4 / 21
追い詰められた悪役令嬢、
実家の領地へカミング・ホーム!(上)
しおりを挟む
ミュレーズ伯爵領はかつて、金鉱が発見されて興隆した土地だった。
金鉱は祖父の代までざっくざくと発掘され、伯爵家に富をもたらした。
だけど鉱脈は有限。
父の代では金鉱石はもうほとんどとれず、それに頼らない新事業を展開しないといけなかったのだけれど。
「活気がないですね」
「税の値上げに、領民も疲弊しているのよ。さっさと他領に夜逃げできた人たちは良かったけれど、それができない人たちに負担が偏っちゃってるから」
ミュレーズ伯爵家の領内にある街の一つに入ると、シグルドがこれまでずっと歩いてみてきた領民たちの様子について一言物申した。
一回目の人生では気づかなかった領民の生活。
死に戻った二回目以降の人生で、死なないようにと足掻いているうちに知ったことの一つだったわ。
ミュレーズ伯爵領は決して裕福じゃない。
それなのに伯爵家にはいつも、母や妹のドレスや宝石が溢れかえっていた。
「こうして領地に戻ってきたわけですがお嬢様、これから具体的に何をするので?」
「私ね、気になることがあるのよ」
「気になることですか」
そうなのよ。前世からずっと気になっていたことがあったのよ。
「母と妹の散財は、私が王家に嫁ぐのが決まってから得ていた結婚支度金で賄っていたわ。それでも足りないだけの贅沢を尽くしていた。さらには経営そのものが赤字で、領地は回っていなかったはずなのよ。それなのに変わらない贅沢な暮らし。借金か裏帳簿があるのは、確実よね?」
「見事な慧眼です。それで、お嬢様の言う借金だか裏帳簿だかの証拠はあるんですか?」
「ないわ!」
そんなもの見つけてたら、とっくに王家に提出してたわよ!
「シグルドも知っているでしょう? 私、石盤の儀式のために基本的に王都にいたんだもの」
「そうでしたね。じゃあなんで、あんな自信満々にご実家が悪さしてると確信したんですか。冤罪ですよ、冤罪」
「むしろ私が冤罪かけられて殺されているのよ!!」
義弟や妹も断罪側に回っちゃってるの見る限り、実家にも見捨てられてね!!
「まぁ、その冤罪でね? 思い出したんだけどね?」
「はい」
「義弟のカルロスがね。前に話していたのを聞いちゃったのよ」
「聞いちゃったとは」
過疎化している商店街を歩きながら、隣を歩くシグルドにだけ聞こえるように声を潜める。
あれは確か、カルロスが養子としてうちに来たばかりの時のこと。
「あの子、養子だし、根が真面目だったのよ。それでね、母と妹の散財について、直接妹に注意してたのを見たことがあったのよ」
「本当ですか? あの愚息殿、率先してセレーナ様に貢いでいるように見えましたが」
「今はね。でもあの時はまだ真面目な子で、その時からころっと人が変わったように愚弟の性格が変わったのよ。セレーナの下僕みたいになんでもかんでも言う事聞いちゃう駄目な子になっちゃたわ。家の使用人や、父のようにね」
本当に突然だった。確かあれに気がついたのは四回目の人生だったはず。義弟だけでも餌付けして味方にしてやれないかしらと思って、色々と義弟に目をかけていたのよね。
最初から私のことを嫌っていたのかと思っていたけれど、そんなことなかったわ。最初の数日、構ってみれば、彼はとてもいい子だった。
でも、ある日を境に、彼の人柄がガラリと変わってしまった。
「つまりお嬢様の結論は?」
「妹はたぶん、幻惑や魅了系の魔法かスキルが使えるわ。それで人をたぶらかして、贅沢をしている。魔法の残滓は見つからなかったから、おそらく神のギフトによるスキルだと思うんだけれど」
「素晴らしい慧眼ですお嬢様。魔法のことだけは人一倍頭が回りますね」
シグルドが拍手を送ってくれる。すごいやる気のない拍手だけれど、シグルドが褒めてくれるのだからありがたく受け取っておくわ!
