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第20話 買収

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「ところでお前、名前は? なんて呼べばいい?」

「……東雲しののめです」

「オッケー、東雲だな。この先に行きたいって言ってたが、それはとある組織に会うのが目的だったりするか?」

(『違う』とお答えください)

「違います」

「なるほど。サっと答えられるってことは、この先にレジスタンスのアジトがあることは把握してるんだな。もし本当に知らなきゃ、何のことか聞くだろーし」

「え、あっ!」

 ヤバい、はめられた。

(問題ありません。この男が会話を誘導しようとしているのは把握済みです。この回答の方が今後の会話がスムーズになると推測されましたので)

 たったあれだけの会話で、そこまで想定できちゃうの凄いね。

(恐れ入ります。ちなみにこの男は祐樹様の反応で、レジスタンスの存在を知っていると確信を持ったようです)

 う゛っ。ご、ごめん……。

 いくらアーティが最適な回答を瞬時に導き出しても、実際に言葉に出したりするおは俺なのでボロが出てしまうことがある。これからはもっと気を付けないと。


「まぁ、そんなに硬くなるなよ。金も情報も、かなり高いでベルで持ってる超上流階級の坊主だってなりゃぁ、こっちも相応の態度で相手させてもらう」

 なんで俺が情報も持ってるって分かるんだろう?

(この地区にいるレジスタンスの存在は政府も把握していない超極秘事項。とはいえ人が生活する以上、周辺地域で何らかの情報が漏れたりすることはあるでしょう。彼らはそれを把握しているのです。そこに外部からやって来た祐樹様が何らかの事情を知っていそうだと把握したこの男は鎌をかけ、見事に引っかかった──と)

 もしかして俺、結構やらかしちゃった?

(先ほども言いましたが、大丈夫です。私にお任せください)

 もちろん任せるけど……。最悪の状態でどうしようもなくなったら、アーティはこのエリアを制圧しちゃおうとか考えてるでしょ。

(えぇ。その通りです)

 力技なんだよなぁ。でも俺がうっかり反応しちゃったりするのが悪いんだから、それは仕方ないか。いざという時はアーティに任せよう。

 俺は政府の研究施設に捕らえられてる人たちを助けるって誓った。そのためなら多少の無茶はしていかないといけないのかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺はスキンヘッドの男の後ろを歩いている。

「ところで東雲、300万くらい払えるか?」

(『払える』と)

「払えます」

「よし、良いね。軽く答えてくれるから好感が湧くぜ。お前、女に興味はないか? せっかくここを通るんだ。一晩くらい遊んで行けよ」

「『興味ない』とお答えください」

「興味は、ないです」

 昨晩、絶世の美女と寝たばかりだから。
 例え彼女の指示がなくても興味なしと答える。

「まぁそう言うなって。お前なら上玉を2、3人つけてやる。もし初物が良ければ、最近入荷したのをあてがっても良い。噛みつかれるかもしれんけどな」

 そう言いながら汚く笑う男に嫌悪感が湧いた。

 アーティには穏便にって言ったけど、こんなエリアは無くしてしまった方が世のためになるかもしれない。

(祐樹様がその気になられたのであれば、私はここの制圧に賛同いたします。ただしあまり派手にやると政府がこの場所に注目し、結果としてレジスタンスの拠点がバレる可能性が増すということをご了承ください)

 それはダメだ。俺だけだと捕まってる人々を救えない。俺にはたくさんの仲間が必要だから。こんな奴らのためにレジスタンスの人たちを危険に晒せない。

「なぁ東雲、ここで遊んで行けよ」

「結構です。追加で50万お支払するので、早く案内してください」

 スキンヘッドの男に手をかざすと、彼はしぶしぶと言った感じで対応した。

「金払いは良いのに、ノリがわりーな」

 支払いを済ませ、再び歩き始めようとした時──


「た、助けて!」

 建物の奥から16歳くらいの少女が走ってきた。ボロボロになった服を手で抑えながら、俺に向かって助けを求める。

「誰かっ! そいつを捕まえろ!!」

 少女の後ろから太った男が憤怒の形相で追いかけてきた。

 突然のことで唖然としていると、俺の少し前にいたスキンヘッドの男が動いた。俺の前にでると、少女に足をかけて転ばせたのだ。

 男が少女の髪を掴んで強引に立たせる。

「おめーは相変わらずトロいな」
「う、うるせー! さっさとそいつを俺に渡せ、桐生」

(祐樹様。走ってきた男もこの地域を取りまとめる幹部のようです)

 そうなんだ。でもそんなことどうでもいい。

 俺の脳内は、桐生と呼ばれた男に髪を掴まれて泣いている少女を助けるべきかどうかでいっぱいいっぱいだった。

「あー、ちょうどいい。東雲よ、コイツがさっき言っていた入荷したばっかの初物だ。気性は荒いが、顔と身体はそれなりによさげだぞ。これなら100万で良い。抵抗されるのが嫌なら動けなくなる薬を打っておいてやるよ」

「桐生お前、勝手に何言ってんだ!! コイツは俺が捕まえてきたんだ。最初は俺だろーが! ぶっ飛ばすぞ」

「こいつは上客なんだよ。良いじゃねーか、また捕まえてくれば」


 ねぇ、アーティ。
 
(はい、なんでしょう。祐樹様)

 この子を買うとしたら、いくら提示すればいいかな?

(それは夜の相手としてではなく、この男たちから少女を買い取るという意味で?)

 うん。

(最初は1000万と提示してください。それでも彼らは渋るでしょうから、5000万に引き上げてください)

「桐生さん。俺、この子を買います」

「おぉ! マジか。そいつぁ良かった。薬を打っとくか?」

 少女が恐怖に引き攣った顔をする。
 大丈夫、すぐに助けてあげる。

「不要です。1000万支払いますので、この子を俺にください」

「は?」
「おい、てめぇ。なにふざけたことをぬかしやがる」

 太った男が俺につかみかかってくる。
 その手を俺の腕が弾き、足を払って横転させた。

「うぐっ!! ──い゛!? いでぇぇぇぇ!」

 地面に倒れた男の腕を捻り上げる俺の身体。
 俺は何もしていない。身体が勝手に動いていた。

(身体を勝手に動かして申し訳ありません)

 アーティが俺の身体を操作していたようだ。
 全然問題ない。続けて。

(御意。ではもう一度、1000万で買うと交渉を)

「もう一度言う。1000万でこの子を買いたい」

「……ダメだ」

「じゃあ5000万出す」

 桐生は悩んだ素振りを見せたが、少ししてスマホを取り出した。

「わかった。もってけ」
「桐生、お前が決めんじゃ──いだだだだっ!!!」

 腕を更に捻って、太った男を黙らせておく。


 その後俺は桐生のスマホに5000万を送金した。

「こーゆー女が東雲の好みなんだな。もしまた似た奴を捕まえたらキープしといてやるよ。このデブを能力ティロンなしで締め上げる実力がありゃ、ここを自由に歩ける。女に逃げられる心配もないだろ。いつでも待ってるぜー」

 ニヤニヤ笑う桐生に背を向け、俺は少女を連れて治安の悪い地域を抜けた。
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