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三章
14話 人助け
しおりを挟む──ミーコのお尻をコケッコーたちに突かせて尋問したところ、ミーコは俺たちの牧場から食糧を盗もうとしていたことを自白した。牧草の摘まみ食い程度なら見逃すのだが、豹獣人の主食は肉。つまり、コケッコー泥棒だ。
悪意に敏感なルゥが気が付かなかったのは、単純にミーコが悪意を抱いていなかったから……。それと、ルゥは強者の気配にも敏感だが、ミーコを警戒している様子はないので、戦闘力の程は大したことがないのだろう。
「ちょっとだけにゃ! ちょっとだけお肉を借りようと思ってたのにゃあ!! 痛っ、ちょ! やめろっ!! みゃーのお尻を突くにゃあああああああああ!!」
犯人はこのように供述しており、本気で後々食糧を返しに来ようと思っていたらしい。未遂とは言え、無断借用は普通に泥棒なので、俺はコケッコーたちを嗾けて、更に激しくミーコのお尻を突かせた。
無論、ミーコはマックに咥えられたままで、抵抗することが出来ない。
「コケッコー、容赦しなくて良いぞ。お前たちの嘴の鋭さを思い知らせてやれ」
「痛いっ! 痛いのにゃあっ!! うっ、うぅっ……酷いのにゃ……!! みゃーのお尻っ、腫れちゃうのにゃ……っ、もうお嫁に行けにゃいよぉ……」
今まで喚き散らしていたミーコが泣き言を漏らし始めたところで、俺はコケッコーたちを下がらせて、ミーコの事情を聴き出すことにする。
「それで、どうして食べ物を盗もうとしたんだ? 『小腹が空いたから』なんて下らない理由だったら、承知しないからな」
「ち、違うのにゃ……。みゃーはちょっとお腹が空いても、我慢出来るのにゃあ……。でもっ、おチビたちが、お腹を空かせているのにゃ……」
「なんだよ、そういうことなら盗もうとせずに、食べ物を分けてくれって頭を下げれば良いだろ? で、お前が言う『おチビたち』って、何処にいるんだ?」
まだまだ詳しい事情を聞き出せた訳ではないが、何処ぞの子供たちがお腹を空かせているという状況だけは理解出来た。俺はミーコから子供たちの居場所を聞き出す傍ら、ペリカンとナースコッコーを食糧庫に呼び出して、自分たちもそちらへ向かう。
「にゃあ……? 何処って、みゃーたちの縄張りと、狼獣人の縄張りの、境目付近にゃ……。人間。お前、もしかして、何かしてくれるのかにゃ……?」
「ああ、食べ物を届けてやる。こうして話を聞いた以上、子供を見捨てるのは寝覚めが悪いしな。それと、俺の名前は『アルス』だ。覚えておけ」
移動する際もマックに咥えられているミーコが、希望の光を見つけたかのような眼差しで、俺を見つめてきた。
一応、誰に言うでもなく心の中で主張しておくが、俺は別に純度百パーセントの善意で動く訳ではない。この機会に豹獣人たちと仲良くなっておけば、いつか労働力として俺たちの牧場に取り込めるかもしれないと、そんな打算が混じっている。
食糧庫に到着してから、俺はルゥに協力して貰って、ペリカンの口に次々と食べ物を詰め込んでいった。子供たちがお腹を空かせているのなら、大人たちも同様だと思われるので、それなりの量が必要だろう。それから、彼らの健康状態がどうなっているのか分からないので、念のためにナースコッコーも入れておく。
手伝いが終わったルゥは、最後に自分がペリカンの口に乗り込んで、キラキラした眼差しを俺に向けてきた。
これは、獣人を助けようとしている俺のことを尊敬しての眼差しなのか、それともペリカンに乗って空の旅を楽しみたいと期待している眼差しなのか、一体どっちだ? ……まあ、前者だと思っておこう。
「……アルス。ルゥたちも、行く?」
「ああ、そうだな。俺とルゥは付いて行こう。それとマック、悪いけど泣いてくれ」
ミーコの足の石化は、もう治しても良いだろう。そう判断した俺の命令に、マックはコケッと一鳴きしてから、目に力を込め始めた。……だが、一向に涙が出てくる様子はない。泣けと言われて、すぐに泣くのは難しいか。
マックには悪いが、のんびりしている時間はない。仕方がないので、俺は懐から罰ゲーム付きビーチボールを取り出して、マックの足元に投げ付けた。
すると、予定調和のように頭上から降ってきた金盥がマックの頭に直撃して、マックは目を回しながら涙を零し、それが丁度ミーコの足に当たって石化が解除される。これで、今回のマックの出番は終わりだ。
侵入者を捕らえて仕事の成果を出したのに、こんな不憫な目に合わせて申し訳なく思うが、お腹を空かせている子供たちが待っているので、許して貰いたい。
俺が家畜ヒールでマックを回復させると、起き上がったマックは『全て分かっている』と言わんばかりに頷いて、片翼を上げながら颯爽と去って行く。その片翼の先は器用に折り曲げられており、人間で言うところの人差し指だけが、数字の『1』を表すようにピンと立っていた。
……そうだよな、マック。俺たちの心は、いつも一つだ。
「にゃあっ!? 歩けるようになったのにゃ!!」
ミーコが自分の足の具合を確かめるべく、ぴょんっと軽く跳躍すると、それだけで二十メートルも先の上空に到達していた。しかも、地面を蹴ってからそこに到達するのが一瞬だったので、足の速さだけならルゥを上回るというのも納得だ。
と、ここで、ペリカンの口の中から身を乗り出しているルゥが、地面に転がっているビーチボールを指差して、小首を傾げた。
「……アルス。それ、どこから出た?」
「どこからって……普通に、懐からだけど」
俺はルゥの質問に答えながら、何の気なしにビーチボールを拾って、再び懐に仕舞う。大きさ的に、懐に入るような代物ではないが、こういうアイテムはギャグ補正で何処からでも取り出せると、相場が決まっているのだ。
──この後、俺はルゥが乗り込んでいるペリカンとは別のペリカンの口にミーコを押し込んで、自分も颯爽と乗り込み、空の旅へと出発した。
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