40 / 124
第2章の2 新天地
第31話 姉弟子
しおりを挟む
俺はミシンの真剣な眼差しに少し戸惑いながらも、5年前にジャームに命を救われた事や、彼から剣術と魔術を学んだ事を詳しく話した。
ミシンは、しばらく不思議そうな顔をして聞いていたが、突然、怒気を孕む声で話し始めた。そこには、いつものお茶らけた感じは無い。
「あんた、留置所で憲兵から聞いていただろ …。 伝説の魔導士ジャーム様は、6年も前に亡くなったんだ! どうして死人から学べるんだ?」
「確かに、憲兵から聞いた時には驚いたよ。 でも …。 逆に聞くけど、本当に師匠は亡くなったのか? 高名な魔導士なら、他の空間とか世界で生きられるんじゃないのか?」
俺は、ジャームが生きていると確信していた。広大な大地にいた俺が、知らぬ間に木々が生い茂る森に移動していたからだ。
「それは、違うさ。 間違いなく死んでいた …」
ミシンは、真剣な、それでいて悲しそうな表情をした。
「どうして、死んだと断言できるんだ? 俺の師匠はジャームと名乗ったんだ。 それとも、師匠が高名な魔道士の名を騙ったとでも言うのか!」
俺は、師匠のことを汚されたようで腹が立ってきた。
「理由か …。 実は …。 私が、師匠が亡くなっているのを見つけて、埋葬したんだ。 それで …。 国都に出向いて、師匠の死を公表した」
「えっ、師匠って? あなたはミシンって名前なんだろ? 意味が分からない?」
「あんた鈍いね。 あたしゃ、魔道士ジャームの2番弟子、マサンだよ。 ミシンは偽名さ。 でも、あんたが、師匠の弟子って …。 剣は確かに師匠の物だ …。 でっ、その長剣はどこで手に入れた?」
マサンの鋭い眼光が、俺を刺すように見る。今にも、殺されそうな勢いだ。
「ちょっ、落ち着いてくれ! これは、師匠と別れる時にいただいたんだ。 決して盗んだ物じゃない」
「じゃあ、その剣で構えて、素振りをしてみな!」
俺はマサンに言われ、剣を上段に構え、そして、大きく円を描くように剣を振り下ろした。
師匠から教えられた基本動作だ。
ヒュッシュ
風を切る音と同時に、剣が金色の光を放った。
「そうか …。 その剣の構えや発する光は、我が流派に間違いない。 信じるしかないか …。 でも …。 そうなると、死者から教わったことになる。 なあ、師匠の見た目とか、どうだった?」
「そう言えば …。 目玉がなくて暗く窪んでいたし、顎が潰れて口が開かなかった。 だから、師匠は声を発さず、心の中に直接呼びかけて来た。 不思議な人だった。 顔は …。 見た目は、まるでドクロのような感じだった」
「ドクロ? 確かに師匠は80歳を超える高齢だったけど、溢れるような魔力があったし、そのせいか40歳程度に見えた。 それに、実力も衰えてなかった。 髪は金髪で、目はブルー、とてもダンディな感じだった。 ドクロなんて言ったけど、まるで違ってる。 師匠の朽ち果てた姿なのか …。 あんたは死者と居たようだな。 でも、死者であっても、もう一度師匠に会いたい」
そう言うと、マサンの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
俺は、彼女の悲しそうな顔を見て話しづらくなってしまった。
「あんたを、弟弟子と認めざるを得ないか」
マサンは俺に近づくと、そっと肩に手を置いた。
「師匠は、元気だったんだろ。 じゃあ、何で死んだんだ?」
俺は、信じられない思いで問いかけた。
「分からない。 帰って来たら、師匠が家の中で倒れていた。 病死のようにも見えたが …。 でも、師匠の長剣と魔杖が無くなっていたから、誰かに殺められたのかと思ったりもした。 だから、おまえが長剣を持っていたのを見て驚いたのさ」
「俺が、師匠を殺めたとでも思ったのか?」
「おまえが、師匠を! 笑わせるな、おまえの腕で師匠を殺めるなんて不可能さ」
マサンは、俺をバカにしたような顔で睨んだ。
◇◇◇
その頃、サイモン伯爵の執務室では、憲兵隊長のアトムが呼び出されていた。
サイモンは、机を叩き興奮した様子で、アトムに激しく問いかけた。
「マサン様は、まだ見つからないのか! 我が領内に居た事を伝書鳩により国都へ伝達したが、早急に身柄を確保しないとマズイ事になる。 分かっておるのか!」
「ハッ。 要所に検問を設置し、総動員で探しているのですが、一向に見つかりません。 もしかすると、敷地内より通じる森の方に向かったのかも知れません。 そうなると、探すのは至難の技かと。 それに、マサン様だと分かった以上、我々では …」
アトムは、辛そうな顔をして言葉を呑み込んだ。
「何だと言うんだ?」
「恐れながら。 我々の戦力で拘束するのは不可能です」
「バカもの! 拘束するのでは無い! ミシンと偽名を名乗っていたとはいえ、留置所に入れてしまった非礼を詫び、賓客として屋敷にお招きする。 国都から官僚が来るまでの間、当地にご逗留いただくのだ」
「でも、突然、なぜ逃げたのでしょう? 世捨て人のような身なりからして、表に出る事を避けているのでは?」
アトムは、真剣な表情でサイモンを見た。
「伝説の魔道士であるジャーム様が亡くなられてから、表舞台から去り行方をくらませた。 何か、よほどの事があったのだろう」
不思議そうな顔をして、サイモンは答えた。
ミシンは、しばらく不思議そうな顔をして聞いていたが、突然、怒気を孕む声で話し始めた。そこには、いつものお茶らけた感じは無い。
「あんた、留置所で憲兵から聞いていただろ …。 伝説の魔導士ジャーム様は、6年も前に亡くなったんだ! どうして死人から学べるんだ?」
「確かに、憲兵から聞いた時には驚いたよ。 でも …。 逆に聞くけど、本当に師匠は亡くなったのか? 高名な魔導士なら、他の空間とか世界で生きられるんじゃないのか?」
俺は、ジャームが生きていると確信していた。広大な大地にいた俺が、知らぬ間に木々が生い茂る森に移動していたからだ。
「それは、違うさ。 間違いなく死んでいた …」
ミシンは、真剣な、それでいて悲しそうな表情をした。
「どうして、死んだと断言できるんだ? 俺の師匠はジャームと名乗ったんだ。 それとも、師匠が高名な魔道士の名を騙ったとでも言うのか!」
俺は、師匠のことを汚されたようで腹が立ってきた。
「理由か …。 実は …。 私が、師匠が亡くなっているのを見つけて、埋葬したんだ。 それで …。 国都に出向いて、師匠の死を公表した」
「えっ、師匠って? あなたはミシンって名前なんだろ? 意味が分からない?」
「あんた鈍いね。 あたしゃ、魔道士ジャームの2番弟子、マサンだよ。 ミシンは偽名さ。 でも、あんたが、師匠の弟子って …。 剣は確かに師匠の物だ …。 でっ、その長剣はどこで手に入れた?」
マサンの鋭い眼光が、俺を刺すように見る。今にも、殺されそうな勢いだ。
「ちょっ、落ち着いてくれ! これは、師匠と別れる時にいただいたんだ。 決して盗んだ物じゃない」
「じゃあ、その剣で構えて、素振りをしてみな!」
俺はマサンに言われ、剣を上段に構え、そして、大きく円を描くように剣を振り下ろした。
師匠から教えられた基本動作だ。
ヒュッシュ
風を切る音と同時に、剣が金色の光を放った。
「そうか …。 その剣の構えや発する光は、我が流派に間違いない。 信じるしかないか …。 でも …。 そうなると、死者から教わったことになる。 なあ、師匠の見た目とか、どうだった?」
「そう言えば …。 目玉がなくて暗く窪んでいたし、顎が潰れて口が開かなかった。 だから、師匠は声を発さず、心の中に直接呼びかけて来た。 不思議な人だった。 顔は …。 見た目は、まるでドクロのような感じだった」
「ドクロ? 確かに師匠は80歳を超える高齢だったけど、溢れるような魔力があったし、そのせいか40歳程度に見えた。 それに、実力も衰えてなかった。 髪は金髪で、目はブルー、とてもダンディな感じだった。 ドクロなんて言ったけど、まるで違ってる。 師匠の朽ち果てた姿なのか …。 あんたは死者と居たようだな。 でも、死者であっても、もう一度師匠に会いたい」
そう言うと、マサンの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
俺は、彼女の悲しそうな顔を見て話しづらくなってしまった。
「あんたを、弟弟子と認めざるを得ないか」
マサンは俺に近づくと、そっと肩に手を置いた。
「師匠は、元気だったんだろ。 じゃあ、何で死んだんだ?」
俺は、信じられない思いで問いかけた。
「分からない。 帰って来たら、師匠が家の中で倒れていた。 病死のようにも見えたが …。 でも、師匠の長剣と魔杖が無くなっていたから、誰かに殺められたのかと思ったりもした。 だから、おまえが長剣を持っていたのを見て驚いたのさ」
「俺が、師匠を殺めたとでも思ったのか?」
「おまえが、師匠を! 笑わせるな、おまえの腕で師匠を殺めるなんて不可能さ」
マサンは、俺をバカにしたような顔で睨んだ。
◇◇◇
その頃、サイモン伯爵の執務室では、憲兵隊長のアトムが呼び出されていた。
サイモンは、机を叩き興奮した様子で、アトムに激しく問いかけた。
「マサン様は、まだ見つからないのか! 我が領内に居た事を伝書鳩により国都へ伝達したが、早急に身柄を確保しないとマズイ事になる。 分かっておるのか!」
「ハッ。 要所に検問を設置し、総動員で探しているのですが、一向に見つかりません。 もしかすると、敷地内より通じる森の方に向かったのかも知れません。 そうなると、探すのは至難の技かと。 それに、マサン様だと分かった以上、我々では …」
アトムは、辛そうな顔をして言葉を呑み込んだ。
「何だと言うんだ?」
「恐れながら。 我々の戦力で拘束するのは不可能です」
「バカもの! 拘束するのでは無い! ミシンと偽名を名乗っていたとはいえ、留置所に入れてしまった非礼を詫び、賓客として屋敷にお招きする。 国都から官僚が来るまでの間、当地にご逗留いただくのだ」
「でも、突然、なぜ逃げたのでしょう? 世捨て人のような身なりからして、表に出る事を避けているのでは?」
アトムは、真剣な表情でサイモンを見た。
「伝説の魔道士であるジャーム様が亡くなられてから、表舞台から去り行方をくらませた。 何か、よほどの事があったのだろう」
不思議そうな顔をして、サイモンは答えた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました
鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。
そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。
「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。
ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね?
という「誰が勇者だ?」的な物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる