23 / 95
第二章〜セカンドフィル〜
第二十二話「密造酒を造ろう 上」
しおりを挟む
俺の正体を知ってから、明らかに不機嫌になったチャップ。
「……兄さん、お言葉ですが、俺たちがこいつのせいで、仲間が犠牲になってるんですよ。それでも、こいつと手を組むんですか?」
「これは俺の決定だ、チャップ。まさか、俺に楯突く気か?」
いよいよ、剣呑な雰囲気になってきたぞ。チャップの言い分も、分からないではない。<三頭蛇>の何人かは、ティナの手によって殺されている。ティナは、俺を襲ってくる全員を殺すわけではなく、決死の覚悟でなりふり構わず、俺を殺す事を諦めなかった奴だけを殺していた。
俺だって、殺さなきゃ殺される状況だっただけに、言われぱなっしは性に合わないのだが、ここで俺が口を挟めば、ブルガの面子に関わる。黙っておくのが、得策だろう。
「でもよ!!」
チャップが、さらに捲し立てようとした、その時だった。ブルガの拳が、チャップの顔にめり込んだ。そして、彼の小さくも逞しい体は、石飛礫のように鉄屑の瓦礫の山に飛んでいった。
「ごちゃごちゃウルセェ!! お前は黙って、俺のいう通りに鉄を打ちゃぁいいんだよ!!」
チャップは、鼻、口から血を流していた。本当に、どんな馬鹿力してんだよ。こいつと殴り合わなくて正解だったな。チャップは、あれだけの力で殴られても意識を保っていた。
「うっ、うぅ。分かったよ、兄貴」
「チッ、おいショウゴ。んで、お前はこいつに何造らせる気だ?」
「あぁ、蒸留器さ」
「蒸留器? なんだそりゃぁ」
「書くものは、ないよな。じゃ、今から地面に書くよ」
俺はせっせと、密造酒時代に作られた蒸留器を、地面にその辺の鉄屑で描き始めた。
「おい、チャップ!! いつまでのびてんだ! こっちこい、お前がこれを造るんだぞ!!」
「へい」
チャップは、起き上がってきて、力むと鼻に詰まった血を全部出して、口の中に溜まった血も吐き捨てた。そうして、俺の場所までやってくると、俺の描いた蒸留器を見て、少し考え込んでいた。
「この螺旋状の部分は、空洞か?」
「そうそう、大きな金属の器から伸びてるここから、ここまでは中が空洞で、お酒がここを通って、この螺旋状の管の中で冷水によって冷されるんだ。すると、高濃度の酒精が雫になって出てくるっていう仕組み」
「鉄の管は薄くないとダメか?」
「そうだね、特にこのお酒を冷やす螺旋部分は、可能な限り薄い方が効率いいかもね」
チャップは、意外と話してみると、職人なのが伝わってきた。初めて見る装置なのに、構造を理解し、細々とした部分への指摘が的確だった。
「兄貴、これなら俺でも造れそうです」
「そうか、必要な資金は組織が出す。しっかり、造れや」
「ういっす」
「これで、肝心な蒸留器は大丈夫そうだな」
「あとは何が必要なんだ?」
基本は、ウイスキー作りと一緒で、穀物に砂糖を加えて糖化、そこに酵母を加えて発酵させる。すると、アルコールつまり酒精が含まれた麦汁が出来あがる。その麦汁を、蒸留器に入れて、アルコールだけを抽出するわけだ。
「まずは、酒の原料となる穀物に、砂糖、あとはエールの上澄みの泡が必要です。あ、あと、お酒を作る工場と道具ですね」
「よし、なら俺の組織が持ってるエール工場に行くぞ」
ブルガはそういうと、ズカズカと歩き始めた。俺は彼の後を追って話しかけた。
「え、エール工場なんて持ってたんですか?」
「あのな、テメェがこの街に来るまで、平民街の酒屋は俺が取り仕切ってたんだ。それも、エール工場を抑えてな」
「だったら、シノギとしては十分なんじゃ……」
「バカ言ってんじゃねぇ! お前のせいで、酒類のシノギは少なくなるし、大黒柱だった薬はおじゃんだ!! このままじゃ、俺たちは影響力を失って、殺されるしかなくなるんだよ」
オタクらは、いない方がマシだってんだよ。でもまぁ、歌舞伎町の時もそうだったけど、ヤクザの取り締まりが厳しくなって、奴らも絶滅危惧種になった。そうなると、ヤクザにも成れない半グレ共がのさばってくる。あいつらのタチの悪いところは、悪の中の善悪、それも越えてはいけない一線を軽々と、踏み越えちまうところだ。
一昔前の歌舞伎町だったら、そういう奴がヤクザのシマ荒らせば、警察が手を出せなくても、裏家業の人間同士で治安が維持されたもんだ。
アーネット子爵が、薬を捌いていたブルガを飼っていたのも、こいつが一線を超えない奴だからだろうな。聞くところによると、ブルガは薬を捌いてはいても、女子供にシャブは売ってなかったみたいだ。こいつは、こいつなりの悪の中の善悪を持っている奴なんだ。
「お前がマシな奴だなんて、絶対認めねぇけど、選択肢がないのもまた事実か」
「何、ぶつぶつ言ってんだ?」
「なんでもねぇよ」
そうこうしているうちに、俺たちは北門南西の産業区画にやってきていた。ここでは、貴族の紡績工場や食品加工といった工場エリアになっていた。その大きな建物のそばに、そこそこ大きな建物があった。建物の入り口には、首に蛇の刺青を入れた、ブルガの子分が立っている。
「「ご苦労様です」」
「おう」
ブルガを前にして、子分その一とその二が敬礼しながら答えた。まるで軍隊だな。俺とブルガは、工場内に入った。すると、麦汁の香ばしい匂いと甘い香りが漂ってきた。
「……兄さん、お言葉ですが、俺たちがこいつのせいで、仲間が犠牲になってるんですよ。それでも、こいつと手を組むんですか?」
「これは俺の決定だ、チャップ。まさか、俺に楯突く気か?」
いよいよ、剣呑な雰囲気になってきたぞ。チャップの言い分も、分からないではない。<三頭蛇>の何人かは、ティナの手によって殺されている。ティナは、俺を襲ってくる全員を殺すわけではなく、決死の覚悟でなりふり構わず、俺を殺す事を諦めなかった奴だけを殺していた。
俺だって、殺さなきゃ殺される状況だっただけに、言われぱなっしは性に合わないのだが、ここで俺が口を挟めば、ブルガの面子に関わる。黙っておくのが、得策だろう。
「でもよ!!」
チャップが、さらに捲し立てようとした、その時だった。ブルガの拳が、チャップの顔にめり込んだ。そして、彼の小さくも逞しい体は、石飛礫のように鉄屑の瓦礫の山に飛んでいった。
「ごちゃごちゃウルセェ!! お前は黙って、俺のいう通りに鉄を打ちゃぁいいんだよ!!」
チャップは、鼻、口から血を流していた。本当に、どんな馬鹿力してんだよ。こいつと殴り合わなくて正解だったな。チャップは、あれだけの力で殴られても意識を保っていた。
「うっ、うぅ。分かったよ、兄貴」
「チッ、おいショウゴ。んで、お前はこいつに何造らせる気だ?」
「あぁ、蒸留器さ」
「蒸留器? なんだそりゃぁ」
「書くものは、ないよな。じゃ、今から地面に書くよ」
俺はせっせと、密造酒時代に作られた蒸留器を、地面にその辺の鉄屑で描き始めた。
「おい、チャップ!! いつまでのびてんだ! こっちこい、お前がこれを造るんだぞ!!」
「へい」
チャップは、起き上がってきて、力むと鼻に詰まった血を全部出して、口の中に溜まった血も吐き捨てた。そうして、俺の場所までやってくると、俺の描いた蒸留器を見て、少し考え込んでいた。
「この螺旋状の部分は、空洞か?」
「そうそう、大きな金属の器から伸びてるここから、ここまでは中が空洞で、お酒がここを通って、この螺旋状の管の中で冷水によって冷されるんだ。すると、高濃度の酒精が雫になって出てくるっていう仕組み」
「鉄の管は薄くないとダメか?」
「そうだね、特にこのお酒を冷やす螺旋部分は、可能な限り薄い方が効率いいかもね」
チャップは、意外と話してみると、職人なのが伝わってきた。初めて見る装置なのに、構造を理解し、細々とした部分への指摘が的確だった。
「兄貴、これなら俺でも造れそうです」
「そうか、必要な資金は組織が出す。しっかり、造れや」
「ういっす」
「これで、肝心な蒸留器は大丈夫そうだな」
「あとは何が必要なんだ?」
基本は、ウイスキー作りと一緒で、穀物に砂糖を加えて糖化、そこに酵母を加えて発酵させる。すると、アルコールつまり酒精が含まれた麦汁が出来あがる。その麦汁を、蒸留器に入れて、アルコールだけを抽出するわけだ。
「まずは、酒の原料となる穀物に、砂糖、あとはエールの上澄みの泡が必要です。あ、あと、お酒を作る工場と道具ですね」
「よし、なら俺の組織が持ってるエール工場に行くぞ」
ブルガはそういうと、ズカズカと歩き始めた。俺は彼の後を追って話しかけた。
「え、エール工場なんて持ってたんですか?」
「あのな、テメェがこの街に来るまで、平民街の酒屋は俺が取り仕切ってたんだ。それも、エール工場を抑えてな」
「だったら、シノギとしては十分なんじゃ……」
「バカ言ってんじゃねぇ! お前のせいで、酒類のシノギは少なくなるし、大黒柱だった薬はおじゃんだ!! このままじゃ、俺たちは影響力を失って、殺されるしかなくなるんだよ」
オタクらは、いない方がマシだってんだよ。でもまぁ、歌舞伎町の時もそうだったけど、ヤクザの取り締まりが厳しくなって、奴らも絶滅危惧種になった。そうなると、ヤクザにも成れない半グレ共がのさばってくる。あいつらのタチの悪いところは、悪の中の善悪、それも越えてはいけない一線を軽々と、踏み越えちまうところだ。
一昔前の歌舞伎町だったら、そういう奴がヤクザのシマ荒らせば、警察が手を出せなくても、裏家業の人間同士で治安が維持されたもんだ。
アーネット子爵が、薬を捌いていたブルガを飼っていたのも、こいつが一線を超えない奴だからだろうな。聞くところによると、ブルガは薬を捌いてはいても、女子供にシャブは売ってなかったみたいだ。こいつは、こいつなりの悪の中の善悪を持っている奴なんだ。
「お前がマシな奴だなんて、絶対認めねぇけど、選択肢がないのもまた事実か」
「何、ぶつぶつ言ってんだ?」
「なんでもねぇよ」
そうこうしているうちに、俺たちは北門南西の産業区画にやってきていた。ここでは、貴族の紡績工場や食品加工といった工場エリアになっていた。その大きな建物のそばに、そこそこ大きな建物があった。建物の入り口には、首に蛇の刺青を入れた、ブルガの子分が立っている。
「「ご苦労様です」」
「おう」
ブルガを前にして、子分その一とその二が敬礼しながら答えた。まるで軍隊だな。俺とブルガは、工場内に入った。すると、麦汁の香ばしい匂いと甘い香りが漂ってきた。
0
お気に入りに追加
1,258
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる