古代ローマの英雄スキピオの物語〜歴史上最高の戦術家カルタゴの名将ハンニバル対ローマ史上最強の男〜本物の歴史ロマンを実感して下さい

平民の英雄

　トレビア川で戦った者たちの帰国後、ときをおかずして市民集会が開かれた。市民集会では軍団の最小単位である百人隊ごとで一票の投票が行われ、来年度の役職者が選出される。ローマでは戦争が始まればヤヌス神殿の扉が開かれ、戦争が終わればそれが閉じられるのが伝統であるが、近年は常に開いている状態が続いていた。戦時中を意味するヤヌス神殿の扉の開放が常の状態であったこの時代のローマにとっても、来年度の執政官には特に軍務面の期待が大きかったに違いない。ヒスパニアからアルプス山脈を越え、北イタリアに侵攻してきたカルタゴ軍、つまりがハンニバルに対抗するだけの力が求められていた。もうこれ以上の犠牲者は出したくない。いやそれ以上に覇権国家としてこれ以上の敗北は許し難かったのだ。
　そんな状況下で、市民からの圧倒的な支持を集めて執政官に選出されたのが、平民出身のガイウス・フラミニウス・ネポスであった。もう一人の執政官には貴族出身のグナエウス・セルウィリウス・ゲミヌスが当選するが、その得票数はフラミニウスに遠く及ばないものであった。
　ローマ市民の期待を一身に浴びて当選を果たしたフラミニウスの経歴は、まさにそれにふさわしいものと言えた。彼は紀元前二三二年に平民の代表者である護民官に当選すると、これまで公有地とされてきた北イタリアの土地を貧しい者たちに分配する法案を成立させ、その後にガリア人が北イタリアに侵攻してくると、紀元前二二三年に執政官に選出されてこれを見事に撃退したのである。紀元前二二七年にはシキリア属州総督、紀元前二二一年に騎兵長官を歴任し、翌年に就任した財務官の時にはローマからアリミヌムまでを繋ぐ幹線道路フラミニウス街道を、さらに北イタリアにプラケンティアとクレモナを建設した。また、彼はそれまで権利のなかった無産階級にまで投票権を与え、マルスの野にフラミニウス競技場を建築し、元老院議員の海外交易を禁止するクラウディウス法で貧富の差を縮める政策を推し進め、自らの支持基盤である平民からの支持を確固たるものにしたのである。