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14話目:能力検証

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「引っ越し、やっと終わったね。 ……みんなにあれから一度も会えなかった。事件の”目撃者”同士はあまり会わない方が良いだ、なんて酷い」


「……そうだね。でもリリは1人じゃないよ。ボクが居るじゃないか!」


「ありがとう、ソーヤ。でも、やっぱり……寂しいかな」 



 陰謀団カバル奏矢ソーヤが拉致されて人体実験を受け、そして銀のスライムと化してから。そして天野リリが孤児院『養護施設ひらざか園』にて犬型怪人に襲われて、奏矢に寄生されたあの日から1週間の時間が過ぎていた。
そこは先日まで居た埼玉県ではなく、東京郊外の昭島市の繁華街から離れた、ぽつんと立つ六畳一間と小さなキッチンのついた古いアパートであった。そこでリリと奏矢は沈む夕暮れの中、荷ほどきをする。ほとんど使い回したものを支給されたのか、汚れやほつれなどがある家具などが多く置かれていた。



「みんなと会えないなんて、お見舞いにだって結局行けなかった。 ……私、本当にこれで良かったのかな?」


「仕方ないよ。もし、あのときに君がボクと契約しなかったら、もっと酷いことになっていたよ」


 奏矢はリリの肩に昇って答える。
プルプルとその銀の身体を揺らしながら、リリを慰めるように身体を伸ばして頭を数回ぽんぽんと叩く。


「そう、なんだけど。 ……そう言えばここに住むように書類をきり、あの児童福祉局のひとも警察の人からも何も連絡ないのね。書類だけ渡して終わりだなんて。ソーヤが居なきゃ住むところに困っちゃうところだったわ。ソーヤはやっぱりあの人たちがあの怪人のひとたちの仲間だと思う?」



「いやいや、ボクはちょっとしたアドバイスをしただけだよ。 あの人たちが陰謀団カバルの手先だったかどうかは、分からないかな。でも、もしボク達に探りを入れるためにこの場所を用意した可能性もあるよ。もしかしたら、もう陰謀団カバルは警察や政府なんかの権力者たちとなんらかの接触をしているのかも。だけど、これは逆にチャンスだよ、手元に置いて様子を見るってことはつまり、あのとき怪人と戦ったのはボク達だとは完全に決めつけられていないことだよ。リリ、分かってるだろうけど君がボクと契約して”魔法少女”になったなんて誰にも言っちゃ駄目だよ。陰謀団カバルの目が、耳がどこに張り巡らされているか分からないんだからね」


「うん、分かってる。 ……でもみんなの前であんな格好をしていたら、その”魔法少女”が私だってバレないかな」



「ああ、そんなこと? それはたぶん大丈夫だよ。君がボクと融合して魔法少女になっている間、君は君だと認識されないみたい。正確には見えていても記憶に残らないし、映像記録なんかにも残らないよ。そこは安心して欲しい」


「そう、なの……? あっ、だからあの氷室ひむろって警察官の人が私が居たっていうことを言わなかったのね?」


「うん、これがボクの力の1つってわけさ (……実証するのに何日か掛かっちまったけどな。寝入ったときに”身体に入り込んでも”、すぐにちょっとしたことで起きちまうからひやひやしたぜ)」


 奏矢はここ数日、己のこの力について実験をしていた。
リリが完全に寝入って意識を無くしたときに身体へと入り込み、寄生した状態、つまりはリリの言う”魔法少女”の状態について調べていたのだ。奏矢もまた、引っかかってた。あの犬型怪人ヘルハウが目撃されていたにも関わらず、あのピンクのふりふりのワンピースなどといった酔狂にしか見えないリリが氷室の話の中では一切出てこなかったことであった。ましてや、目撃者と言えばリリと同じ孤児院にいる人間、どんな奇抜な格好をしていても、いや、奇抜な格好をしているからこそ何かしらの目撃情報が出てもおかしくないのだ。


(……俺があの病院で、看護婦に見られていたのに何も反応されなかったのに何か関係がある、のか? 俺がリリの身体に入り込んでいたら、魔法少女になっていたらこの特性が移る、とか?)


 その仮説に基づいて奏矢は数日掛けて実験し、そして実証した。
あるときは夜のコンビニでたむろをするヤンキーたちの前でおちょくるポーズをし、またあるときは自分のスマートフォンで自分を撮影した。結果として誰も魔法少女となった奏矢に反応を示さず、また自分を撮った動画はノイズと砂嵐で何を撮ったのか判別は不可能であった。唯一例外だったのは、奏矢自身が強く”見つかりたい”と考えた時にのみ、映像などが正常な魔法少女となった奏矢を捕らえることが出来ていたのだった。



(……ちょっとした痛みなんかでリリが覚醒して、俺がすぐにはじき出されちまうから大変だったぜ。自撮りしてたら部屋の仕切りに小指をぶつけてすぐに起きちまったもんな。なんとか誤魔化せたから良かったけど、一歩間違えてたらかなりマズいことになっていたな。 ……もっとも怪人相手にどの程度効果があるのか未知数だが)


「ソーヤ、ソーヤ? 大丈夫?」


「ああ、うん。ちょっと考え事をしてた。 ……リリ、大事なのは君が陰謀団カバルに魔法少女だってバレないことなんだ。そのために目立つ行動は慎んで、学校生活を送ること。いいね?」


「……大丈夫。私しかあの悪い人たちと戦えないんだもん」


「分かっていてくれるなら良かった。ああ、そうだ、ちゃんと明日の準備は出来てるかい?」


「大丈夫、ちゃんと教科書なんかも鞄にいれたし」



 奏矢とリリは陰謀団カバルや魔法少女の話題を終えると、明日の登校の準備について話し合うのだった。



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