45 / 124
第2章の2 新天地
第36話 ダンジョンの街
しおりを挟む
俺とマサンは、ロック鳥の背中に乗り、身を伏せるような格好で手綱を掴んでいた。
振り落とされる心配はなかったが、常に強風に晒されているため、体が凍えた。
ふと、マサンを見ると、平気な顔をしている。何か、魔道具でも使っているのだろうか。
「ほれよ」
マサンが、おれの背中に何かを貼り付けた。すると、寒かったのが嘘のように感じなくなった。やはり、魔道具を使っていたようだ。
彼女は、俺が寒がっている事に、気づいて助けてくれた。口は悪いが心根は優しい。
師匠から、マサンは優しくて面倒見が良いと言われた事を思い出した。
飛行して、半日ほど経過した頃、ロック鳥は、突然、速度を落とすと同時に、高度を下げ始めた。
「そろそろ、到着するようだ。 しっかり捕まっておけよ!」
マサンが言うが早いか、ロック鳥は激しく旋回した。
「ウァーーーー」
俺は、振り落とされないように必至でしがみついた。マサンを見ると、大きな口を開けて必死の形相だ。
その後、ロック鳥は、大きな山の中腹にある洞穴に入って行き、ふわりと宙に浮いたかと思うと、木々が敷き詰められた場所に、ストンと着地した。
「巣に着いた。 直ぐに逃げるぞ!」
マサンに言われ、ロック鳥の背中からスルリと降り、白クマよりも大きな三羽のヒナの間をすり抜けて、一目散に逃げた。
ある程度、巣から遠ざかったところで、マサンに声をかけられた。
「どうだ、イース。 普通の者なら馬に乗って2ヶ月程度かかるところを、ロック鳥に乗った事により、たったの半日で着いたぞ。 こんなに上手くいくとは思わなかったよ」
「エッ! マサンは、これまでもロック鳥を利用していたんだろ?」
「まさか! 可能性を実行したまでだ。 ダンジョンに来る時は、いつもなら、馬に乗って来たさ」
彼女は、当然のような顔で、悪びれずに言う。
「エッ、なに! それって …」
マサンの慎重そうに見えて、意外とギャンブラーな性格を思い、俺は戸惑いを隠せない。
「それより、早く街に行くぞ。 ギルドで、キングカイマンの皮と肝を換金して、魔道具や食料を買うぞ! それから、街一番の料理屋にも行って、しこたま美味いもんを食うんだ!」
マサンは、凄く嬉しそうだ。下品な物言いさえ無ければ、美しいご令嬢のように見えるのだが …。それが残念で仕方なかった。
◇◇◇
ロック鳥の巣から出て10キロほど歩くと、次第に行き交う人が多くなり、建物も増えてきた。
「ここが、ダンジョンの周辺にできた街だ。 どこの国にも属さない。 だから、街の名前もない。 皆、ダンジョンの街と言ってる。 中心部までは、目と鼻の先だ。 下手な国都に負けないくらい賑やかだぞ。 だけど犯罪も多い。 ギルドが冒険者を雇って治安を守ってはいるが、それでも追いつかないのさ。 絡まれても相手にすんなよ!」
マサンは、ワクワクした様子で、楽しそうに説明する。
「そうか、治安が悪いのか。 でも、マサンなら、どんな凶悪な連中に絡まれても撃退しちゃうだろ。 どうって事はないだろ」
「いや、中にはとんでもない連中が混じってる事があるんだ。 例えば人に化けた魔族なんかだ。 奴らの中には恐ろしく強い者がいる」
「そもそも魔族って、どんな連中なんだ? 俺は、一度も見た事がない」
「魔族は、魔王の国の住人だ。 ダンジョンから出て、この街に紛れ込んでいるんだが、人に化けているから見分けがつかないんだ」
「魔道具かなんかで、見分ける方法はないのか?」
「戦って追い詰めるしかない。 負けそうになった時に正体を現すんだ。 一度だけ3人の魔族と戦った事がある。 追い詰めた1人が正体を現したんだが、奴は、頭に角が生えていて尻尾があった。 だが、それ以外は、人と変わりなかった。 奴らには、魔法が効きにくい。 あの時は、剣で蹴散らしたが、かなり苦労した」
マサンは思い出したのか、ブルっと武者震いした。
「そんなに強いのか …」
マサンが苦労するほどの強さとは、どんなものか。少し興味をそそられた。
さらに歩いて行くと、高い塔が見えた。その横には周辺に比べ、大きな建物がある。
「塔の横にある建物がギルドだ。 8年ぶりだ」
マサンはそう言うと、俺の方を向いて笑った。その愛らしい笑顔を見ると、心が惹きつけられてしまう。
俺は、わざと顔を逸らした。
ギルドの建物に入ると、多くの人で賑わっており、カウンターには長蛇の列が並んでいた。俺は、この列に並ぶかと思うと、気が滅入ってしまった。
「あの奥の扉に向かうよ」
マサンが指さしたのは、ギルドの職員が使う通用口だった。
扉の前に立つと、マサンは何やら呪文のような言葉を呟いた。すると、解錠する音が聞こえた。
彼女は、気にする事無く扉を開け、俺の手を引いて中に入る。不法侵入のようで気が引けたので、俺は尋ねた。
