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11話目:失敗報告

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 --リリと奏矢が病院で話し合いをしていた数時間前のこと。
奏矢を改造した陰謀団カバルの研究所で、所長を務めるイズミは犬型怪人ヘルハウがいつまで経っても戻ってこないことに疑問を抱き始めていた。


(あの犬型怪人ごみ、戻ってきたら生きたままパーツ取りしてやろうかしら~?)



「あああああああがああ」


「人が考え事をしているときに煩いわね~。ちょっとお腹を開いているだけじゃないの。人体強化薬は耐えたんだから核移植のための切開ぐらい叫び声を上げずに耐えなさい」


 手術台の上で寝かされ拘束された男が叫び声を上げる。
そして胸の辺りから腹部までぱっくりと裂けたおり、その傷口から真っ黒な体液が手術台の上に広がっていた。イズミは近くに立つナースの格好をした黒縁眼鏡女へと声を掛ける。


黒縁眼鏡女アレ、怪人核を取ってくれないかしら~」


「……はい」


 銀色のトレイに乗せられたほのかにオレンジに光る球を、黒縁眼鏡女アレは差し出す。
イズミはそれを手づかみで取ると、男の裂いた胸へとそれをねじ込む。その瞬間、男の身体が激しく痙攣して手術台の上で魚の様に跳ねる。


「この瞬間が毎回楽しみなのよね~。どんな怪人になるのか、ガチャを引いているみたいで飽きないのよ~」



 男の身体がボコボコと膨らみ、拘束具が勢いで弾き飛ぶ。
手術台から転げ落ちた男の身体が沸騰しているように膨らみ、見る間に黒い体毛に覆われていく。顔面も膨張し、顔面が全面へと伸びていく。頭が裂けて黒い体液がほとばしり、その裂け目から一対の太い角が生えてくる。口から涎を垂れ流し、身体全体が大きく、そして筋肉質になっていた。


「……完成ね~。おめでと~う。さて、名前はどうしようかしら~」


 イズミは近くの棚にある1冊の本を取り出してぺらぺらとページを捲り始める。本の背表紙には『世界の寓話・神話集』と擦れた金色の文字で書かれていた。
そしてとあるページを見つけると、そこを指さしさながら”新しく生まれた”怪人へと命名する。


「そうね、これだわ~。今からアンタは『牛型怪人ミノタウ』よ~。色々これから我らが陰謀団カバルのために働いて貰うわよ~」



「……はイ。何をしますカ?」


 牛型怪人ミノタウは静かに立ち上がる。身長は2メートルを超え、頭には一対の太い角が鋭い切っ先のようになり、顔は前に伸びて牛のようであった。
イズミは牛型怪人ミノタウの胸の辺りをぽんぽんと叩くと、静かに告げる。


「そうね~、まずは」


 そう言って何かを頼もうとしたイズミの耳にドタドタと足音と遠くから響く足音が聞こえてくる。
そしてすぐに手術室の扉が開けられて、蛇の顔をした怪人が飛び込んでくる。


「報告致しますっ! 犬型怪人ヘルハウが死亡しましたっ!」


「なんで死んだのかしら~? まさか戦闘員シャドウごときに返り討ちにされたとか言わないわよね~?」


「それが……単独行動していた犬型怪人ヘルハウの最期は不明です。私が確認したときには溶けた犬型怪人ヘルハウの残渣を感じたのみでした」


「ふぅん?」


 蛇型怪人は舌をちろちろと動かしてアピールする。
それを無視してイズミは腕を組んで考え込む。


(まずありえないけど戦闘員が怪人を返り討ちにした可能性がある? まあミジンコが象に勝つような話だけど~。あるいはの人間が怪人を返り討ちにする技術か力があるのかしら~。どっちにしてももうゆっくりと”隠れて”は無理そうね~)


 イズミは腕組みを解き、少し間を置いて命令を下す。


「……少し早いけど計画の前倒しをするわ~。そろそろ、派手に動きましょうか。さあ、楽しい活動の時間が始まるわよ~。まずはここから移動するわよ~」



 その号令によって一気に怪人や戦闘員シャドウが一気に動き出す。
指示を終えたイズミは手術室を出て、ある一室へと向かう。その部屋はイズミの身長よりも大きい機械が部屋の中央に鎮座しており、太いホースが数本部屋の至る所から伸びていた。部屋の反対側には大きな輪が壁に掛けられており、中央の機械からは不気味な低音が響いていた。そして近くの機会にイズミが触れると、辺りが重い音を立てながら振動し始めるのであった。
 
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