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第2章の2 新天地
第46話 偽言 2(ビクトリア主観)
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5年前にイースと別れた時、私は気分が落ち込む日が多く、周囲から、かなり心配されていた。
そんな私を見かねて、人格者であるシモン参謀が、事あるごとに励ましてくれた。
私は、そんな彼に対し、深く感謝した。
このような中、私が在籍するムートのナーシャ統括から、軍の参謀補佐として3ヶ月の実地研修をするように言い渡された。
ムートに在籍しながら、仮の軍籍を得るなど前例がなかったため、この件に関しても、シモンが気遣ってくれたのだと想像し、彼の下で研修できる事を嬉しく思った。
そして、研修が始まる一週間前に開催された軍幹部会合の直後、シモンから、イースがムートを去った事を聞かされた。
イースには、罪を反省し、自分の人生を誠実に生きてほしいと願っていたから、彼が逃げたと聞いて、かなりショックを受けた。
でも、イースが逃げるなんて信じられなかった。
だから、彼のことを弟のように可愛がっていたナーゼに相談したいと思い、シモンに軍への慰問を申し出た。最初、これを渋ったが、シモン自身が同席する事を条件に、何とか認めてもらった。
私は、一刻も早く、ナーゼに会いに行きたかったが、思わぬ事態に阻まれてしまった。
シモンが、瀕死の重傷を負ったのである。
私の父は、王宮にも呼ばれるような高名な魔法医であった。また、母も父に寄り添い魔法医をしていた。
だから、両親が、シモンの治療にあたっていた。そして、彼が瀕死の重症である事を、父から知らされたのである。
私が、軍の病院に駆けつけると、シモンは、意識を失い植物状態で眠っていた。
「おお、ビクトリアか。 ムートのナーシャ統括から、おまえがシモン参謀と親しいと聞いたので連絡したのだ」
私は、父が連絡してくれた事に感謝した。
母を見ると、魔法効果のある軟膏を、シモンの丹田付近に塗り込んでいた。
「彼は人格者で、私が困っている時に力になってくれた恩人です。 お父様。 それで、シモン参謀の容態は?」
「ダンジョンで集団の魔族と遭遇し、魔法攻撃を受けたのを、ガーラ伯爵が救ったそうだ …」
「エッ、ガーラ伯爵が?」
私は、思わず口を挟んだ。
ガーラの名前を聞いて、不思議に思ったのだ。彼女は、ムートのSクラスだったから知っているが、自分に利する事にしか興味がない人だ。シモンを助けるなんて考えられなかった。
「ああ。 その場に、ガーラ伯爵も居合わせたそうだ。 しかし …。 彼の魔力コアを損傷させるなんて、相手は相当の手練れだったんだろうな。 かなり傷んでおり、回復できない場合、命を失う」
父は、落ち込んだ顔をした。
「そうだ! ビクトリアが魔力を注入したらどうかしら。 あなたの魔力なら治せるかも知れないわ」
母が、私に声をかけた。
「うむ。 可能性はあるが、相手がシモンほどの高魔力の場合、ビクトリアの魔力を奪うやもしれん。 危険を伴う」
「アッ、そうね …」
父が難色を示すと、母は小さく頷いた。
私は、シモンに恩を感じていたから放っておけなかった。だから、迷わずに、私の魔力をシモンに注入する事にした。
過去に、イースに注入した経験があったから、段取りよくできた。
結局、私の方が高魔力で、シモンのコアを圧倒していたから、問題なく成功した。
彼は、10日ほどで退院できた。
しかし、魔力注入によって思わぬ事に気づいた。
誰にも言ってなかったが、私は魔力注入すると、相手のコアの性質や心根を読み取る事ができるのだ。いわゆる特殊能力である。
イースのコアは光り輝き、心も透き通るように綺麗であったが、シモンのコアは暗く沈んでおり、心はドス黒く汚れていた。
私は、この時から、シモンは人格者ではなく、偽善者であった事を見抜くようになった。
そんな、ある日、とてもショックな事が起きた。
ナーゼが、戦死したのである。
彼女の小隊は、半月ほど前に敵に攻め入ったまま消息不明となっていたが、結局、サイヤ王国軍の攻撃を受け、全滅したとの結論に至ったのである。
私は、ナーゼほど強力な魔法使いを見た事がなかった。それに、彼女は騎士としても剣を極めていたから、負ける事を想像できなかった。
しかし、相手はサイヤ王国軍である。想像もできないような卑劣な方法を用いたのかも知れない。
