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第1章 水の研究者、異世界へ
第37話 世界樹の願い
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『私からも御礼をさせてください』
どこからか綺麗な声がした。
脳内に直接話しかけられるような、そんな声。俺と高校生たちを召喚した女神とは別の、とても心が落ち着く声だった。
『初めまして、世界樹と言います』
「せ、世界樹って。あの世界樹?」
見上げれば、その枝が空を覆っている。ミスティナス中央にそびえるこの巨木が俺たちに話しかけてきているのか? 信じられないが、俺たちに話しかけてきている存在からは声だけにもかかわらず、ものすごいオーラを感じる。
『私の眷族であるエルフ族を守ってくれて、本当にありがとう。お礼をしたかったのに、貴方たちが離れて行ってしまいそうだったから、ちょっと強引に出てきました』
「凄いニャ。ウチら、木とお話ししてるニャ」
『言葉を話す魔物や精霊がいるのです。植物が話したっていいでしょう。それはさておき、トールさんに差し上げたいものがあります』
目の前の空間が光はじめた。
その光が小さくなっていく。
『さ、手を前に』
世界樹から言われた通りに手を差し出すと、光が小瓶になって俺の手に落ちてきた。小瓶の中には神々しく光る液体が入っている。
「これは?」
『トールさんが望んだもの。過去の傷でも治る万能薬。エリクサーです』
「な、なんで俺が、これを欲しいって分かったんです?」
『私の眷族に、ミーナさんの傷を治してあげたいと言っていたじゃないですか。私の枝の下か、周辺の森にいるエルフの近くで起きたことはほとんど把握できます。ただ──』
風が冷たい。悲しみにつつまれている。そんなように感じた。その冷たい風は、世界樹の方から流れてきている。
『私には眷族たちを守る力はありません。そばにいる彼らに力を与えたり、ちょっとした魔具を渡すことぐらいしかできないのです。だから彼らが人族に殺されているのを把握していても、私にはどうすることもできなかった』
全てが分かっているのに、手を出せないのはとても辛いと思う。
『トールさんは先ほど、勇者になるとおっしゃっていましたね』
「……はい。それも聞かれていましたか」
裏の、だけどね。
『私の力で眷族を強くするのも限界があるのです。もしまた強大な力を持った人族が侵攻してきたら、救いを求めても良いでしょうか? もちろん、相応の御礼はします。エリクサーや、強力な魔法が使える杖を製作可能な私の枝など。トールさんの要望に応じてご提供します』
「それはありがたい。でも俺たちはこれから旅をしようと思っているので、いつまでもこの国にはいられません」
『その点はご安心ください。私と契約を結んでいただければ、非常時に私がトールさんとミーナさんをここに召喚できるようになります。危機を救ってくださった後は、元居た場所に送り還すことも可能です』
す、すごいな。
さすが世界樹。
「ちなみに契約とはどんなものですか?」
隷属させられちゃうのは困る。精神的に依存させられて、世界樹の元から離れられなくなるとか。
『私から魔力の供給を受ける代わりに、求められたとき私の剣となって戦っていただく契約になります。危惧されているような精神に干渉するものではありませんのでご安心ください』
「頭で考えてることも分かるのですね」
脳以内に直接語りかけてきているので、そりゃそのくらいできちゃうんだろうな。
『その通りです。いかがでしょう? 契約を結べば、魔力量も今の数倍になります』
それは良い! エリクサーがもらえるのも十分ありがたいが、大人数に囲まれた時などに必要となるのは戦うための力。俺は魔法使いなので、それは魔力量に依存する。魔力量が増えるというのはとてもありがたい。
「ちなみに俺たちがどこか他の国でピンチになった時、ここに召喚で逃がしてもらうってことは可能ですか?」
『んー。あまりにも頻度が高いと困りますが、月に3回までなら対応します』
魔力量が増えるだけでなく、緊急脱出の手段までオプションで付けてもらえる。世界樹と契約をしない理由が見つからなかった。
懸念があるとすれば……。
「今回、人族がこの国を襲ったのは俺が生き延びたからでした。俺のせいで何人ものエルフが殺されたんです。それでも、エルフたちは俺を受け入れてくれますか?」
『先ほどミーナさんがおっしゃっていたでしょう。貴方は悪くないと。私も彼女の意見に賛同します。それからトールさんが救った女性や子どもたちはみんな、貴方にお礼がしたいと言っています。ララノアやラエルノアたちだってそう。この国でトールさんを責めるエルフはいません』
「良かったニャ、トール」
「うん、うん。ありがとうございます」
涙があふれて止まらなかった。
「俺と、契約をお願いします」
人族全ての敵になるつもりはない。でも俺は奴隷商人を絶対に許さない。奴隷商人に加担する者も俺の敵とみなす。そいつらと戦うための更なる力を得て、ついでにエルフたちも守ってみせる!
