春の庭

春の庭

今日は…そうね、きっと晴れよ
陽の光がもう届きそう
まだ少し寒いから、何か羽織りなさい
…何よ、私の優しさを笑うだなんて

明日は…多分、雪が降るわ
季節外れの冷たい匂いがするの
また縁側でお茶を飲むのも良いかな
…勿論、貴方も付き合うのよ

思えば有り触れた一生だった
誰かを愛して、愛されて
…ええ、何となく分かってしまったの
この夢はもうじき弾けるのでしょう？

｢人間って随分縮むのね
…別に、悪いとは言ってないじゃない
嫌いな奴の世話をする程、私は性格良くないの｣

貴方の目は、もうまともに光を捉えない
だから、私が代わりに言葉を紡いであげる
どんな花が咲いているのか
どんな鳥が飛んでいるのか
世界の全てを、伝えてあげる

｢前に言ったかしら
…私って神様らしいわよ
この地に植えられて、ずっと生きてきた｣

人間一人守る事にさえ必死で、貴方が何処へ逝くのかも知らない
…御立派な神様だこと

｢…嗚呼、聞こえなかった？
良いわよ、大した事言ってないから｣

人間の世話なんて手間が掛かるから
次はもっと若い内に会いに来なさい、なんて憎まれ口を叩いて

…頬を撫でる、暖かな風
終わりを告げる春が来る

ねえ、聴こえる？
私、こんなに沢山咲けたわ

貴方の世界は、こんなにも美しいのよ