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第1章

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「早く行こ」
「あ、うん」
オドオドしてて頼りにならないであろう僕は紫月さんの後ろをついていく。きっと僕は可憐な花の後をついて回る害虫か女の子に守られている情けないヤツなんだろうな。まぁ、日陰モノにはお似合いか。光には影がついて回るものだもんな。

「ソーウー」
紫月の声で我に返る。
「何か考え事?」
「あ、えっと、はい。すいません」
「ソウが謝る必要なんてないよ」
それで、何考えてたの?と紫月さんが聞いてくる。
「何の目的があって、世界をこんなふうにしたのかなと思って」
「何で?誰が、じゃなくて?」
誰がなんて、僕には考える必要ない事だからな…… 
「誰が、かは調べたら分かるから、」
だから、えっとって言葉をボソボソと付け足す。
「それもそうだね。早く見つけて、みんなに会いたいなぁ」
死体を見下ろしながら、紫月さんは望みを口に出す。
「ごめん」
「何か言った?」
「へ?」
「あ、ごめん、空耳かな」
危なっ。油断している場合じゃないな。ポケットに手を入れ薬瓶を握る。紫月さんの願いは多分。今回も叶えられない。ごめんね、シズ。いつか。いつか。

「お前ら何もんだ。うちのに何していやがる」
いかつそうな、やのつく職業の真ん中ぐらいのポジションが似合いそうな、顔だけ怖くてあとはダメダメそうな人がこちらに近づいてくる。
「殺そうとしてきたんだよ――」
それは勘違いだ。彼は殺そうとしてきたのではない、ただ壊そうとしてきたのだ。

「はぁ?」
当たり前の反応だな。
「頭、狂ったか?」
こんな世界なんだから、不思議なことでもないだろ。
「狂ってんのはそっちでしょ。初対面の女の子を殺そうとしてきたんだよ」
それを平然と躱しやり返した君がそう文句を言う。純粋さが残っているからこそ怖い。狂った世界で壊れた世界で一人だけまともに生きている君がいちばん狂ってるよ。世界の終焉をずっと望み願っていたキミにはお似合いかな。
「ちっ、うちのが悪かったな、だが殺すことはないんだろ」
これは…… 想定外の事態だ。相手がキレてシヅに武器を向けて、そしてシヅが殺して終わりだと思っていたのに。
「意外とまともなんだねぇー。お兄さんは。命を奪っちゃったのは悪いと思ってるよ。ただいま反省中」
「意外とは余計だ、後その武器、おろしてもらえないかな?」
そういってやーさん(適当につけた呼び名だ)は両手を挙げる。今までも別にそこまで悪い人、という訳ではなかったしこれが罠とは考えにくい。
「えーー、どうしよっかな」
この場に不釣り合いな少女は軽く考える素振りを見せてから銃を下ろした。
「で、お兄さんの要求はなにかなぁ?」
「要求というよりは、提案なのだが、俺たちに協力する気はないか?」
「えっ、やだ」
「即答だな。うちのがしたことについては詫びるし、それについてとやかく言う気は」
「あぁ、もう。そんなんじゃないから。私、ソウ以外と組む気ないから」
流石一匹狼の『いばら姫』。幾多のチームが彼女を勧誘してきたがどのチームの誘いも断ったらしい。中には世界トップチームもいたらしいが……

「そうか。それは残念だがしかたないな」
「そうだよー。話は終わったんでしょ。なら、私たちもう行くね。ばいばいー、案外まともなお兄さん」
「ちょっと待て」
「何ですかー」
そう言った紫月さんは僕の手を掴んだまま、足をとめる。
「名前、聞いていいか?」
「なんで?」
「うちは君達二人の邪魔はしないと誓う。これはせめてものお詫びだ。部下にも知らせときたいからな、名前をお聞かせ願えないだろうか、姫と王子」
僕が王子か。紫月さんが姫なのは分かるが……

「私、姫奈紫月。お姫様の姫に大きいって字に下が示すって字の奈。紫に月でひいなしづき」
「僕は雪村草魔です」
携帯の画面をやーさんに見せる。
「彼女の字はコレです」
「ソウって優秀。私携帯無いから助かったよ。ありがと」
紫月さんは何でゲーム機あるのに携帯持ってないんだよ。

「姫奈さんに雪村さんか、伝えておこう。引き止めて悪かった」
「私からも一個いい?」
「何か訂正か?」
「訂正っていうか追加かな。私達以外にも仲間がいてさ。その人達にも手出さないで欲しいんだよね」
彼女は笑顔でそう告げる。笑ってこそいるがコレはお願いではないな。もしも手を出そうものなら容赦なく殺すだろう。組織の人間、全てを。
「名前と容姿を教えてもらえるか?」
「はーい。一人目は星月 雫先輩。黒髪眼鏡の清楚な人で本が似合いそうな感じ」
説明がふわふわしている。僕は先輩の字と写真を見せる。
「二人目は東雲環先輩。金髪にピアスで不良っぽい見た目してる人。多分二人は一緒にいると思う。」
「三人目は鈴空梓夕先生。髪はピンク色で英語の先生」
これで分かる訳ないよな。
「あ、あの。携帯お持ちですか?」
「あぁ、持っているが」
「連絡先教えていただければ、写真送ります」
「助かる」
僕はクラブ写真と共に全員のプロフィールを送った。
「この六人には手を出すな、と伝えておく。本当に失礼した」
「もう気にしてないよ、行こ。ソウ」
「お兄さんいい人だね。色々ありがとうございます」
「ありがとうございました。ご武運を」
「あぁ、お前らも気をつけろよ」
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