「なあ、マサン。 無断で入るのは、まずいんじゃないか?」
「気にしなくて良いよ。 私のギルドカードは、出入り自由のSSSランクなんだ」
そう言うと、マサンは、また、俺に笑顔を向けた。この街に来てから、彼女はとても機嫌が良い。
振り落とされる心配はなかったが、常に強風に晒されているため、体が凍えた。
ふと、マサンを見ると、平気な顔をしている。何か、魔道具でも使っているのだろうか。
「ほれよ」
マサンが、おれの背中に何かを貼り付けた。すると、寒かったのが嘘のように感じなくなった。やはり、魔道具を使っていたようだ。
彼女は、俺が寒がっている事に、気づいて助けてくれた。口は悪いが心根は優しい。
師匠から、マサンは優しくて面倒見が良いと言われた事を思い出した。
飛行して、半日ほど経過した頃、ロック鳥は、突然、速度を落とすと同時に、高度を下げ始めた。
「そろそろ、到着するようだ。 しっかり捕まっておけよ!」
マサンが言うが早いか、ロック鳥は激しく旋回した。
「ウァーーーー」
俺は、振り落とされないように必至でしがみついた。マサンを見ると、大きな口を開けて必死の形相だ。
その後、ロック鳥は、大きな山の中腹にある洞穴に入って行き、ふわりと宙に浮いたかと思うと、木々が敷き詰められた場所に、ストンと着地した。
「巣に着いた。 直ぐに逃げるぞ!」
マサンに言われ、ロック鳥の背中からスルリと降り、白クマよりも大きな三羽のヒナの間をすり抜けて、一目散に逃げた。
ある程度、巣から遠ざかったところで、マサンに声をかけられた。
「どうだ、イース。 普通の者なら馬に乗って2ヶ月程度かかるところを、ロック鳥に乗った事により、たったの半日で着いたぞ。 こんなに上手くいくとは思わなかったよ」
「エッ! マサンは、これまでもロック鳥を利用していたんだろ?」
「まさか! 可能性を実行したまでだ。 ダンジョンに来る時は、いつもなら、馬に乗って来たさ」
彼女は、当然のような顔で、悪びれずに言う。
「エッ、なに! それって …」
マサンの慎重そうに見えて、意外とギャンブラーな性格を思い、俺は戸惑いを隠せない。
「それより、早く街に行くぞ。 ギルドで、キングカイマンの皮と肝を換金して、魔道具や食料を買うぞ! それから、街一番の料理屋にも行って、しこたま美味いもんを食うんだ!」
マサンは、凄く嬉しそうだ。下品な物言いさえ無ければ、美しいご令嬢のように見えるのだが …。それが残念で仕方なかった。
◇◇◇
ロック鳥の巣から出て10キロほど歩くと、次第に行き交う人が多くなり、建物も増えてきた。
「ここが、ダンジョンの周辺にできた街だ。 どこの国にも属さない。 だから、街の名前もない。 皆、ダンジョンの街と言ってる。 中心部までは、目と鼻の先だ。 下手な国都に負けないくらい賑やかだぞ。 だけど犯罪も多い。 ギルドが冒険者を雇って治安を守ってはいるが、それでも追いつかないのさ。 絡まれても相手にすんなよ!」
マサンは、ワクワクした様子で、楽しそうに説明する。
「そうか、治安が悪いのか。 でも、マサンなら、どんな凶悪な連中に絡まれても撃退しちゃうだろ。 どうって事はないだろ」
「いや、中にはとんでもない連中が混じってる事があるんだ。 例えば人に化けた魔族なんかだ。 奴らの中には恐ろしく強い者がいる」
「そもそも魔族って、どんな連中なんだ? 俺は、一度も見た事がない」
「魔族は、魔王の国の住人だ。 ダンジョンから出て、この街に紛れ込んでいるんだが、人に化けているから見分けがつかないんだ」
「魔道具かなんかで、見分ける方法はないのか?」
「戦って追い詰めるしかない。 負けそうになった時に正体を現すんだ。 一度だけ3人の魔族と戦った事がある。 追い詰めた1人が正体を現したんだが、奴は、頭に角が生えていて尻尾があった。 だが、それ以外は、人と変わりなかった。 奴らには、魔法が効きにくい。 あの時は、剣で蹴散らしたが、かなり苦労した」
マサンは思い出したのか、ブルっと武者震いした。
「そんなに強いのか …」
マサンが苦労するほどの強さとは、どんなものか。少し興味をそそられた。
さらに歩いて行くと、高い塔が見えた。その横には周辺に比べ、大きな建物がある。
「塔の横にある建物がギルドだ。 8年ぶりだ」
マサンはそう言うと、俺の方を向いて笑った。その愛らしい笑顔を見ると、心が惹きつけられてしまう。
俺は、わざと顔を逸らした。
ギルドの建物に入ると、多くの人で賑わっており、カウンターには長蛇の列が並んでいた。俺は、この列に並ぶかと思うと、気が滅入ってしまった。
「あの奥の扉に向かうよ」
マサンが指さしたのは、ギルドの職員が使う通用口だった。