私は、敵国に対し強い怒りを覚えた。
ナーゼが戦死したと聞き、彼女の故郷のパル村に両親を訪ねた。
しかし、国都に避難していると言われたため、今度は、国都の家を探して訪ねた。
ナーゼの父親がいて、かなり憔悴していた。
私が、お悔やみの言葉を伝えると、思いも寄らぬ言葉が返ってきた。
「娘のナーゼが戦死したのは、本当に悲しい。 だが、娘が亡くなったと言うのに、家内は、半月前に外出してから帰って来んのだ。 あいつは、娘が亡くなった事も知らず、何をやっているんだろう …」
父親は、悲しみとも怒りとも取れる表情をした後、黙り込んでしまった。
私は、ナーゼを思い、いっそう悲しくなった。
この頃、シモンは、何かにつけて私のところに来るようになっていた。
しかし、彼の心を覗いてからは、少しずつ距離を置くようにした。
イースの事も、シモンが仕組んだのではと、疑いを持つようになっていた。
私は、17歳でムートを卒業した後、伯爵の爵位を与えられ、その後、1年の中隊長経験を経て将軍となった。
シモンは、ますます積極的になり、周囲の目も憚らず、私に対し露骨に好意を寄せるようになっていた。
彼は、職責が上位の参謀であったから、面と向かって拒否できなかったが、軍の規律を理由に、何とかかわした。
しかし、彼が、国王に次ぐ権力を誇る宰相になった時、さすがに断る事ができない雰囲気になってきた。
また、この頃から、私の母がシモンを受け入れよと、不自然なほどに進めるようになった。
父も、母の行動を不審に思ったらしく、私に、無視しろと言ってきたほどだ。
私は、困り果てた。
そこで、至高の魔道具により、事態を回避する事にした。
誰にも話してないが …。
私が、10歳の時に、「魔法の門」からダンジョンの地下に迷い込み、タント王国の魔道士ジャームに救われた事がある。
この時に、至高の魔道具を頂いた。
この魔道具は、世界に3着しか存在しない、魔法のマントだった。
既に、弟子のマサンと、ギルド長のベスタフに渡してあると言っていたから、自分の物を私に譲ってくれたようだ。
だが、なぜ、私に譲ってくれたのかは、分からない。
彼は、ダンジョンから帰る方法も教えてくれた命の恩人である。
優しくて、尊敬できる格好良い人だった。
魔法のマントには、驚くべき秘密が隠されていた。その人の魔力レベルにより、様々な使い方ができた。
初歩的なものとしては、マントを被り、自分の姿を透明にして、相手から見えなくすると共に、魔力による探知も遮断する事ができる。
次に、中程度の使い方として、マントを被り、今の姿をベースにして、自分の性別を変える事ができる。
最後に、高度な使い方として、マントを被り自分を透明にした状態で、近くに、男女何れかの、自分の分身を作りだし、動かす事ができる。
私は、自分の分身を、シモンに抱かせる事にした。その様子を側で見ていたが、やはり卑劣な手を使っていた。
彼は、『感情の鎖』という古代魔道具を隠し持っていた。これは、世界に一つしかない魔道具で、ダンジョンの地下深いところにあると言われている。
彼が、なぜ持っていたのか?
とても、不思議だった。
この道具を使って魔法をかけられると、かけた相手に対し、心から従属してしまう。
しかし、欠点もある。かけられた者が術者より高魔力であった場合は、行動のみで、意思までは縛る事ができないのだ。
シモンは、私の分身を抱きながら、呪文を唱えていた。
危なかった。
私は、シモンより高魔力だから、意思がハッキリしたまま、行動を操られるところだった。普通にかけられるより悲劇なのだ。
反吐が出るような光景を、我慢して目に焼き付けた。
それは、おぞましい光景だったが、ふと、冷静になると、一つの疑問が頭に浮かんだ。
私の母の事である。その行動から見て、シモンに『感情の鎖』で縛られている可能性が高いと思えた。
だが、彼の性格上、私が拒否しない限り、母に危害を加える事は無いだろうと思った。
私は、魔法のマントで身を隠し、分身を何度もシモンに抱かせ、彼と婚約し、安心させた。
19歳になると、参謀であるガーラに、最前線に将軍の一人として赴任したいと申し出た。
本音は、気持ち悪いシモンから、一刻も早く離れたかったのだ。
結局、ムートでSクラスの私を最前線に送る事は、国威掲揚になるためシモンも反対できず、直ぐに赴任できた。
そこで、ナーゼを殺害したサイヤ国軍への強い怒りから、僅か5千の聖兵で4倍の2万の敵兵を蹴散らす事に成功した。