商店街を通り抜けて、住宅街に。そろそろ宿屋を探そうかと視線を巡らせていると、シグルドは私よりも声量をしぼって話しかけてくる。
「セレーナ様の魅了系スキルは当たりだと思います」
「本当?」
「俺もセレーナ様の魅了スキル、かけられたんで」
「え?」
え?
思わず立ち止まってしまったわ。
外套を頭から被っているシグルドを、下から見上げる。
「……かけられたの?」
「かけられましたよ」
「いつ!?」
そんな素振りあったかしら!?
「お嬢様に拾われて、五年くらいの頃でしょうか。身なりも言葉遣いも整った頃、セレーナ様に言い寄られて」
「言い寄られて!?」
「めちゃくちゃ甘い匂いがして、心臓バックンバックンして、体温が急上昇したんですけど」
「大丈夫だったの!?」
「あの時お嬢様が」
「私が!?」
「お部屋で魚に変身する魔法薬を作って服用されて、解除できずにぴちぴちと床でのたうち回っていたのを見ていなかったら、そのままホイホイ、セレーナ様にお持ち帰りされていたかもしれません」
「あの件は忘れて頂戴!!!!」
あったわね、そんなこと!! 崖に飛び込むときに魚になればいいわ! って思って作った魔法薬だったけれど、結局、魚に変身したところで、私は自分で岸に上がれないことに気がついて、この案は没にしたのよね!!
「あの時、お嬢様に急ぎ解除薬を作らねばの気持ちのほうが勝っていましたし、なんなら解除薬の作成後に味見をしたので、スキルも解除されたと思います。普通なら解除薬なんて飲む機会ありませんしね。素晴らしいです、お嬢様。知らずしらずの内に、セレーナ様の魅了スキルを阻止してるんですから」
「……なんだか釈然としないわ……」
大変不服ではあるけれど、でも、それでシグルドが妹の魔の手から逃げられたというのなら、喜ぶべきよね。
「ちなみにですが」
「なぁに?」
「スキルをかけられた後、けろっとしている俺に向けてセレーナ様が『なんで魅了スキル、かかってないの!? やっぱりお姉様がなにかしているんだわ!』って小声で言っていらっしゃるのを聞いたので、確実です」
「シグルド、さすがの地獄耳ね。そして私はその報告を聞いた記憶がないわ」
「俺も言った記憶がありません。さすがの俺も、魚になって部屋でぴちぴちのたうち回っているお嬢様を前に、気が動転していたと思います」
それは申し訳なかったわ! ごめんなさいね! 私のせいね! 私も二度とあのような状況にはなりたくないわ!
「とにかく、妹が魅了スキル持ちなのは確実なのね? それじゃあやっぱり、義弟もそのスキルにやられていると思うの」
「カルロス様どころか、旦那様と使用人もでしょう。伯爵家の裏稼業、使用人もグルでしたから」
「そうよそれ! 私が掴めなかったその証拠! シグルドは何か知っているのよね!」
とりあえず立ち止まりっぱなしでは不審者すぎるわ。
また歩きだすと、シグルドも私の歩調に合わせて歩き出す。
「当然です。俺はお嬢様の忠実な下僕なので。とりあえずあの頃はお嬢様は王都にいて、直接的にこの件と関係していなかったので、一族断罪などでお嬢様に飛び火しないようにと口をつぐんでおりました」
「貴方本当に優秀ね! でも報連相はちゃんとしてほしかったわ!!」
冤罪をかけられる前にそれを知っていたら、もしかしたらまた違う未来があったかもしれないのに!
