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第3章 孤独の先に

第91話 腐った国

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 ビクトリアの暗殺を聞いた時、一瞬、俺の思考が停止した。
 彼女の事を恨んではいたが、殺したいと思うほどではなかった。
 愛おしいと思う気持ちは消え失せていたが、自分でも理解できない思いがくすぶっている。
 できれば、関わりたくないというのが本音だ。
 戦地で会えば、当然、死力を尽くして 戦うが 、本人一人をターゲットにした暗殺となると別であった。


「イース、どうかしたか? まさか、相手が3傑の一人と聞いて、怖じ気づいたのか?」

 パウエルは、苦虫を噛んだような顔をした。


「そんな事は、あり得ない!」

 俺は、相手に動揺している事を悟られないように、わざと強い口調で声を発した。


「そうか、安心したぞ。 ベルナの3傑と言っても、魔法しか能がない、恐れるに足りぬ連中だ。 我々、魔法剣士の敵じゃないさ。 要は、魔法を使う前に倒せば良いのだ!」

 パウエルは、いとも簡単に言う。


「でも、相手に気付かれずに、どうやって近づくんだ? ビクトリアは、数キロ先から、魔法で攻撃を仕掛けられる!」


「ほう、詳しいじゃないか! ビクトリアの得意な空間を操る魔法には、代表的なものに結界術がある。 でも、あんなのは私に言わせれば風船でしかない。 剣で破れば良いだけさ。 でも、そんな事も必要ない。 スパイの手引きで、背後から一刀両断すれば良い」


「手引きとは? 潜入スパイが居るのか?」


「潜入とは言ってないぞ。 腐った国には簡単に寝返る奴は多い。 分かるだろ! ベルナ王国は、腐っているのさ」


「そいつは誰だ? 将軍クラスなのか?」


「それは言えない!」


「具体的に、俺は、どうすれば良い?」


「方法は簡単さ。 アモーン商会のVIPトラベルカードを使って瞬間移動して背後を襲う。 アモーンから直接連絡が行くから、その時まで待機しておれ」


「いつのタイミングで、おれの身体は瞬間移動されるんだ?」


「その時は突然くる。 ビクトリアが居る場所への誘導は、スパイがチャンスと見た時だ。 アモーンによりお膳立はされているから、瞬間移動したら、君は、その場で剣を思い切り振るえば良いだけ! 大岩を切断した時のようにな!」

 パウエルは豪快に笑ったが、俺は少し気分が悪くなった。


「分かった。 それで帰りはどうすれば良い?」


「片道切符だ。 マサンの弟子なら逃げれるだろう。 借金も完済となり、ベスタフとやらは晴れて自由の身となる。 どこへでも好きなところへ行けば良い。 最も、君に拒否権はないがな」


「分かった。 了解した」

 俺は、同意するしかなかった。


◇◇◇

 
 ビクトリア暗殺の指令を受けてから、自分一人のテントを与えられ自由に過ごせるようになった。
 また、ヒュウガ隊長の指示の下、パウエルが居る周辺の警備を行っていたが免除された。
 他に、忠義のための教育を受けていたが、これも免除となった。

 要は、いつ来るか分からない、暗殺のための瞬間移動のタイミングを、死刑を待つ囚人のように待機して待つのだ。
 正直、気分は良くないが、自由な時間が増えたとも言える。

 しかし、監視の目があるようで、常に、背後から視線のようなものを感じていた。
 だから、魔法の水晶で亜空間に連絡する時だけは、監視者の目が届かない場所を探した。

 俺は、今の境遇を伝えるため、魔法の水晶でメディアとベスタフに連絡を取っている。


「やあ、イース。 調子はどうだ?」

 ベスタフの声がした。
 

「パウエルから、直接、指令があった。 このミッションを成功させれば、ベスタフは、晴れて自由の身となる」


「本当か?」

 俺の言葉を聞いて、ベスタフは歓喜の声をあげた。

 
「でも、そのミッションって、どんな内容なの?」

 今度は、メディアの声がした。


「ビクトリアの暗殺だ」


「ビクトリアって、ベルナの3傑の一人だろ …。 だいじょうぶなのか?」

 俺の話に、ベスタフの心配そうな声が聞こえた。


「いえ、その事よりも、ビクトリアって昔の恋人なんでしょ。 斬れるの?」

 メディアは、言いにくそうに小声で話した。


「覚悟は決めてるから、だいじょうぶだ。 ベルナの記憶は、とっくの昔に捨ててる。 アモーンの瞬間移動で背後に立ち、一刀するだけの簡単なミッションさ」


「それは、VIPトラベルカードを使うのか?」


「ああ。 ベルナ王国に手引きする者がいると言ってた」


「恐らく、そいつはアモーンの手下だ。 信用するなよ」


「それで、帰りはどうするの?」


「片道切符だけど、魔法のマントがあるから、何とかなるさ」


「それでも、心配だわ。 今の話をマサンに伝えるけど、少し待ってて」

 メディアが答えた後、俺はベスタフとアモーンについて話した。


「アモーンは冷酷だが、商売の信用を第一に重んじているから、必ず約束を守る。 イースがミッションを成功させれば、俺は呪虫から解放されるはずだ。 でも、アモーンが帰りの切符を用意していないのは、イースをベルナ王国に始末させる意図があると思うんだ」

 ベスタフは、興奮したのか少し声をあらげた。


「それは、どういう意味だ?」


「アモーンにとっては、ベルナ王国も顧客なんだ。 だから、義理を果たそうとしていると思う。 もしかして …。 罠を仕掛けているかも知れない」

 ベスタフの、心配そうな声が聞こえた。
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