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23話目:その場凌ぎのウソ
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幾つもの血溜まりが広がっていた。投げ飛ばされた買い物客や警官、そしてリリが血だるまになって床へと転がっていた。
「…た、立たなきゃ…わた、しが、私しか、戦えない、んだから」
(リリ、リリ! 動いちゃダメだ! これ以上動いたら、死んじゃうよ!)
奏矢は必死になってリリを止める。割れたガラスが体のあちこちに突き刺さり、リリの顔からは血が止めどなく溢れている。
さらにリリの右腕の骨は砕け、肋骨は鋭利に折れて肺に突き刺さっている。左手の親指の爪は剥がれて、左足は鬱血してドス黒く変色していた。そして角が貫通した脇腹は手のひらの倍は穴が空いており、下手をすれば向こう側の景色すら見えてしまうほどの大きさだった。それでもなんとか動く右足で踏ん張り、血溜まりの中で立ちあがろうともがいていた。
「私が…私しか、いないんだから」
『…不味いな。リリの意識がなくなる前に死んじまう』
奏矢はリリに伝わらないように本心を隠して考える。もはや、いつ意識が飛んでもおかしくないものの、リリが死ぬのも時間の問題であった。リリは手放しそうになる意識を"責任感"と"使命感"でなんとか繋ぎ止めている。だが、今の状況では、奏矢にとっていえばその2つは邪魔以外の何者でもなかった。
『…なんとかしないと。リリ以外にも戦える魔法少女が居るって言うか? でもここは切り抜けたとしても、あとがどうなる? …いや、いまリリが安心して気絶してくれれば良いんだ。あとは適当に理由をつければ良い』
(あのさ、リリ。実は–-–)
「あ、天野…さん?」
「っ?」
倒れた棚の脇から、リリへと声がかけられる。そしてリリの前に現れたのは先ほど逃げ出していた同級生の二宮であった。血塗れのリリに辺りを警戒しながら近寄るが、あまりのリリの状態に言葉を失くす。
「これ…こんな。おい、大丈夫かよ…」
「二宮、さん。なんで、まだ…ここに」
「足が竦んじゃって、それでここに隠れて…。いや、早く病院行かないと…!」
二宮はなんとかリリを助け起こそうと肩を掴むが、人形のように完全に脱力したリリを持ち上げることは出来なかった。精々、上半身を起こす程度であった。
『…これしかない』
なぜ魔法少女と変身しているリリをリリと認識できるのかは疑問ではあったが、そのことを追求する時間はなかった。奏矢は二宮の死角から銀の触手を伸ばすと、二宮へと触れる。そして二宮の頭の中に語りかける。
(よう、良いところであったな?)
「ひっ! こ、この声は、この前の…」
二宮は頭の声に響く声の持ち主を察して驚愕する。忘れるわけもない、先日の"トラブル"で数日経っても未だに体には締め付けられたアザが残っていた。思わず二宮はゴクリと唾を飲み込み、身構える。
(お前がなんでリリを認識出来てるとか、まあ今はいいや。とりあえず俺の言う通りにしろ)
「えっ、えっ」
二宮の首元の皮膚の下が、内側から蠢く。咄嗟に二宮は首元を押さえるが、その手の下で中から何かが這い出ようとするように隆起していた。二宮は思い出す、先日に奏矢が首元に入り込んだことを。
(死にたくなきゃ、余計なことは言うな。俺の言う通りに喋れ。わかったか。変な動きもするなよ)
二宮は恐怖から体を震わせるが、その瞬間に首元がじわりと絞まる。体を震わせることすら許されない。そして二宮の頭の中だけで奏矢は指示と次に言うセリフを囁くと、二宮から離れる。
「ねぇ、リリ! 凄い偶然だよ! 君以外に魔法少女の素質を持った子を見つけたんだ!」
奏矢はわざとらしく声を上げる。
リリは息も絶え絶えながら奏矢と、そして二宮を見やる。血塗れのリリと目があってしまい、二宮は身を竦ませるも指示通りに動く。
「あ、ああ! よくわかんねぇけど、あの牛野郎をぶっ飛ばせば良いんだよな? あたし、やるよ。アンタはここで寝てな」
「…本当、に?」
「うん、だからリリは安心して!」
「あとはあたしに任せな」
「うん…お願、い」
リリは目を閉じて、完全に脱力する。二宮は慌ててリリが死んでないか息を確かめるが、少しだけ空いた唇の隙間からか細い吐息が漏れていた。二宮はそのことに安心すると、奏矢を睨みつける。
「で、あたしはあとは何をすれば?」
「ん。じゃあ、失せろ。死なれたらリリが目を覚ました時におかしな話になるからな」
奏矢の体が薄い膜のようになり、リリの体を伝っていく。さらにリリの体のあちこちから銀の不定形のヴェールが湧き出てきて、傷口を覆っていく。体内でも銀のスライムが動き、折れた骨を修復して傷ついた内臓を癒していく。
「…ギリギリ、だったな」
リリの口から安堵のため息が漏れる。瞬く間に体についた痛々しいアザが元の肌色に戻り、大きく空いた脇腹の穴も銀色のスライムで埋められて、元の健康的な状態へと変化する。さらには無惨にも破けて血に染まったピンクのワンピースも銀のヴェールに覆われると、ほつれ1つない綺麗なものへと変化していく。
「…あ、天野、さん?」
「あ? いつまでベタベタしてんだよ。早く消えろ、邪魔だ」
二宮は見るからに重症だったリリの回復や、今の荒々しい口調に驚く。二宮はそこで気がつく、その口調が先程己の頭に囁いていた奏矢のものであると。リリの体に完全に入り込んだ奏矢は、銀に染まった瞳で二宮を睨みつけると、体を支える二宮の手を振り払って立ち上がる。そしてポツリと奏矢は呟く。
「あのクソ牛をぶっ殺してやる」
「…た、立たなきゃ…わた、しが、私しか、戦えない、んだから」
(リリ、リリ! 動いちゃダメだ! これ以上動いたら、死んじゃうよ!)
奏矢は必死になってリリを止める。割れたガラスが体のあちこちに突き刺さり、リリの顔からは血が止めどなく溢れている。
さらにリリの右腕の骨は砕け、肋骨は鋭利に折れて肺に突き刺さっている。左手の親指の爪は剥がれて、左足は鬱血してドス黒く変色していた。そして角が貫通した脇腹は手のひらの倍は穴が空いており、下手をすれば向こう側の景色すら見えてしまうほどの大きさだった。それでもなんとか動く右足で踏ん張り、血溜まりの中で立ちあがろうともがいていた。
「私が…私しか、いないんだから」
『…不味いな。リリの意識がなくなる前に死んじまう』
奏矢はリリに伝わらないように本心を隠して考える。もはや、いつ意識が飛んでもおかしくないものの、リリが死ぬのも時間の問題であった。リリは手放しそうになる意識を"責任感"と"使命感"でなんとか繋ぎ止めている。だが、今の状況では、奏矢にとっていえばその2つは邪魔以外の何者でもなかった。
『…なんとかしないと。リリ以外にも戦える魔法少女が居るって言うか? でもここは切り抜けたとしても、あとがどうなる? …いや、いまリリが安心して気絶してくれれば良いんだ。あとは適当に理由をつければ良い』
(あのさ、リリ。実は–-–)
「あ、天野…さん?」
「っ?」
倒れた棚の脇から、リリへと声がかけられる。そしてリリの前に現れたのは先ほど逃げ出していた同級生の二宮であった。血塗れのリリに辺りを警戒しながら近寄るが、あまりのリリの状態に言葉を失くす。
「これ…こんな。おい、大丈夫かよ…」
「二宮、さん。なんで、まだ…ここに」
「足が竦んじゃって、それでここに隠れて…。いや、早く病院行かないと…!」
二宮はなんとかリリを助け起こそうと肩を掴むが、人形のように完全に脱力したリリを持ち上げることは出来なかった。精々、上半身を起こす程度であった。
『…これしかない』
なぜ魔法少女と変身しているリリをリリと認識できるのかは疑問ではあったが、そのことを追求する時間はなかった。奏矢は二宮の死角から銀の触手を伸ばすと、二宮へと触れる。そして二宮の頭の中に語りかける。
(よう、良いところであったな?)