「まぁいいわ。一族断罪の可能性があるくらいあくどいことを我が家はしていたのね? 今こそそれを暴露する時よ。全て話しなさい」
「仰せのままにお嬢様」
シグルドがお耳を拝借と言うようなジェスチャーをしたので、私はまたまた立ち止まってシグルドに耳を傾ける。髪を耳にかければ、彼は私より高い背をそっとかがめて、内緒話をするように教えてくれる。
「旦那様は鉱山夫を夜逃げしたと見せかけて奴隷商に売りつけ、カルロス様は何も出ないはずの鉱山を担保に闇金に手を付けてます。ちなみにその闇金は使用人頭のリークで、鉱山から中毒性の高い鉱毒が得られるのを知っています。奥様は使用人の手引のもと、その闇金のトップと前々から肉体的関係を持っておりまして、実際のところ、セレーナ様はおそらく旦那様ではなく、そのお相手の方との不義の子だと思われます。なお、おそらくスキルではございませんが、奥様も魅了系の魔法が使用できる疑惑がありまして、こちらは調査中でした」
「ちょっと待って、情報量が多すぎるわ」
私の想像を遥かに超えていく内容量だわ。
脱税とかで、領民の血税をちょろまかしているくらいだと思っていたのに、私の実家、救いようがないくらいにまっくろくろすけじゃないの!
「それでよくこれまでバレずにこれたわね!?」
「そのバレるかどうかの線を見極めていたのが、おそらく奥様です。魅了系魔法を使用して、多少の矛盾点をごまかしていたのでは?」
「シグルド、お母様が魅了系魔法を使えると思った根拠は? お母様から魔法の痕跡なんて感じたことがないのだけれど」
「認識阻害の魔法具を使用されています。一度、その魔法具の調子が悪いとかで、使用人に修理をさせるように申しつけているのを聞きました」
「本当に貴方、地獄耳ね……」
私の従者が優秀過ぎて怖いわ。
でも、挙げられた我が家の真っ黒な話を聞いてしまうと、シグルドが下手につつかず口をつぐんでいたのもよく分かるわ。これ、うっかりつつけば、確実に私にも飛び火したわ。
「確かにこれだけ並べば、一族郎党、断罪になりかねないわね。父の人身売買は、証拠が上がれば言い逃れできないわ。闇金方面は借金の問題だけれど……」
「鉱毒が出ると知りながら、売り飛ばそうとするのは危機管理能力が疑われますのでアウトです」
「ぐぅの音も出ないわ」
本当に我が家、ろくでもないわね!
あの純粋だった義弟ですら、ろくでなしに染まってしまって!
私を人身御供にして、自分たちは贅沢している人でなしどもとか思っていたけれど、人でなしどころの話じゃないわ! 冤罪かけられている私なんかよりも、彼らを断罪するべきでしょう!! 騎士団ちゃんと仕事して!!!
「さて、その上でお嬢様はどう動かれますか?」
「ちなみにだけど、お父様が鉱山夫を売り飛ばしていたっていう奴隷商は、どういう伝手で?」
「着目点、素晴らしいです。闇金と癒着してます」
「そこまで調べていた貴方が怖いわ。でもそうね。それなら、やることは一つね」
私は不敵に笑ってみせる。
外套からはみ出している短くなってしまった黒い髪が、風に吹かれて揺れている。
一際強く風が吹いて、前髪が巻き上がってしまったから、私の忌まわしい金の瞳がシグルドに見えてしまったかも。
それでもシグルドは昔から、私から視線を外すことはなくて。
「奴隷商を潰しましょう。この国で奴隷は違法だから、そこから芋づる式に我が家と闇金が釣れるはずよ」
「具体的手段は?」
「拠点を私の魔法で吹き飛ばしてあげる」
「ご令嬢とは思えない力技、惚れ惚れしますね。ただ魔法で吹き飛ばす前に、罪なき奴隷達は解放してあげてくださいね」
「当然よ! 私を誰だと思っているの!」
「アニエス・ミュレーズ様。俺の生涯の主人で、最愛の人で、そろそろ一線超えさせてほしいお嫁さん候補です」
「貴方、家を出てから欲望に忠実になったわね」
「貴方を手籠めにできる日が待ち遠しいです」
「言い方!!」
私はまだ貴方と結婚するなんて言ってないし、そんな日が来るのも望んではいないんですからね!
