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第3章 孤独の先に

第89話 魔石鉱山にて

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 サムが叫んだあと、牢内が騒然となった。そして、我先にと皆がスパイを見つけたと騒ぎだしたのだ。
 恐らくは、重要な要件を密告すれば、減刑されるような制度があるのだろう。周りの囚人の目は血走っていた。
 マサンは、この混乱に乗じて素早く移動した。
 いや、移動したというより、目の前の数人を転ばせて、将棋倒しを誘発し、人の波に乗るようにして素早く移動したのだ。

 数人の看守が、牢の中の異変に気がついた。


「なんだ、どうした!」


「スパイが居るとか言ってたぞ!」

 多くの看守が牢の前に詰めよったが、囚人が多すぎて状況が掴めない。
 かと言って、解錠し扉を空けようものなら、雪崩のように囚人が飛び出してくるだろう。
 それに加え、将棋倒しに巻き込まれ怪我をした囚人が苦しんでいる。
 それでも、看守は何もできず見ているしかなかった。

 このような状況の中、看守の目が届かないような場所で、素早く動く人影があった。その動きが、あまりに速すぎて、看守の誰も気がつかない。
 その人影は、ある意味、悠々と牢のある地下の空間を離れ、一階の通路へと移動していた。

 
「それにしても、兵が多すぎる。 分からないように脱出しようと思ったが無理か」

 一階の通路で身を潜めながら、マサンは小さく呟くと、何やら呪文を唱え指を指し示した。
 指の先端から、小さな火球のような物が飛び出し、通路を沿うように飛んで、遥か離れた場所で大きく破裂した。

 付近の兵士がそちらに向かうのを確認し、マサンは近くの窓を破って外に飛び出した。


「さあ、逃げるか!」

 ポーチから駒を取り出し息を吹き掛けると、大きな馬に変化した。
 その背に素早く飛び乗ると、一目散に、この場を走り抜けた。

 予想外の事態に、軍事施設の中は大騒ぎであったが、結局、マサンを捕らえる事はできなかった。

 脱出した時に牢をこじ開けたことから、そこから多くの囚人が脱走し、この時の小競り合いにより、貴重な兵士に死者も出てしまった。
 
 これらの報告を受け、国都から参謀のガーラが急ぎ駆けつけたが、侵入した者の特定には至らなかった。


◇◇◇


 マサンは追手の影響が及ばない深い森の中に来ていた。
 ふと見ると、この景色に似つかわしくない大きな岩山が見えた。
 一目見て、ベルナ王国がサイヤ王国から奪った魔石鉱山だと分かった。


「魔獣を倒して、少し稼ぐか …」

 マサンは呟いた後、魔石鉱山の方へ向かった。

 坑道の入口を見ると、数人の兵士が警備をしていたが、先程と違い手薄だ。

 マサンは素早く近づくと、当て身で兵士を倒し、魔法の縄で拘束した。
 そして、なに食わぬ顔で中に入って行った。

 坑道は網の目のように張り巡らされており、かなりの長さがあるが、残念ながら魔獣と出会わなかった。


「やはり、坑道は人工的な物だから、魔獣は居ないかもしれない? 残念だが、引き返すしかないか …」

 マサンは魔法で目印を付けており、歩いたところについては、場所を把握していた。
 普通の者であれば迷うところだが、その心配はなかった。
 
 魔獣を倒すのを諦めて、引き返そうとした、その時である。
 一瞬であるが、得たいの知れない強い力を感じた。
 その感覚は直ぐに消えたが、マサンは、無視できなかった。


「確か、この方角からだったな …」

 マサンは、結界で自分の身体を包み込むと、爆裂魔法を岩盤に向けて放った。
 
 すると、辺りが大きく破壊され、岩盤が崩れた。
 しかし、結界で保護されたマサンを避けるように崩れたため、彼女は無傷である。

 その後、彼女はワクワクしながら洞窟の奥底へ進んで行った。
 右へ左へ移動し、また、登ったり降りたりしているため、普通なら遭難するレベルであるが、彼女は気にしない。
 そして、洞窟の最奥と思われるところにたどり着いた。


「あれは …」

 マサンが見つめる先には、規模の大きな洞窟が出現した。

 
「これは、大物が居そうだ!」

 マサンは、嬉しそうに笑った。
 少し、不気味である。

 とっ、その時である。

 背中に甲羅を背負った、全長が20メートルはあろうかと思われる巨大なカタツムリのような魔獣が、マサンの前に現れた。
 口から出た、透明な無数の触手が、ヒョロヒョロと向かって来る。
 触手が岩に当たると、ジュッと音がして辺りを溶かした。
 

「あちゃー。 ナメクジンかよ! まあ、気持ち悪いが、仕方ないか。 でも …。 あの力の感覚とは、こいつは違う …」

 そう言うと、マサンは首を傾げた。


「さあ、覚悟は良いか?」

 マサンは、魔獣を結界で包んだかと思うと、それを縮小させて、強い力で締め上げた。
 焦った魔獣は甲羅の中に潜って避難したが意味はなかった。

 多量の液体を流して、潰れてしまった。

 マサンは、水分を失い小さくなった魔獣に、ポーチから取り出した白い大きな布を被せた。
 すると、不思議なことに、布が魔獣の死骸を包み込んだと思ったら、風船が萎むように小さくなり、握りこぶしほどの大きさの球体になった。
 彼女は涼しい顔で、それをポーチに入れた。

 もう、ろくな魔獣は居ないと思いながら、マサンは辺りを見回した。


「あれは?」

 遥か彼方に、光るようなものが見える。

 マサンは、吸い寄せられるように、光る物に向かって歩いた。
 辿り着くと、そこには、高さが3メートルほどの透明な結晶があった。
 中を覗くと、2人の美しい女性が閉じ込められていた。
 若い方の女性が、年配の女性の前に立ちはだかり、守るように手を広げている。


「親子のようだな …」

 マサンは、この異様な光景を見て呟いた。
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