私は、多くの称賛を受け、ベルナの2傑に加えられ、3傑の一人と称されるようになり、最前線の司令官にまで登り詰めた。
そんな私を見かねて、人格者であるシモン参謀が、事あるごとに励ましてくれた。
私は、そんな彼に対し、深く感謝した。
このような中、私が在籍するムートのナーシャ統括から、軍の参謀補佐として3ヶ月の実地研修をするように言い渡された。
ムートに在籍しながら、仮の軍籍を得るなど前例がなかったため、この件に関しても、シモンが気遣ってくれたのだと想像し、彼の下で研修できる事を嬉しく思った。
そして、研修が始まる一週間前に開催された軍幹部会合の直後、シモンから、イースがムートを去った事を聞かされた。
イースには、罪を反省し、自分の人生を誠実に生きてほしいと願っていたから、彼が逃げたと聞いて、かなりショックを受けた。
でも、イースが逃げるなんて信じられなかった。
だから、彼のことを弟のように可愛がっていたナーゼに相談したいと思い、シモンに軍への慰問を申し出た。最初、これを渋ったが、シモン自身が同席する事を条件に、何とか認めてもらった。
私は、一刻も早く、ナーゼに会いに行きたかったが、思わぬ事態に阻まれてしまった。
シモンが、瀕死の重傷を負ったのである。
私の父は、王宮にも呼ばれるような高名な魔法医であった。また、母も父に寄り添い魔法医をしていた。
だから、両親が、シモンの治療にあたっていた。そして、彼が瀕死の重症である事を、父から知らされたのである。
私が、軍の病院に駆けつけると、シモンは、意識を失い植物状態で眠っていた。
「おお、ビクトリアか。 ムートのナーシャ統括から、おまえがシモン参謀と親しいと聞いたので連絡したのだ」
私は、父が連絡してくれた事に感謝した。
母を見ると、魔法効果のある軟膏を、シモンの丹田付近に塗り込んでいた。
「彼は人格者で、私が困っている時に力になってくれた恩人です。 お父様。 それで、シモン参謀の容態は?」
「ダンジョンで集団の魔族と遭遇し、魔法攻撃を受けたのを、ガーラ伯爵が救ったそうだ …」
「エッ、ガーラ伯爵が?」
私は、思わず口を挟んだ。
ガーラの名前を聞いて、不思議に思ったのだ。彼女は、ムートのSクラスだったから知っているが、自分に利する事にしか興味がない人だ。シモンを助けるなんて考えられなかった。
「ああ。 その場に、ガーラ伯爵も居合わせたそうだ。 しかし …。 彼の魔力コアを損傷させるなんて、相手は相当の手練れだったんだろうな。 かなり傷んでおり、回復できない場合、命を失う」
父は、落ち込んだ顔をした。
「そうだ! ビクトリアが魔力を注入したらどうかしら。 あなたの魔力なら治せるかも知れないわ」
母が、私に声をかけた。
「うむ。 可能性はあるが、相手がシモンほどの高魔力の場合、ビクトリアの魔力を奪うやもしれん。 危険を伴う」
「アッ、そうね …」
父が難色を示すと、母は小さく頷いた。
私は、シモンに恩を感じていたから放っておけなかった。だから、迷わずに、私の魔力をシモンに注入する事にした。
過去に、イースに注入した経験があったから、段取りよくできた。
結局、私の方が高魔力で、シモンのコアを圧倒していたから、問題なく成功した。
彼は、10日ほどで退院できた。
しかし、魔力注入によって思わぬ事に気づいた。
誰にも言ってなかったが、私は魔力注入すると、相手のコアの性質や心根を読み取る事ができるのだ。いわゆる特殊能力である。
イースのコアは光り輝き、心も透き通るように綺麗であったが、シモンのコアは暗く沈んでおり、心はドス黒く汚れていた。
私は、この時から、シモンは人格者ではなく、偽善者であった事を見抜くようになった。
そんな、ある日、とてもショックな事が起きた。
ナーゼが、戦死したのである。
彼女の小隊は、半月ほど前に敵に攻め入ったまま消息不明となっていたが、結局、サイヤ王国軍の攻撃を受け、全滅したとの結論に至ったのである。
私は、ナーゼほど強力な魔法使いを見た事がなかった。それに、彼女は騎士としても剣を極めていたから、負ける事を想像できなかった。
しかし、相手はサイヤ王国軍である。想像もできないような卑劣な方法を用いたのかも知れない。
私は、敵国に対し強い怒りを覚えた。
ナーゼが戦死したと聞き、彼女の故郷のパル村に両親を訪ねた。
しかし、国都に避難していると言われたため、今度は、国都の家を探して訪ねた。
ナーゼの父親がいて、かなり憔悴していた。
