王国戦国物語

遠野 時松

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とある王国の物語 プロローグ

感想戦 上

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 名を呼ばれれば聞こえる距離ではあるが、焚き火を囲む賑やかな一団から少し距離を置いた位置にファトストは座っている。自ら話には入らないが、顔を綻ばせて皆の話を聞いている。
「ファトスト。横、いいか?」
「おお、リュート。そろそろ来る頃だと思っていたよ」
 ファトストは杯を持ち上げ、卓を自分の方へと引き寄せる。
「これ以上飲むと、物事が考えられなくなるからな」
 リュートは酒瓶をファトストに見せる。
「嘘をつくな、今いる中でレンゼスト様と飲み比べが出来るのはお前ぐらいだ。酒でそれぐらいになった方がごちゃごちゃ考えないで済むから、丁度良いってところだろ」
 その言葉に対してリュートは笑いながら、ファトストが手に持つ杯に酒を注いで瓶を卓に置いた。
「早速だが聞くぞ」
 時を惜しむ様に、横に座りながら尋ねる。
「どうぞ、結果論で良ければね」
 ファトストは口を湿らす程度に酒を口にし、杯を卓に置く。尻の下に敷いて柔らかくした乾燥肉を包みから出すと、一つをリュートに手渡した。
 幼い頃から変わらない友の好物に、リュートは懐かしさを覚える。
「それが結果論だとしても、結果が伴っていれば問題ない。それはいつものことだろ。それにお前がどう言われようが、俺には関係ない。だから気にするな」
 それを聞いたファトストは、苦笑いを浮かべる。
「お前ってさ、認められて隊を持たされたんじゃなくて、口が悪くてレンゼスト様の隊から追い出されたんだろ?」
「だとしても、そんなことはどうでもいいことだな。それこそ興味は無い」
 リュートは受け取った乾燥肉に齧り付く。
「おっ! 美味いなこれ」
「だろ? 最近考えた自信作なんだよ。香草を使ったタレに漬け込んだものを、東方より取り寄せたオウカという木を使って燻してみたら、格別だった」
「相変わらずだな」
 イノ肉の質も良い。これを作るために、わざわざ狩りに出た証拠だ。
「次の戦が終わるくらいが一番美味い」
 ファトストは肉を左右に回しながら、独り言の様に呟く。
「そっちも、相変わらずだな。素直に、次も楽しみにしているから来てねと言えば、済む話だろ。肉で人を釣ろうとするな」
 リュートは酒を口にする。
「酒に合う様にも作られてるのか」
 一頻り驚いた後、まじまじと肉を眺めるリュートを見て、ファトストは満足気に頷く。
「久しぶりに二人でゆっくり話すんだから、いつも三人で遊んでた頃みたいに話そうぜ」
 ファトストはリュートの肩に手を置く。
「取り敢えず、他の場所でどういった戦が繰り広げられたのかを教えろ」
 リュートはその手を振り払う。
「もっと大きな隊を率いるための勉強だからと言われたから教えるが、教わるって態度を少しは見せろよ」
「ごちゃごちゃとうるさい。そうやって減らず口ばかりたたくから、俺はあの頃のお前が嫌いだ。問答をしたいならリュゼーとしろ。俺は寧ろ、今のお前こそ好ましく思う」
「そんな俺と、友でいてくれてありがとう」
「先ずは平地での戦いについてだ」
 言葉を遮るためか、注いでやるから酒を飲めと、リュートは酒瓶をファトストの前で傾ける。
 観念したファトストの動きに合わせるように、リュートも杯に口を付ける。
「気になるところは?」
 リュートは、ファトストが飲んだ分だけ酒を注ぎ足し、空になった自分の杯へも酒を注ぐ。
「中央はお前の考えた通りになった。それはなぜだ?」
「中央を担った帝国兵の強みは、隙間無く長槍が並べられた時に発揮する。裏を返せば足並みを揃えなければいけない。それを利用したらやっぱり嵌った」
「それぐらいは分かっている。あんなにもふざけた拒馬の置き方をしたのに、敵の進軍はお前の言った通りに止まった。あり得ないと思っていたが、あり得てしまった。認めるしか無い。帝国兵とはそういうものなのだろう」
 リュートはファトストから視線を外し、少し離れた場所にいる兵に向かって瓶を振る。
「どの様に考えたら、あの様に敵が動くと考えたのかを教えろ」
「長くなるよ」
「初めからそのつもりだ」
 リュートは杯に口を付け、手酌で瓶を空にする。
「まず敵は、こちらの数を減らすのが狙いだろ?」
 ファトストは干し肉を齧る。
「レンゼスト様もそう言っていたな」
 リュートも干し肉を齧り、酒を飲む。
「それなのに無名の指揮官を選んだ。考えられることは二つ。こちらを侮っているか、敵の名だたる将が命令を聞く人物か」
「今回は後者だったわけか」
「結果としたらね。でも、ある程度は予想が付いていたけどね」
 ここで、新しい酒瓶を手に持った兵が、二人の前に現れる。リュートは片手を上げて礼を述べると、ファトストを指し示す。兵が酒瓶の注ぎ口を差し出すと、ファトストは「ありがとう」と、口を湿らす程度に酒を飲み、杯を近づける。兵は瓶を近付け、コチンと静かに音を立てる。
「なぜだ?」
 リュートは酒を口にし、兵に杯を差し出す。兵はそれに酒を注ぐ。
「そこから気になる?」
「先ほどの言いようなら、そこに何かあるのだろ?」
「まあ、そうだね。だとすると、何から話すか……」
「いつものように、色々あっての結果論だろ? こっちで解釈するから、思いついたままに話をしてくれ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「その前に少しいいか?」
 そう言うとリュートは、杯を呷ってから前へと差し出す。
「聞きたいんだったら、その辺の器を持ってきてくれ。これでは小さ過ぎて、何度も注ぐのが面倒だ」
「承知しました」
 兵はリュートから杯を受け取ると、直ぐ様その場から離れる。手頃な大きさの器を見繕うと、兵を何人か引き連れてリュートの元に戻ってくる。それぞれが、酒瓶と器を手に持っている。
 リュートは「お前達も好きだな」と笑った後に、それぞれの兵から酌をしてもらう。それが終わると端から兵達の器に酒を注いだ。注がれた順に兵達が酒を飲む中、初めから居た兵はリュートから受け取った杯をそのまま使って飲んでいる。
「待たせたな」
「全然」
 笑っては見せたが、兵達の視線に、ファトストはむず痒さを覚える。
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