扉の前に立つと、マサンは何やら呪文のような言葉を呟いた。すると、解錠する音が聞こえた。
彼女は、気にする事無く扉を開け、俺の手を引いて中に入る。不法侵入のようで気が引けたので、俺は尋ねた。
「なあ、マサン。 無断で入るのは、まずいんじゃないか?」
「気にしなくて良いよ。 私のギルドカードは、出入り自由のSSSランクなんだ」
そう言うと、マサンは、また、俺に笑顔を向けた。この街に来てから、彼女はとても機嫌が良い。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。
ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
寝取られて裏切った恋人への復讐
音の中
恋愛
【あらすじ】
彼との出会いは中学2年生のクラス替え。
席が隣同士だったのがきっかけでお話をするようになったんだよね。
彼とはドラマ鑑賞という共通の趣味があった。
いつも前日に見たドラマの感想を話していたのが懐かしいな。
それから徐々に仲良くなって付き合えた時は本当に嬉しかったよ。
この幸せはずっと続く。
その時はそう信じて疑わなかったな、あの日までは。
【注意】
・人を不快にさせる小説だと思います。
・けど小説を書いてると、意外と不快にならないかも?という感覚になり麻痺してしまいます。
・素読みしてみたら作者のくせに思った以上にダメージくらいました。(公開して3日目の感想)
・私がこの小説を読んでたら多分作者に怒りを覚えます。
・ラブコメパートが半分を占めます。
・エロい表現もあります。
・ざまぁはありますが、殺したり、人格を壊して精神病棟行きなどの過激なものではありません。
・された側視点ではハッピーエンドになります。
・復讐が駆け足だと感じちゃうかも……
・この小説はこの間初めて読んでみたNTR漫画にムカついたので書きました。
・プロットもほぼない状態で、怒りに任せて殴り書きした感じです。
・だからおかしいところが散見するかも……。
・とりあえず私はもうNTR漫画とか読むことはないでしょう……。
【更新について】
・1日2回投稿します
・初回を除き、『7時』『17時』に公開します
※この小説は書き終えているのでエタることはありません。
※逆に言うと、コメントで要望があっても答えられない可能性がとても高いです。
最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった
音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。
そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。
4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。
これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。
--
【登場人物】
山岸 優李:裏切られた主人公
美山 奏:救った幼馴染み
坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。
北島 光輝:裏切った親友
--
この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。
ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。
人によっては不満に思うこともあるかもです。
そう感じさせてしまったら申し訳ありません。
また、ストーリー自体はテンプレだと思います。
--
筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。
なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。
小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。
生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
浮気したけど『ざまぁ』されなかった女の慟哭
Raccoon
恋愛
ある日夫——正樹が死んでしまった。
失意の中私——亜衣が見つけたのは一冊の黒い日記帳。
そこに書かれてあったのは私の罪。もう許されることのない罪。消えることのない罪。
この日記を最後まで読んだ時、私はどうなっているのだろうか。
浮気した妻が死んだ夫の10年分の日記読むお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる