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第二十二話 アーレントの過去② ※第十七話と被る部分があります

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次の日の明け方、ライトに扮したアーレントは用意していた馬に乗り城門を超えデフェル子爵領に向かった。

ライトと鉢合わせせずにティアラに会うことを目標に馬を走らせる。

はやる気持ちは風と共に馬の速度を上げ、馬車で3時間の道程をたったの40分で移動した。

デフェル子爵領に着くと、アーレントは辺り一帯が見渡せる小高い丘に登り、馬を降り馬の手綱とロープを結び木に止めた。

綺羅びやかな王宮暮らしとは全く違い、自然豊かな風景に自然と緊張がほぐれていく。

「ここは、平和だな」

国境付近にしては のどかで平和な子爵領。
王国騎士団の騎士達が多くここに在住しているので大きな問題もないのだった。

丘の上から見下ろすと、周りと比べてやや大きめな屋敷が一つ。

「あそこが子爵邸だな。早くティアラに会いたいものだ」

アーレントは、十四年ぶりにティアラに会えることで胸が高鳴った。

◇◇◇◇

ティアラの朝は馬小屋の掃除から始まる。

「みんなおはよー。お掃除するわね」

ティアラは赤く長い髪を一つにまとめポニーテールにして、繋の服でやって来た。

ササッと手際よく掃き掃除を終わらせると、一頭一頭優しく丁寧にブラッシングをする。

馬小屋の掃除を済ませ屋敷に戻ると入浴と着替えを済ませると両親との朝食の時間になる。

今日は、父であるデフェル子爵から苦手な座学を教わることになっていた。

騎士団に所属するケビンが月に一度休暇の日を使ってティアラのために座学を行うのは、勉強嫌いのティアラを思ってのこと。

「後で部屋に行くからね」と朝食の場で言われたティアラは「・・・はぁい」と気怠く返事をした。

自室に戻り窓から馬小屋を見て「馬と遊びたいな」と呟く。

なかなか来ない父を待ちわびて欠伸を一つしたその時だった。

ダンッという大きな物音が一つ。

何か大きな物が落ちたのかとティアラは軽く考えていたが、次第に屋敷内に響き渡るキィインという異質な音と人々の悲鳴にただ事ではない何かが起きている事を感じた。

ダダダダッと、自室に近づく足音にビクッと体が反応した。

「ティアラッ!」

ティアラを呼ぶ父ケビンの声が廊下に響き渡る。

ケビンはノックをすることもなくティアラの部屋の扉を開け青白い顔をしてティアラに近づく。

「どうしたのですか お父様?」

「今すぐ逃げろ。賊だっ!」

深い森に囲まれたデフェル領ではたまに賊が攻め込んでくる事があった。

反貴族の破落戸の集まりで、ケビンも手を焼いていたのだが、屋敷にまで入られるのは今回が初めてだった。

ケビンに続いて入ってきたのはお父様の部下である何人もの王国騎士団の騎士達。

廊下の外には、キィンキィンと剣と剣のぶつかり合う音がする。

逃げろと言われても、どうしたらいいのか分からずティアラが慌てていると、ライトが入室してきた。

「ケビン!屋敷内の賊は取り敢えず全て片付けた。今のうちに家族を連れて逃げろ。僕達はもう一度屋敷内を見てくる」

敵の返り血を浴びたのだろうか、ライトの全身の所々に赤黒い物が付いている。
ライトの身を案じてケビンが問う。

「ですがライト殿下は!?」

ケビンの声に目の前にいる人物がライトだということをティアラは知る。

「僕は平気だ。早く外へ、安全な場所へ逃げろっ」

ケビンとティアラにライトはそう言うと、騎士達と共に部屋を出て行った。

屋敷を出て少し走った森の中にデフェル子爵家の小さな隠れ家がある。

「ここを動くんじゃないぞ。ライト殿下を見に行ってくる」

ケビンがティアラにそう言って小屋を出て行った。

どのくらいの時間が過ぎたのかも、今 外で何が起きているのかも分からない状況にティアラは息を潜めて縮こまっている。

ガシャン!

窓に何かが当たり砕けたガラスがティアラの足元にバラバラと散らばった。

「ひっ」とティアラが声を出したのと同時に、ドアノブをカチャカチャと揺らす音がした。

鍵が掛かっているから開かないドアノブが次第に大きな音で揺らされていく。

ガチャガチャ、ガチャガチャガチャ・・・・・。

「・・・・・・」

少しの間、無音の時間が流れた。

外にいるのが敵か味方かも分からないのは本当に不安で、何とか今の状況が知りたいと思いティアラは割れたガラス窓から外をそっと見た。
その時だった。

「みぃつけたぁ」

ヌッと割れたガラス窓に現れたのは目だけが見える頭をすっぽり隠した真っ黒のマスクと真っ黒の服を着た男だった。

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