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第24話 拘束、再び
しおりを挟む「んー。マジで指一本も動かせないな」
俺は今、顔以外全てコンクリートの中に埋め込まれていた。身体からコンクリートを絞り出せる能力保持者によって拘束されたんだ。
とりあえず殺されることはなかった。
殺されそうになっていたら、たぶんここにはいない。
(このような結果になってしまい、本当に申し訳ありません)
アーティのせいじゃないよ。君は危険かもしれないって忠告してくれたのに、俺がこの建物に入る選択をした。だからこうなったのは俺のせい。
問題はこれからどうしようかってこと。
直近の問題は尿意だな。
「だれかー。いませんかー? トイレに行きたいんけどー」
なんの反応もない。
俺は最初に落とされた穴の底で、コンクリート漬けになってる。俺が電気系の能力保持者だから、接近するのは危険だと朱里が周りの男たちに警告していた。
そのせいで誰も近寄ってこない。
「漏れそーなんですけど……」
足の指先までコンクリートの中なので、ここで漏らすと全部俺の身体で受け止めることになる。そんな最悪の状態は絶対に避けたい。
(近くに朱里様の気配はないですし、今のうちに逃げちゃいましょうか)
「え、逃げれるの?」
(拘束される直前、コンクリートにヴァリビヤナ粒子を混ぜ込みました。親和反応が進みましたので、現在祐樹様を拘束しているものは豆腐程度の強度しかありません)
豆腐って、そんな馬鹿な──って、マジじゃん!
先ほどまでは指一本動かせなかったのに、今は生暖かいゼリー風呂に入っているような感じになっていた。手足を自由に動かすことができる。
これなら逃げられる。
「だけど、トイレに行きたいから逃げるって、ありかな?」
(ヴァリビヤナ粒子で尿素等を分解することも可能ですので、このまま放出していただいても大丈夫ですよ)
さすがにそれは人としてどうよ。
てかヴァリビヤナ粒子、便利すぎない?
天才の小津朱里が発案したという粒子。俺の腕を再現してくれるし、服になって身体の清潔を維持してくれる。伸ばして攻撃手段にもなる。改めて考えると凄すぎ。
(中東の国で初めて能力因子に覚醒した人間が確認され、その周辺諸国で使われていた言葉『能力』が世界中に広がり、使われるようになりました。ヴァリビヤナとは、同じ言語で『最強の』や『万能な』を意味します)
ふーん。まさに万能粒子ってことね。
(その通りです。朱里様が考案し、重忠博士がプロトタイプまで造り上げました。しかしどうしても一度発散した粒子を収束させることができなかった。それを祐樹様から膨大な電力量を受け取って計算能力を高めた私が、政府研究施設の量子コンピューターの補助を受けて完成させた究極の兵器です)
これ兵器扱いなんだ。
確かに戦闘義手って言ってたけど。
(この戦闘義手の前では、いかなる材質の壁であっても祐樹様の行く手を阻むことはできません。また防御に回せば、至近距離で水爆が起動しても祐樹様をお守りできます。攻守ともに最強であり、万能兵器なのです)
凄いな。それだけ凄いなら、考案した朱里も完成形を見たいんじゃないかな? これを見せてあげれば、少なくとも敵から研究対象に変わるんじゃ……。
(研究対象となった場合、朱里様は祐樹様の腕を切り落とそうとするでしょう)
「あー。それはあり得る。さすがにまた腕がなくなるのは嫌だな」
(ですが朱里様にヴァリビヤナ粒子を使いこなしているのを見せるというのは良い考えだと思います。入手経緯などの説明を上手くすれば、味方だと思っていただける可能性もあるでしょう)
おっ。ちょっと希望が見えてきた。
それじゃとりあえず、誰か来てくれるのをもう少し待つか。できれば朱里が様子を見に来るか、俺に尋問目的で近づいてきてくれると良いんだけど。
その時、外から大きな爆発音が聞こえた。
「な、なに今の!?」
(建物外部で爆発があったようです。まだこの施設のセキュリティを突破できておらず、監視カメラをクラッキングできません)
アーティも様子が分からないらしい。
何やら遠くで悲鳴のようなのも聞こえた。
どうしよう。
気になるけど、逃げても良いかな?
んー。やっぱりトイレに行きたいから一旦ここから逃げよう! そんでついでに外の様子を確認して、なんにもなければこっそりここに戻ってくると。
(良い考えだと思います。親和が完了したこのコンクリートは硬度を自由に変更可能です。戻ってきた際には元の硬さに戻せばバレません)
オッケー。じゃ、一旦にげまーす!!
足に力を込め、俺を拘束していたコンクリートから一気に抜け出した。
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