『ありがとうございます。では、いきますね。──汝、トールを我が守護者とし、ここに契約を結ぶ』
周辺が温かい光に包まれていった。
どこからか綺麗な声がした。
脳内に直接話しかけられるような、そんな声。俺と高校生たちを召喚した女神とは別の、とても心が落ち着く声だった。
『初めまして、世界樹と言います』
「せ、世界樹って。あの世界樹?」
見上げれば、その枝が空を覆っている。ミスティナス中央にそびえるこの巨木が俺たちに話しかけてきているのか? 信じられないが、俺たちに話しかけてきている存在からは声だけにもかかわらず、ものすごいオーラを感じる。
『私の眷族であるエルフ族を守ってくれて、本当にありがとう。お礼をしたかったのに、貴方たちが離れて行ってしまいそうだったから、ちょっと強引に出てきました』
「凄いニャ。ウチら、木とお話ししてるニャ」
『言葉を話す魔物や精霊がいるのです。植物が話したっていいでしょう。それはさておき、トールさんに差し上げたいものがあります』
目の前の空間が光はじめた。
その光が小さくなっていく。
『さ、手を前に』
世界樹から言われた通りに手を差し出すと、光が小瓶になって俺の手に落ちてきた。小瓶の中には神々しく光る液体が入っている。
「これは?」
『トールさんが望んだもの。過去の傷でも治る万能薬。エリクサーです』
「な、なんで俺が、これを欲しいって分かったんです?」
『私の眷族に、ミーナさんの傷を治してあげたいと言っていたじゃないですか。私の枝の下か、周辺の森にいるエルフの近くで起きたことはほとんど把握できます。ただ──』
風が冷たい。悲しみにつつまれている。そんなように感じた。その冷たい風は、世界樹の方から流れてきている。
『私には眷族たちを守る力はありません。そばにいる彼らに力を与えたり、ちょっとした魔具を渡すことぐらいしかできないのです。だから彼らが人族に殺されているのを把握していても、私にはどうすることもできなかった』
全てが分かっているのに、手を出せないのはとても辛いと思う。
『トールさんは先ほど、勇者になるとおっしゃっていましたね』
「……はい。それも聞かれていましたか」
裏の、だけどね。
『私の力で眷族を強くするのも限界があるのです。もしまた強大な力を持った人族が侵攻してきたら、救いを求めても良いでしょうか? もちろん、相応の御礼はします。エリクサーや、強力な魔法が使える杖を製作可能な私の枝など。トールさんの要望に応じてご提供します』
「それはありがたい。でも俺たちはこれから旅をしようと思っているので、いつまでもこの国にはいられません」
『その点はご安心ください。私と契約を結んでいただければ、非常時に私がトールさんとミーナさんをここに召喚できるようになります。危機を救ってくださった後は、元居た場所に送り還すことも可能です』
す、すごいな。
さすが世界樹。
「ちなみに契約とはどんなものですか?」
隷属させられちゃうのは困る。精神的に依存させられて、世界樹の元から離れられなくなるとか。
『私から魔力の供給を受ける代わりに、求められたとき私の剣となって戦っていただく契約になります。危惧されているような精神に干渉するものではありませんのでご安心ください』
「頭で考えてることも分かるのですね」
脳以内に直接語りかけてきているので、そりゃそのくらいできちゃうんだろうな。
『その通りです。いかがでしょう? 契約を結べば、魔力量も今の数倍になります』
それは良い! エリクサーがもらえるのも十分ありがたいが、大人数に囲まれた時などに必要となるのは戦うための力。俺は魔法使いなので、それは魔力量に依存する。魔力量が増えるというのはとてもありがたい。
「ちなみに俺たちがどこか他の国でピンチになった時、ここに召喚で逃がしてもらうってことは可能ですか?」
『んー。あまりにも頻度が高いと困りますが、月に3回までなら対応します』
魔力量が増えるだけでなく、緊急脱出の手段までオプションで付けてもらえる。世界樹と契約をしない理由が見つからなかった。
懸念があるとすれば……。
「今回、人族がこの国を襲ったのは俺が生き延びたからでした。俺のせいで何人ものエルフが殺されたんです。それでも、エルフたちは俺を受け入れてくれますか?」
『先ほどミーナさんがおっしゃっていたでしょう。貴方は悪くないと。私も彼女の意見に賛同します。それからトールさんが救った女性や子どもたちはみんな、貴方にお礼がしたいと言っています。ララノアやラエルノアたちだってそう。この国でトールさんを責めるエルフはいません』
「良かったニャ、トール」
「うん、うん。ありがとうございます」
涙があふれて止まらなかった。
「俺と、契約をお願いします」
人族全ての敵になるつもりはない。でも俺は奴隷商人を絶対に許さない。奴隷商人に加担する者も俺の敵とみなす。そいつらと戦うための更なる力を得て、ついでにエルフたちも守ってみせる!
『ありがとうございます。では、いきますね。──汝、トールを我が守護者とし、ここに契約を結ぶ』
周辺が温かい光に包まれていった。
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