「ひっ! こ、この声は、この前の…」
二宮は頭の声に響く声の持ち主を察して驚愕する。忘れるわけもない、先日の"トラブル"で数日経っても未だに体には締め付けられたアザが残っていた。思わず二宮はゴクリと唾を飲み込み、身構える。
(お前がなんでリリを認識出来てるとか、まあ今はいいや。とりあえず俺の言う通りにしろ)
「えっ、えっ」
二宮の首元の皮膚の下が、内側から蠢く。咄嗟に二宮は首元を押さえるが、その手の下で中から何かが這い出ようとするように隆起していた。二宮は思い出す、先日に奏矢が首元に入り込んだことを。
(死にたくなきゃ、余計なことは言うな。俺の言う通りに喋れ。わかったか。変な動きもするなよ)
二宮は恐怖から体を震わせるが、その瞬間に首元がじわりと絞まる。体を震わせることすら許されない。そして二宮の頭の中だけで奏矢は指示と次に言うセリフを囁くと、二宮から離れる。
「ねぇ、リリ! 凄い偶然だよ! 君以外に魔法少女の素質を持った子を見つけたんだ!」
奏矢はわざとらしく声を上げる。
リリは息も絶え絶えながら奏矢と、そして二宮を見やる。血塗れのリリと目があってしまい、二宮は身を竦ませるも指示通りに動く。
「あ、ああ! よくわかんねぇけど、あの牛野郎をぶっ飛ばせば良いんだよな? あたし、やるよ。アンタはここで寝てな」
「…本当、に?」
「うん、だからリリは安心して!」
「あとはあたしに任せな」
「うん…お願、い」
リリは目を閉じて、完全に脱力する。二宮は慌ててリリが死んでないか息を確かめるが、少しだけ空いた唇の隙間からか細い吐息が漏れていた。二宮はそのことに安心すると、奏矢を睨みつける。
「で、あたしはあとは何をすれば?」
「ん。じゃあ、失せろ。死なれたらリリが目を覚ました時におかしな話になるからな」
奏矢の体が薄い膜のようになり、リリの体を伝っていく。さらにリリの体のあちこちから銀の不定形のヴェールが湧き出てきて、傷口を覆っていく。体内でも銀のスライムが動き、折れた骨を修復して傷ついた内臓を癒していく。
「…ギリギリ、だったな」
リリの口から安堵のため息が漏れる。瞬く間に体についた痛々しいアザが元の肌色に戻り、大きく空いた脇腹の穴も銀色のスライムで埋められて、元の健康的な状態へと変化する。さらには無惨にも破けて血に染まったピンクのワンピースも銀のヴェールに覆われると、ほつれ1つない綺麗なものへと変化していく。
「…あ、天野、さん?」
「あ? いつまでベタベタしてんだよ。早く消えろ、邪魔だ」
二宮は見るからに重症だったリリの回復や、今の荒々しい口調に驚く。二宮はそこで気がつく、その口調が先程己の頭に囁いていた奏矢のものであると。リリの体に完全に入り込んだ奏矢は、銀に染まった瞳で二宮を睨みつけると、体を支える二宮の手を振り払って立ち上がる。そしてポツリと奏矢は呟く。
「あのクソ牛をぶっ殺してやる」
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