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第2章の2 新天地
第31話 姉弟子
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俺はミシンの真剣な眼差しに少し戸惑いながらも、5年前にジャームに命を救われた事や、彼から剣術と魔術を学んだ事を詳しく話した。
ミシンは、しばらく不思議そうな顔をして聞いていたが、突然、怒気を孕む声で話し始めた。そこには、いつものお茶らけた感じは無い。
「あんた、留置所で憲兵から聞いていただろ …。 伝説の魔導士ジャーム様は、6年も前に亡くなったんだ! どうして死人から学べるんだ?」
「確かに、憲兵から聞いた時には驚いたよ。 でも …。 逆に聞くけど、本当に師匠は亡くなったのか? 高名な魔導士なら、他の空間とか世界で生きられるんじゃないのか?」
俺は、ジャームが生きていると確信していた。広大な大地にいた俺が、知らぬ間に木々が生い茂る森に移動していたからだ。
「それは、違うさ。 間違いなく死んでいた …」
ミシンは、真剣な、それでいて悲しそうな表情をした。
「どうして、死んだと断言できるんだ? 俺の師匠はジャームと名乗ったんだ。 それとも、師匠が高名な魔道士の名を騙ったとでも言うのか!」
俺は、師匠のことを汚されたようで腹が立ってきた。
「理由か …。 実は …。 私が、師匠が亡くなっているのを見つけて、埋葬したんだ。 それで …。 国都に出向いて、師匠の死を公表した」
「えっ、師匠って? あなたはミシンって名前なんだろ? 意味が分からない?」
「あんた鈍いね。 あたしゃ、魔道士ジャームの2番弟子、マサンだよ。 ミシンは偽名さ。 でも、あんたが、師匠の弟子って …。 剣は確かに師匠の物だ …。 でっ、その長剣はどこで手に入れた?」
マサンの鋭い眼光が、俺を刺すように見る。今にも、殺されそうな勢いだ。
「ちょっ、落ち着いてくれ! これは、師匠と別れる時にいただいたんだ。 決して盗んだ物じゃない」
「じゃあ、その剣で構えて、素振りをしてみな!」
俺はマサンに言われ、剣を上段に構え、そして、大きく円を描くように剣を振り下ろした。
師匠から教えられた基本動作だ。
ヒュッシュ
風を切る音と同時に、剣が金色の光を放った。
「そうか …。 その剣の構えや発する光は、我が流派に間違いない。 信じるしかないか …。 でも …。 そうなると、死者から教わったことになる。 なあ、師匠の見た目とか、どうだった?」
「そう言えば …。 目玉がなくて暗く窪んでいたし、顎が潰れて口が開かなかった。 だから、師匠は声を発さず、心の中に直接呼びかけて来た。 不思議な人だった。 顔は …。 見た目は、まるでドクロのような感じだった」
「ドクロ? 確かに師匠は80歳を超える高齢だったけど、溢れるような魔力があったし、そのせいか40歳程度に見えた。 それに、実力も衰えてなかった。 髪は金髪で、目はブルー、とてもダンディな感じだった。 ドクロなんて言ったけど、まるで違ってる。 師匠の朽ち果てた姿なのか …。 あんたは死者と居たようだな。 でも、死者であっても、もう一度師匠に会いたい」
そう言うと、マサンの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
俺は、彼女の悲しそうな顔を見て話しづらくなってしまった。
「あんたを、弟弟子と認めざるを得ないか」
マサンは俺に近づくと、そっと肩に手を置いた。
「師匠は、元気だったんだろ。 じゃあ、何で死んだんだ?」
俺は、信じられない思いで問いかけた。
「分からない。 帰って来たら、師匠が家の中で倒れていた。 病死のようにも見えたが …。 でも、師匠の長剣と魔杖が無くなっていたから、誰かに殺められたのかと思ったりもした。 だから、おまえが長剣を持っていたのを見て驚いたのさ」
「俺が、師匠を殺めたとでも思ったのか?」
「おまえが、師匠を! 笑わせるな、おまえの腕で師匠を殺めるなんて不可能さ」
マサンは、俺をバカにしたような顔で睨んだ。
◇◇◇
その頃、サイモン伯爵の執務室では、憲兵隊長のアトムが呼び出されていた。
サイモンは、机を叩き興奮した様子で、アトムに激しく問いかけた。
「マサン様は、まだ見つからないのか! 我が領内に居た事を伝書鳩により国都へ伝達したが、早急に身柄を確保しないとマズイ事になる。 分かっておるのか!」
「ハッ。 要所に検問を設置し、総動員で探しているのですが、一向に見つかりません。 もしかすると、敷地内より通じる森の方に向かったのかも知れません。 そうなると、探すのは至難の技かと。 それに、マサン様だと分かった以上、我々では …」
アトムは、辛そうな顔をして言葉を呑み込んだ。
「何だと言うんだ?」
「恐れながら。 我々の戦力で拘束するのは不可能です」
「バカもの! 拘束するのでは無い! ミシンと偽名を名乗っていたとはいえ、留置所に入れてしまった非礼を詫び、賓客として屋敷にお招きする。 国都から官僚が来るまでの間、当地にご逗留いただくのだ」
「でも、突然、なぜ逃げたのでしょう? 世捨て人のような身なりからして、表に出る事を避けているのでは?」
アトムは、真剣な表情でサイモンを見た。
