はお望み通り変えてみる。
「愛なんてない。たぶん、女の子のおもちゃを持つのが恥ずかしいだけだよ」夫は笑ってみせる。「帰ってもプレゼントあるの分かってるのに、クリスマスまでおあずけだよ。それで当日は自分で選んだプレゼントが枕元に置かれるんだよ。ここはちゃんとやるんだって、朝イチで包装を破りながら子供ながらに思ったよ。可愛い妹の夢を壊さないために、お兄ちゃんてのは大変だよ」
このほのぼの兄妹エピソードも二人の関係を知っているから高評価のポイントだ。
「妹にかける情熱をを少しでもこっちに分けてほしかったよ」
「あっ、愛情じゃなくて情熱になってる」
「去年言ったことを覚えていてくれたからね」
なかなかやるなお主。
毎年聞いてるこの話。彼のすべらない話は私にとっての思い出深い風物詩なのだ。
「すべらんなー。だね」
「最近声出して笑わなくなってきたけどね」
「変わらぬ名店の味になったてことじゃない?」
「そーゆー事にしておく」
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