私が、お悔やみの言葉を伝えると、思いも寄らぬ言葉が返ってきた。
「娘のナーゼが戦死したのは、本当に悲しい。 だが、娘が亡くなったと言うのに、家内は、半月前に外出してから帰って来んのだ。 あいつは、娘が亡くなった事も知らず、何をやっているんだろう …」
父親は、悲しみとも怒りとも取れる表情をした後、黙り込んでしまった。
私は、ナーゼを思い、いっそう悲しくなった。
この頃、シモンは、何かにつけて私のところに来るようになっていた。
しかし、彼の心を覗いてからは、少しずつ距離を置くようにした。
イースの事も、シモンが仕組んだのではと、疑いを持つようになっていた。
私は、17歳でムートを卒業した後、伯爵の爵位を与えられ、その後、1年の中隊長経験を経て将軍となった。
シモンは、ますます積極的になり、周囲の目も憚らず、私に対し露骨に好意を寄せるようになっていた。
彼は、職責が上位の参謀であったから、面と向かって拒否できなかったが、軍の規律を理由に、何とかかわした。
しかし、彼が、国王に次ぐ権力を誇る宰相になった時、さすがに断る事ができない雰囲気になってきた。
また、この頃から、私の母がシモンを受け入れよと、不自然なほどに進めるようになった。
父も、母の行動を不審に思ったらしく、私に、無視しろと言ってきたほどだ。
私は、困り果てた。
そこで、至高の魔道具により、事態を回避する事にした。
誰にも話してないが …。
私が、10歳の時に、「魔法の門」からダンジョンの地下に迷い込み、タント王国の魔道士ジャームに救われた事がある。
この時に、至高の魔道具を頂いた。
この魔道具は、世界に3着しか存在しない、魔法のマントだった。
既に、弟子のマサンと、ギルド長のベスタフに渡してあると言っていたから、自分の物を私に譲ってくれたようだ。
だが、なぜ、私に譲ってくれたのかは、分からない。
彼は、ダンジョンから帰る方法も教えてくれた命の恩人である。
優しくて、尊敬できる格好良い人だった。
魔法のマントには、驚くべき秘密が隠されていた。その人の魔力レベルにより、様々な使い方ができた。
初歩的なものとしては、マントを被り、自分の姿を透明にして、相手から見えなくすると共に、魔力による探知も遮断する事ができる。
次に、中程度の使い方として、マントを被り、今の姿をベースにして、自分の性別を変える事ができる。
最後に、高度な使い方として、マントを被り自分を透明にした状態で、近くに、男女何れかの、自分の分身を作りだし、動かす事ができる。
私は、自分の分身を、シモンに抱かせる事にした。その様子を側で見ていたが、やはり卑劣な手を使っていた。
彼は、『感情の鎖』という古代魔道具を隠し持っていた。これは、世界に一つしかない魔道具で、ダンジョンの地下深いところにあると言われている。
彼が、なぜ持っていたのか?
とても、不思議だった。
この道具を使って魔法をかけられると、かけた相手に対し、心から従属してしまう。
しかし、欠点もある。かけられた者が術者より高魔力であった場合は、行動のみで、意思までは縛る事ができないのだ。
シモンは、私の分身を抱きながら、呪文を唱えていた。
危なかった。
私は、シモンより高魔力だから、意思がハッキリしたまま、行動を操られるところだった。普通にかけられるより悲劇なのだ。
反吐が出るような光景を、我慢して目に焼き付けた。
それは、おぞましい光景だったが、ふと、冷静になると、一つの疑問が頭に浮かんだ。
私の母の事である。その行動から見て、シモンに『感情の鎖』で縛られている可能性が高いと思えた。
だが、彼の性格上、私が拒否しない限り、母に危害を加える事は無いだろうと思った。
私は、魔法のマントで身を隠し、分身を何度もシモンに抱かせ、彼と婚約し、安心させた。
19歳になると、参謀であるガーラに、最前線に将軍の一人として赴任したいと申し出た。
本音は、気持ち悪いシモンから、一刻も早く離れたかったのだ。
結局、ムートでSクラスの私を最前線に送る事は、国威掲揚になるためシモンも反対できず、直ぐに赴任できた。
そこで、ナーゼを殺害したサイヤ国軍への強い怒りから、僅か5千の聖兵で4倍の2万の敵兵を蹴散らす事に成功した。
私は、多くの称賛を受け、ベルナの2傑に加えられ、3傑の一人と称されるようになり、最前線の司令官にまで登り詰めた。
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