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第7話 誓い
しおりを挟む緩やかな傾斜のある通路をひたすら進んでいく。大きく左に曲がっているこの通路は、途中で何か所かのフロアを経由して地上まで繋がる巨大な螺旋状になっているらしい。
ここは地下にある巨大な施設だとアーティから聞いた。そして俺が捕らえられていたのが施設の最深部だったらしく、外に出るまでかなり距離がある。
そんな中、朗報もあった。
外に出るため走り続けているんだけど、全く疲れないんだ。息も切れず、結構なスピードでずっと走っている。これも身体を改造されていた効果なのかな?
(その通りです。祐樹様の身体には膨大な電力が出入りしていました。それにより全身の筋肉が活性化し、通常の人類には見られない高性能な肉体となっています)
俺、すごい身体になっちゃったみたいだ。
「あれ? でも俺は最初まともに立つこともできなかったよ? あれはなんで?」
(祐樹様がお目覚めになってすぐ立てなかったのは、長期間拘束の影響ならびに筋肉だけが異常に発達したことにより、運動神経と筋肉を接続する神経筋シナプスに異常が発生していたためだと判明しています。こちらは戦闘義手を接合する際に修復させていただきました。また、過去と現在の運動能力の差による認識のズレは今後、私が補正させていただきます)
俺は炎鬼の攻撃を避ける時、自分がイメージした以上に動けてしまって驚いた。でもこれからはあれがもっと俺の意識通りにできるようになるらしい。
そーゆーのいいね。
とてもワクワクします。
勝手に身体を改造されたのを許せるわけがない。でも今はもう、これは俺の力だ。アーティのサポートがあれば俺は強くなれる! そんな確証があった。
──***──
しばらく走ると壁が見えてきた。それは俺が炎鬼と戦ったラボフロアの壁とよく似ている。ただしここの壁には複数の窓があり、ドアもガラス製で向こう側が見える。
「アーティ。ここは?」
(実験場と呼ばれるエリアです)
なんか嫌な感じがした。
「……もしかして、ここには俺と同じように捕らえられてる人がいる?」
(います。ですが彼らを今回、救出していくことはできません)
俺がやろうとしたことをアーティが予測し、先に止めてきた。俺も彼女が静止してくることを予測もできたけど、流石に見過ごせない。
「助けていこうよ。アーティがいれば何とかなるでしょ」
俺が頼めばアーティは何とかしてくれると思った。彼女のサポートがあれば、俺は政府軍のNo.5にも勝てるんだから。
でもアーティからの回答は否定だった。
(ダメです。この施設に捕らえられているのは795名。そのうち、即時自力で動けるのは152名のみ。奪取したアーマロイドなどを用いても、300名ほどしか輸送できません)
「そ、そんなにいるの!?」
数十人くらいかと思っていた。それに俺自身も長い間拘束されて自力で動けなくなっていたんだから、同じようにすぐ動けない人がいるってことも考慮しなきゃいけなかった。
(仮に自力で動ける者たちを逃がしたとしても外部に協力者がいない今、私と祐樹様だけで彼らを政府軍から守り切ることは不可能であると断言します)
「外に逃げたら、マスコミとかに『政府に拘束されていました。他にも捕まっている人たちがいます!』って言うのは?」
(この国では言論の自由がまだ生きているように見せかけられていますが、実は全てのメディアは既に政府の管理下にあります。SNSで政府に不都合な書き込みをしてもAIにより即時削除され、政府批判をしすぎれば秘密裏に処理されます)
「えっ」
(AIや映像編集の技術が発達しすぎたのです。情報はいくらでも操作可能で、それでも都合の悪いことがあれば能力で実力行使。政府が国内上位の能力保持者ほぼ全てを抱え込んでいるので、この国には政府に反抗する勢力がほとんど存在しません)
「そ、そんな……」
世界の国々と比べたらそれなりに豊かで平和。漫画や映画とかで見るような闇の組織とか、ただの作り話だろって思ってたのに。
政府が真っ黒なんですか!?
(一部の政治家が悪事を働いている──という話ではありません。この施設をご覧になられて、少しはご理解いただけたはずです。政府そのものが、明確な意思を持ってこの巨大な地下施設を運用しているのです)
「だから、この先にいる人たちを連れては逃げられないって? 諦めろって? でも……。そ、そんなのできないよ。だって俺、知っちゃったもん」
強引に拉致され手足を切り取られる人がいる。身体に電極を刺され、電池として扱われる人たちがいる。
俺は意識のないうちに改造と称した手術が行われたので、痛みとかはほとんど覚えていない。でも能力の効率を高めるために拷問のようなことをされた人たちがいることを知ってしまった。
見過ごせるわけがない。
捕まってる人たちを無視できなかった。
(……私が埋め込まれたのが、祐樹様で良かった)
「えっ、どうしたの急に」
(ご自身が厳しい環境に置かれてなお、他人の心配ができる御方と一緒になれたこと。私は誇りに思います。貴方のためならどんな困難も打ち砕いてみせましょう)
「それってつまり、ここにいる人たちを逃がすのに協力してくれるってこと?」
(もちろんです。しかし、今日ではありません)
「一旦逃げて、協力者を得るとかそんな感じかな」
(その通りです。私は先ほど『政府に反抗する勢力がほとんど存在しない』と申し上げました。少数ですが、この国が悪事を行っていることに気付き、政府に反旗を翻すレジスタンスがいるのです)
「政府に抵抗する人たちがいるんだ!」
希望が見えた気がした。レジスタンスにここのことを伝えて、救出を手伝ってもらえば良い。俺も戦力になれるはず。この施設から助け出した人たちの中にも、協力してくれる人が現れる可能性がある。そうして勢力が大きくなれば一般人も政府の裏の顔に気付くようになると思う。
(ただし、レジスタンスに加わるという選択は祐樹様の身を危険に晒す可能性があります。貴方おひとりであれば、政府軍のNo.5すら撃退可能。ですが守らなければならないものができると全力での戦闘ができなくなります。それだけ危険が増す。祐樹様がお怪我をなさることも増えてくるでしょう)
「確かに銃を持った人に立ち向かうのとか想像できないくらい怖いよ。生身で戦車を破壊できるような軍人さんと戦うとか考えたくもない」
戦うのが怖いって理由だけじゃない。この国が俺たちに提供してくれていたサービスやインフラとかを、今後は満足に使えなくなるかもしれない。それが政府に反抗するってこと。
「でも俺の能力を上手く使えば、政府軍で上位の能力保持者にも勝てちゃう。そして俺の能力を上手く使ってくれるアーティがいる。だからやらなきゃ! 俺が、俺たちが、戦わなくちゃいけない……と思う」
(最後はなんだか弱気ですね。ですが、それが貴方らしい。大きな不安を抱えながらも立ち向かおうとする姿。私は愛おしく感じます)
女性にそんなこと言われると照れるな。
ちなみにアーティって女性で良いよね?
綺麗な良く通る女性の声だから、そう扱ってた。
(ふふふ。どうでしょうね。いつか分かるかもしれません)
何故かはぐらかされた。
(さ、脱出しますよ。今日はこの実験場を通らずに地上へ向かいます)
「……うん。わかった」
目の前の部屋に向けて拳を掲げる。
絶対に戻ってくる──そう誓った。
「待っててね。俺がみんなを助けにくるから」
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