「残念です」
「何も言っていないわ!」
真顔で私の心を読むのはやめて。
金鉱は祖父の代までざっくざくと発掘され、伯爵家に富をもたらした。
だけど鉱脈は有限。
父の代では金鉱石はもうほとんどとれず、それに頼らない新事業を展開しないといけなかったのだけれど。
「活気がないですね」
「税の値上げに、領民も疲弊しているのよ。さっさと他領に夜逃げできた人たちは良かったけれど、それができない人たちに負担が偏っちゃってるから」
ミュレーズ伯爵家の領内にある街の一つに入ると、シグルドがこれまでずっと歩いてみてきた領民たちの様子について一言物申した。
一回目の人生では気づかなかった領民の生活。
死に戻った二回目以降の人生で、死なないようにと足掻いているうちに知ったことの一つだったわ。
ミュレーズ伯爵領は決して裕福じゃない。
それなのに伯爵家にはいつも、母や妹のドレスや宝石が溢れかえっていた。
「こうして領地に戻ってきたわけですがお嬢様、これから具体的に何をするので?」
「私ね、気になることがあるのよ」
「気になることですか」
そうなのよ。前世からずっと気になっていたことがあったのよ。
「母と妹の散財は、私が王家に嫁ぐのが決まってから得ていた結婚支度金で賄っていたわ。それでも足りないだけの贅沢を尽くしていた。さらには経営そのものが赤字で、領地は回っていなかったはずなのよ。それなのに変わらない贅沢な暮らし。借金か裏帳簿があるのは、確実よね?」
「見事な慧眼です。それで、お嬢様の言う借金だか裏帳簿だかの証拠はあるんですか?」
「ないわ!」
そんなもの見つけてたら、とっくに王家に提出してたわよ!
「シグルドも知っているでしょう? 私、石盤の儀式のために基本的に王都にいたんだもの」
「そうでしたね。じゃあなんで、あんな自信満々にご実家が悪さしてると確信したんですか。冤罪ですよ、冤罪」
「むしろ私が冤罪かけられて殺されているのよ!!」
義弟や妹も断罪側に回っちゃってるの見る限り、実家にも見捨てられてね!!
「まぁ、その冤罪でね? 思い出したんだけどね?」
「はい」
「義弟のカルロスがね。前に話していたのを聞いちゃったのよ」
「聞いちゃったとは」
過疎化している商店街を歩きながら、隣を歩くシグルドにだけ聞こえるように声を潜める。
あれは確か、カルロスが養子としてうちに来たばかりの時のこと。
「あの子、養子だし、根が真面目だったのよ。それでね、母と妹の散財について、直接妹に注意してたのを見たことがあったのよ」
「本当ですか? あの愚息殿、率先してセレーナ様に貢いでいるように見えましたが」
「今はね。でもあの時はまだ真面目な子で、その時からころっと人が変わったように愚弟の性格が変わったのよ。セレーナの下僕みたいになんでもかんでも言う事聞いちゃう駄目な子になっちゃたわ。家の使用人や、父のようにね」
本当に突然だった。確かあれに気がついたのは四回目の人生だったはず。義弟だけでも餌付けして味方にしてやれないかしらと思って、色々と義弟に目をかけていたのよね。
最初から私のことを嫌っていたのかと思っていたけれど、そんなことなかったわ。最初の数日、構ってみれば、彼はとてもいい子だった。
でも、ある日を境に、彼の人柄がガラリと変わってしまった。
「つまりお嬢様の結論は?」
「妹はたぶん、幻惑や魅了系の魔法かスキルが使えるわ。それで人をたぶらかして、贅沢をしている。魔法の残滓は見つからなかったから、おそらく神のギフトによるスキルだと思うんだけれど」
「素晴らしい慧眼ですお嬢様。魔法のことだけは人一倍頭が回りますね」
シグルドが拍手を送ってくれる。すごいやる気のない拍手だけれど、シグルドが褒めてくれるのだからありがたく受け取っておくわ!
