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第3章 孤独の先に

第105話 サイヤの国都で

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 サイヤ王国の王宮でのことである。

 ジョンソン国王以下、宰相や国務大臣が集結していた。
 よほど重要な閣議なのか、参集した面々は、いつもより緊張した面持ちだ。
 
 末席には、見栄えの良い若い男性が座っている。


「極めて重要な緊急事案が発生した。 ベルナ王国では内部の権力争いが激しく、好戦的なシモンは宰相を罷免され、カマンベールが復帰した。 それで、彼から停戦の申し入れがバフム情報相を通じてあったのだ。 条件としては …。 魔石鉱山等の奪った領土を返還するのは勿論のこと、自らの領土を2割も割譲するという! 我々に取って有利なものである。 この事の議論をしたい。 しかしながら、本題に入る前に、パウエル統括最高司令官より、憎きベルナ王国との戦況について説明してもらう。 では、始めよ!」

 気合いの入ったベナン宰相の声が、会議室内に響き渡る。


「ハッ!」

 末席に座る若い男性が立ち上がり、颯爽と声を発した。
 パウエルは、ジョンソン国王を、うやうやしく見やる。

 よく見ると、国王の隣には初老の男性が座っており、やる気が無さそうにあくびをした。
 それを見て、パウエルはムッとした。


「戦況は、我らサイヤ王国軍に取って有利に働いております。 ベルナ王国は、徴兵の年齢層を拡大し、兵員を増やそうとしているが、目的の人数に達しておりません。 それに加え、突如、国都に巨大な魔獣が出現し、壊滅的な被害を受けた模様です。 とはいえ、目と鼻の先に我ら大群の兵が居るため、軍を魔獣に差し向けられず、国王や幹部は、国都を逃れパル村にある大規模な駐屯地に移りました。 この事に加え、もう一点、決定的に有利と成り得る事があります。 それは …。 かの3傑の一人であるビクトリア司令官が …」

 パウエルは、言葉を呑み込み周囲を見やった。


「いったい、どうしたというのだ?」

 国王が、興味深そうな顔で促す。


「死にました! 我々の手で、暗殺したのです。 だから、今が、ベルナ王国を叩き潰す絶好の機会です」

 宰相のベナンが深く頷くと、パウエルの顔が明るくなった。


「なに! 3傑の一人、空間魔法の使い手のビクトリアを始末したのか?」


「いったい、どうやって!」


「間違い無いのか?」

 国務大臣の連中が、口々に声をあげた。


「ビクトリアめを、よくぞ仕留めた! この戦争が集結した後には、パウエルには望みの褒美を遣わす」

 国王が、手を叩いて彼を称賛した。


「ハッ、ありが …」


「待て! 証拠を見せろ!」

 パウエルの声を遮り、初老の男性が大きな声を発した。


「ワムの奴、またか …」
 
 それを見て、ベナン宰相は、苦々しい顔で小さく声を漏らした。 
 初老の男性は、魔道士のワムであった。


「パウエルよ。 ビクトリアを暗殺した時の状況を申せ!」


「ハッ。 その事についてですが、その場に居合わせた者を連れて参りました。 直接、証言させてもよろしいですか?」


「構わぬ」

 国王の許可を得て、一人の若い男性が、会議室に招かれた。


「この者は、ベルナ王国の大隊長をしていたベアスです。 我がサイヤ王国のスパイとして懐柔しました。 彼が、ビクトリア暗殺の手引きをしたのです。 それでは、ジョンソン国王に説明せよ」

 パウエルに促され、ベアスは一歩前に出た。


「まず最初に、私は腐った国を捨て、このサイヤ王国に命を捧げる事を誓います」

 ベアスは、国王を見て、深くお辞儀をした。


「その心がけ、分かった!」

 国王は、満足げにベアスを見据えた。


「自分の任務は、ビクトリアを誘い出して、ある男に斬らせる事でした。 その男とは、私の親友で、かの有名な魔道士マサンの弟子であり、ビクトリアの元恋人だった者で、名前をイースといいます。 イースは、ビクトリアの心変わりに、彼女の事を恨んでいました。 また、ビクトリアも男にだらしないところがあり、元恋人に未練があったようで、イースの名前を出すと、簡単に誘いに応じたのです。 3傑筆頭のシモンと婚約していながら、呆れたものです。 最も、シモンも女にだらしないから、似た者同士なのでしょう」

 国王は、手の平を見せて、ベアスの話を遮った。


「ビクトリアは、絶世の美女と聞いたが、見た目だけの女なのか?」

 国王の問いかけに、ベアスは深く頷いた。


「3傑といっても、俗世にまみれた女です。 彼女は、魔石鉱山の奥深くにある大空間で、最後を迎えました。 油断したところを、結界ごと、強い剣撃で、イースに一刀両断されたんです」


「おい、ベアスとやら! 証拠を示せ! 持参した首でも見せろ!」
 
 ワムは声をあげ、ベアスの目の奥を覗きこんだ。


「自分は、首を持ち帰るような野蛮なことはしません。 それに …。 切断された遺体は、なぜか一瞬で消えたんです」


「それは、目に見えなくなっただけのこと。 魔影の流れを確認したか?」


「自分は騎士だから、魔法の事は分かりません …」


「おい! おまえは、その程度の実力で、本当にベルナ王国の大隊長なのか? ビクトリアは生きているぞ」


「ワム殿、何を根拠に?」

 思わず宰相が、口を挟んだ。
 
 また、話している相手がワムだと知って、ベアスは驚愕の表情を浮かべた。


「根拠なぞない。 状況を聞けば明白だ。 それと、もう一点言っておく。 ベルナの国都を襲った魔獣は、魔王の使役獣といわれるホロブレスだ。 ベルナ王国からの停戦の申し入れを受けるべきである!」


「何を根拠に?」
 

「ホロブレスは、次はサイヤの国都を襲うぞ。 戦争をしている場合か?」

 ワムは、バカにしたような顔で、宰相のベナンを見据えた。
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