「伝説の魔道士であるジャーム様が亡くなられてから、表舞台から去り行方をくらませた。 何か、よほどの事があったのだろう」
不思議そうな顔をして、サイモンは答えた。
ミシンは、しばらく不思議そうな顔をして聞いていたが、突然、怒気を孕む声で話し始めた。そこには、いつものお茶らけた感じは無い。
「あんた、留置所で憲兵から聞いていただろ …。 伝説の魔導士ジャーム様は、6年も前に亡くなったんだ! どうして死人から学べるんだ?」
「確かに、憲兵から聞いた時には驚いたよ。 でも …。 逆に聞くけど、本当に師匠は亡くなったのか? 高名な魔導士なら、他の空間とか世界で生きられるんじゃないのか?」
俺は、ジャームが生きていると確信していた。広大な大地にいた俺が、知らぬ間に木々が生い茂る森に移動していたからだ。
「それは、違うさ。 間違いなく死んでいた …」
ミシンは、真剣な、それでいて悲しそうな表情をした。
「どうして、死んだと断言できるんだ? 俺の師匠はジャームと名乗ったんだ。 それとも、師匠が高名な魔道士の名を騙ったとでも言うのか!」
俺は、師匠のことを汚されたようで腹が立ってきた。
「理由か …。 実は …。 私が、師匠が亡くなっているのを見つけて、埋葬したんだ。 それで …。 国都に出向いて、師匠の死を公表した」
「えっ、師匠って? あなたはミシンって名前なんだろ? 意味が分からない?」
「あんた鈍いね。 あたしゃ、魔道士ジャームの2番弟子、マサンだよ。 ミシンは偽名さ。 でも、あんたが、師匠の弟子って …。 剣は確かに師匠の物だ …。 でっ、その長剣はどこで手に入れた?」
マサンの鋭い眼光が、俺を刺すように見る。今にも、殺されそうな勢いだ。
「ちょっ、落ち着いてくれ! これは、師匠と別れる時にいただいたんだ。 決して盗んだ物じゃない」
「じゃあ、その剣で構えて、素振りをしてみな!」
俺はマサンに言われ、剣を上段に構え、そして、大きく円を描くように剣を振り下ろした。
師匠から教えられた基本動作だ。
ヒュッシュ
風を切る音と同時に、剣が金色の光を放った。
「そうか …。 その剣の構えや発する光は、我が流派に間違いない。 信じるしかないか …。 でも …。 そうなると、死者から教わったことになる。 なあ、師匠の見た目とか、どうだった?」
「そう言えば …。 目玉がなくて暗く窪んでいたし、顎が潰れて口が開かなかった。 だから、師匠は声を発さず、心の中に直接呼びかけて来た。 不思議な人だった。 顔は …。 見た目は、まるでドクロのような感じだった」
「ドクロ? 確かに師匠は80歳を超える高齢だったけど、溢れるような魔力があったし、そのせいか40歳程度に見えた。 それに、実力も衰えてなかった。 髪は金髪で、目はブルー、とてもダンディな感じだった。 ドクロなんて言ったけど、まるで違ってる。 師匠の朽ち果てた姿なのか …。 あんたは死者と居たようだな。 でも、死者であっても、もう一度師匠に会いたい」
そう言うと、マサンの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
俺は、彼女の悲しそうな顔を見て話しづらくなってしまった。
「あんたを、弟弟子と認めざるを得ないか」
マサンは俺に近づくと、そっと肩に手を置いた。
「師匠は、元気だったんだろ。 じゃあ、何で死んだんだ?」
俺は、信じられない思いで問いかけた。
「分からない。 帰って来たら、師匠が家の中で倒れていた。 病死のようにも見えたが …。 でも、師匠の長剣と魔杖が無くなっていたから、誰かに殺められたのかと思ったりもした。 だから、おまえが長剣を持っていたのを見て驚いたのさ」
「俺が、師匠を殺めたとでも思ったのか?」
「おまえが、師匠を! 笑わせるな、おまえの腕で師匠を殺めるなんて不可能さ」
マサンは、俺をバカにしたような顔で睨んだ。
◇◇◇
その頃、サイモン伯爵の執務室では、憲兵隊長のアトムが呼び出されていた。
サイモンは、机を叩き興奮した様子で、アトムに激しく問いかけた。
「マサン様は、まだ見つからないのか! 我が領内に居た事を伝書鳩により国都へ伝達したが、早急に身柄を確保しないとマズイ事になる。 分かっておるのか!」
「ハッ。 要所に検問を設置し、総動員で探しているのですが、一向に見つかりません。 もしかすると、敷地内より通じる森の方に向かったのかも知れません。 そうなると、探すのは至難の技かと。 それに、マサン様だと分かった以上、我々では …」
アトムは、辛そうな顔をして言葉を呑み込んだ。
「何だと言うんだ?」
「恐れながら。 我々の戦力で拘束するのは不可能です」
「バカもの! 拘束するのでは無い! ミシンと偽名を名乗っていたとはいえ、留置所に入れてしまった非礼を詫び、賓客として屋敷にお招きする。 国都から官僚が来るまでの間、当地にご逗留いただくのだ」
「でも、突然、なぜ逃げたのでしょう? 世捨て人のような身なりからして、表に出る事を避けているのでは?」
アトムは、真剣な表情でサイモンを見た。
「伝説の魔道士であるジャーム様が亡くなられてから、表舞台から去り行方をくらませた。 何か、よほどの事があったのだろう」
不思議そうな顔をして、サイモンは答えた。
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