商店街を通り抜けて、住宅街に。そろそろ宿屋を探そうかと視線を巡らせていると、シグルドは私よりも声量をしぼって話しかけてくる。
「セレーナ様の魅了系スキルは当たりだと思います」
「本当?」
「俺もセレーナ様の魅了スキル、かけられたんで」
「え?」
え?
思わず立ち止まってしまったわ。
外套を頭から被っているシグルドを、下から見上げる。
「……かけられたの?」
「かけられましたよ」
「いつ!?」
そんな素振りあったかしら!?
「お嬢様に拾われて、五年くらいの頃でしょうか。身なりも言葉遣いも整った頃、セレーナ様に言い寄られて」
「言い寄られて!?」
「めちゃくちゃ甘い匂いがして、心臓バックンバックンして、体温が急上昇したんですけど」
「大丈夫だったの!?」
「あの時お嬢様が」
「私が!?」
「お部屋で魚に変身する魔法薬を作って服用されて、解除できずにぴちぴちと床でのたうち回っていたのを見ていなかったら、そのままホイホイ、セレーナ様にお持ち帰りされていたかもしれません」
「あの件は忘れて頂戴!!!!」
あったわね、そんなこと!! 崖に飛び込むときに魚になればいいわ! って思って作った魔法薬だったけれど、結局、魚に変身したところで、私は自分で岸に上がれないことに気がついて、この案は没にしたのよね!!
「あの時、お嬢様に急ぎ解除薬を作らねばの気持ちのほうが勝っていましたし、なんなら解除薬の作成後に味見をしたので、スキルも解除されたと思います。普通なら解除薬なんて飲む機会ありませんしね。素晴らしいです、お嬢様。知らずしらずの内に、セレーナ様の魅了スキルを阻止してるんですから」
「……なんだか釈然としないわ……」
大変不服ではあるけれど、でも、それでシグルドが妹の魔の手から逃げられたというのなら、喜ぶべきよね。
「ちなみにですが」
「なぁに?」
「スキルをかけられた後、けろっとしている俺に向けてセレーナ様が『なんで魅了スキル、かかってないの!? やっぱりお姉様がなにかしているんだわ!』って小声で言っていらっしゃるのを聞いたので、確実です」
「シグルド、さすがの地獄耳ね。そして私はその報告を聞いた記憶がないわ」
「俺も言った記憶がありません。さすがの俺も、魚になって部屋でぴちぴちのたうち回っているお嬢様を前に、気が動転していたと思います」
それは申し訳なかったわ! ごめんなさいね! 私のせいね! 私も二度とあのような状況にはなりたくないわ!
「とにかく、妹が魅了スキル持ちなのは確実なのね? それじゃあやっぱり、義弟もそのスキルにやられていると思うの」
「カルロス様どころか、旦那様と使用人もでしょう。伯爵家の裏稼業、使用人もグルでしたから」
「そうよそれ! 私が掴めなかったその証拠! シグルドは何か知っているのよね!」
とりあえず立ち止まりっぱなしでは不審者すぎるわ。
また歩きだすと、シグルドも私の歩調に合わせて歩き出す。
「当然です。俺はお嬢様の忠実な下僕なので。とりあえずあの頃はお嬢様は王都にいて、直接的にこの件と関係していなかったので、一族断罪などでお嬢様に飛び火しないようにと口をつぐんでおりました」
「貴方本当に優秀ね! でも報連相はちゃんとしてほしかったわ!!」
冤罪をかけられる前にそれを知っていたら、もしかしたらまた違う未来があったかもしれないのに!
「まぁいいわ。一族断罪の可能性があるくらいあくどいことを我が家はしていたのね? 今こそそれを暴露する時よ。全て話しなさい」
「仰せのままにお嬢様」
シグルドがお耳を拝借と言うようなジェスチャーをしたので、私はまたまた立ち止まってシグルドに耳を傾ける。髪を耳にかければ、彼は私より高い背をそっとかがめて、内緒話をするように教えてくれる。
「旦那様は鉱山夫を夜逃げしたと見せかけて奴隷商に売りつけ、カルロス様は何も出ないはずの鉱山を担保に闇金に手を付けてます。ちなみにその闇金は使用人頭のリークで、鉱山から中毒性の高い鉱毒が得られるのを知っています。奥様は使用人の手引のもと、その闇金のトップと前々から肉体的関係を持っておりまして、実際のところ、セレーナ様はおそらく旦那様ではなく、そのお相手の方との不義の子だと思われます。なお、おそらくスキルではございませんが、奥様も魅了系の魔法が使用できる疑惑がありまして、こちらは調査中でした」
「ちょっと待って、情報量が多すぎるわ」
私の想像を遥かに超えていく内容量だわ。
脱税とかで、領民の血税をちょろまかしているくらいだと思っていたのに、私の実家、救いようがないくらいにまっくろくろすけじゃないの!
「それでよくこれまでバレずにこれたわね!?」
「そのバレるかどうかの線を見極めていたのが、おそらく奥様です。魅了系魔法を使用して、多少の矛盾点をごまかしていたのでは?」
「シグルド、お母様が魅了系魔法を使えると思った根拠は? お母様から魔法の痕跡なんて感じたことがないのだけれど」
「認識阻害の魔法具を使用されています。一度、その魔法具の調子が悪いとかで、使用人に修理をさせるように申しつけているのを聞きました」
「本当に貴方、地獄耳ね……」
私の従者が優秀過ぎて怖いわ。
でも、挙げられた我が家の真っ黒な話を聞いてしまうと、シグルドが下手につつかず口をつぐんでいたのもよく分かるわ。これ、うっかりつつけば、確実に私にも飛び火したわ。
「確かにこれだけ並べば、一族郎党、断罪になりかねないわね。父の人身売買は、証拠が上がれば言い逃れできないわ。闇金方面は借金の問題だけれど……」
「鉱毒が出ると知りながら、売り飛ばそうとするのは危機管理能力が疑われますのでアウトです」
「ぐぅの音も出ないわ」
本当に我が家、ろくでもないわね!
あの純粋だった義弟ですら、ろくでなしに染まってしまって!
私を人身御供にして、自分たちは贅沢している人でなしどもとか思っていたけれど、人でなしどころの話じゃないわ! 冤罪かけられている私なんかよりも、彼らを断罪するべきでしょう!! 騎士団ちゃんと仕事して!!!
「さて、その上でお嬢様はどう動かれますか?」
「ちなみにだけど、お父様が鉱山夫を売り飛ばしていたっていう奴隷商は、どういう伝手で?」
「着目点、素晴らしいです。闇金と癒着してます」
「そこまで調べていた貴方が怖いわ。でもそうね。それなら、やることは一つね」
私は不敵に笑ってみせる。
外套からはみ出している短くなってしまった黒い髪が、風に吹かれて揺れている。
一際強く風が吹いて、前髪が巻き上がってしまったから、私の忌まわしい金の瞳がシグルドに見えてしまったかも。
それでもシグルドは昔から、私から視線を外すことはなくて。
「奴隷商を潰しましょう。この国で奴隷は違法だから、そこから芋づる式に我が家と闇金が釣れるはずよ」
「具体的手段は?」
「拠点を私の魔法で吹き飛ばしてあげる」
「ご令嬢とは思えない力技、惚れ惚れしますね。ただ魔法で吹き飛ばす前に、罪なき奴隷達は解放してあげてくださいね」
「当然よ! 私を誰だと思っているの!」
「アニエス・ミュレーズ様。俺の生涯の主人で、最愛の人で、そろそろ一線超えさせてほしいお嫁さん候補です」
「貴方、家を出てから欲望に忠実になったわね」
「貴方を手籠めにできる日が待ち遠しいです」
「言い方!!」
私はまだ貴方と結婚するなんて言ってないし、そんな日が来るのも望んではいないんですからね!
「残念です」
「何も言っていないわ!」
真顔で私の心を読むのはやめて。
0
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる