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第21話 思わぬ収穫
しおりを挟む建物があるエリアを離れ、少しした時。
俺の後ろを歩いていた少女がうずくまってしまった。
「だ、大丈夫?」
「うっ、うぅぅ。怖かったぁぁ」
大粒の涙を流しながら泣き続ける少女。女の子とそれほど過ごした経験が無い俺にはどうすれば良いか分からない。アーティを頼りたいが……。
(私はただのAIですので、女心は分かりかねます)
俺が女の子を助けたから絶賛嫉妬中だ。
(嫉妬などしていません。そんな小娘程度に、この私が嫉妬など)
すっごい優秀な彼女にもこんな一面があるから親しみが湧くよね。まぁ、後でアーティの機嫌をとるとして、今はこの子をなんとかしなきゃ。
「立てる? この辺なにもないからさ。落ち着ける場所まで移動したいんだ」
かける言葉が見つからず、移動したい意図を正直に伝える。
(……祐樹様。御自身が彼女を買われたことをお忘れですか? 今の言い方ですと、早く君を襲いたいから移動しようよと言ってるようにも聞こえます)
そ、そんな意図は全くないよ!?
桐生に金を支払って彼女を引き取ったとはいえ、彼らが追いかけてこないとは限らない。少なくとも身を隠せる場所に移動したいと思っただけなんだ。
「ごめん。俺は君に手を出すつもりはない。安全な場所まで送り届けたいだけなんだ。だから君の家を教えてくれる?」
「い、家は。その……」
(5000万をポーンと支払った祐樹様が『君の家を知りたいんだ』って。さすがに怪しまれますよ)
「ごめんなさい。私、家が無くて」
「家が、ない?」
(そーゆー反応は予想外ですね。脈拍や視線移動などから、彼女の言葉が嘘ではないと判断します)
本当に家が無いんだ。
家族とかもいないのかな?
でもそれは流石に聞きずらい。
「じゃあ、帰る場所がないの?」
「私の家ではないですが、お世話になっている施設があるんです。も、もしよろしければ、そこまで付いてきていただけませんか?」
少女の身体が震えている。
そりゃあんな男どもに捕まれば怖いよね。
俺のことはとりあえず敵ではないって思ってくれたみたいだから、頼ってくれるなら力になってあげたいと思った。
「いいよ。案内できるかな? 俺が君を無事に送り届けてあげる」
「ありがとうございます! よろしくお願いします──あ、あれ?」
立とうとするが、足に力が入らない様子。
安心して力が抜けちゃったのかな。
「ほら、これを着て。俺が君を背負っていくよ」
少女の服はボロボロだったから、俺が着ていたシャツを渡しておく。彼女に手を差し出すと、初めはビクッとしたものの、おずおずと俺の手を取ってくれた。その手を引いて立たせる。そして彼女を背負って歩き始めた。
「この道をしばらくまっすぐでいい?」
「はい。そうです」
主幹都市といえ、地区全域に建物がひしめき合っているわけじゃない。ちょっとした森林エリアを抜けた先にも建物群があるようで、彼女の帰る場所はそこだという。
「あの……。私、重くないですか?」
「大丈夫、全然問題ないよ」
少女はその見た目に反して少し重いような気がしたが、苦になるほどではなかった。こういう時、身体が改造されてて良かったと思う。
「ちょっと聞いても良いかな」
「はい。なんですか?」
「君以外にも、あそこに捕まってた人はいる? もしいるなら近いうちに助けに行きたいんだ。俺一人でいけるかは、ちょっと分からないけど」
「ご、ごめんなさい。私、ほんとに捕まったばっかりだったんです。襲われそうになって、なんとか隙をみて逃げ出したところに貴方がいました。あそこにいた人たちとは違う雰囲気だったから、もしかしたら助けてくれるかもしれないって思って」
「そうだったんだ。助けられて良かった」
アーティ、他にも捕まっている人がいないかチェックしといて。
(承知いたしました。ただし本人の意志でそこにいるのかなどを判断して、要救助者を確定するには少々時間が必要です)
わかった。とりあえず進めて。
困ってる人みんなを助けられるとは思わないけど、手の届く範囲でできる限りのことはしたいと思う。俺の勝手な感情にアーティを巻き込んでしまうのは申し訳ない。
でも問題があるのを知ってて、俺がそれを解決する手段を持ってるのに何もしないっていうのはできない。力があるなら使うべきだって思うんだ。
(私は構いませんよ。危険だと分かっている所に飛び込むのは推奨できませんが、困っている人を助けたいという祐樹様の優しさは人として素晴らしいものです。貴方の望みを叶えられるよう私も全力を尽くします。是非、私を頼ってください)
「……ありがと」
「な、なにか言いました?」
アーティへの感謝の気持ちが口から漏れてしまった。
脳内で会話してるなんて、変人だと思われるよな。
とりあえず誤魔化しておこう。
「ごめん、なんでもないよ。ところで君の名前を聞いても良いかな? ちなみに俺は東雲。漢字だと、東の雲って書くの」
「東雲さんですね。私はアリスと言います」
俺は苗字を教えたけど、少女は名前を教えてくれた。
まぁ、それはさておき、俺は他にも気になっていたことがあった。
「アリスはひとりであそこを通ろうとしてたの? 危険って知らなかった?」
「危険なのは分かっていました。それに、詳しくは言えませんが安全なルートがあったんです。そこを通って私はいつも都市中心部まで買い出しに行っていました。ですが今日、そのルートがあの人たちにバレちゃったみたいで……」
そういうことだったんだ。
「捕まった時、ヤバいって思いました。ルートがバレていることをみんなに伝えないと、私が帰らないのを不審に思った仲間が捕まっちゃうって思ったんです。だから私は必死に逃げたんです」
……あれ、もしかしてこの子。
(祐樹様もお気づきになられましたか。恐らくこの子は、レジスタンスの一員です)
アーティが言う通りだと思う。通りがかった人間を日中から堂々と誘拐するような犯罪組織がいると分かっていたら、わざわざその地域を通ろうとしない。別の方面に買い出しに行く手段なんていくらでもあるはずだ。
危険を冒して都市中心に行こうとするのは、そこでしか入手できないものがあるからだろう。物流が飽和した今の時代、その場に行かなきゃダメっていうと──
(リアルタイムの情報、でしょうね。少し前までは情報こそ、どこにいても入手出来るものでした。しかし今、その情報は政府が全て監視しています。監視を掻い潜って政府の動向をチェックするには高度なハッキング知識を持つか、人が直接足を運ぶしかなくなっています)
そーゆー感じで、この子が危険を冒して中央都市に行こうとした目的は情報収集だと思ったんだ。ってことは、この子がお世話になってるって施設はレジスタンスたちのアジトである可能性が高い。
(偶然でしたが、この子を助けて良かったですね。彼女に祐樹様が助けたと証言してもらえば、一定の信頼は得られるでしょう)
うん、幸先良いね!
俺はアリスと少し会話しながら、ちょっと軽くなった足取りで先に進んだ。
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