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第十二話 SIDE:ライト

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ピチチチッと、小鳥の囀りで目を冷ますと暖かい太陽が僕の部屋に明かりを落としていた。

デフェル子爵令嬢は学生寮に入ってはいないので休日に彼女にベタベタ付き纏われる心配はない。

しかし学業の他に第二王子としての業務が溜まっていて、休みの日に処理しなくてはいけない書類が山積みだ。

これではレティシアと休日にデートに行くことも出来ないではないかっ。

朝食を皆と同じ様に食堂で食べたあと、僕は部屋に戻り机に着く。

ペタンペタンと山積みになっている書類を片付けて一段落ついた時、僕はある男を呼び出した。

「ランディを呼べ」

僕は僕の代わりにティアラ・デフェル子爵令嬢に付けた護衛騎士のランディを呼びつけた。

程なくして部屋がノックされた。
「入れ」と言えば「失礼します」と返事があって扉が開かれた。

ランドルフ・ジョハン。
灰色の髪色に水色の瞳は、腕の立つランディの雰囲気を優しい男に見せている。
ランディは代々優秀な騎士を多く排出してきたジョハン伯爵家の三男だ。

「ライト殿下、お呼びでしょうか・・・・・・ひいっ」

ランディが入室してすぐ驚くのも仕方がない。
今、僕はランディの喉元に剣を突きつけているのだから。

「お前にデフェル子爵令嬢の護衛を任せたのに何故何度も出し抜かれるんだ?まさかお前、裏切りか?」

「ちっ、違いますよ。あの人腕が立つんですってばっ」

「腕が立つ?僕と一緒に多くの戦場を駆け抜けてきたランディよりもデフェル子爵令嬢が強いとは到底思えない。・・・・・・さてはお前」

僕の言葉にランディがギクッと肩を不自然に動かしたから確信した。
僕はランディに近づき、スッとポケットの中に手を伸ばしあるものを取り出した。
ランディのポケットの中から出てきたのは可愛らしいラッピングがされたクッキーの入った袋だった。

「胃袋を掴まれたのか?」

「すすす、すみません。だってあの人めっちゃ旨いお菓子くれるんですよ~。料理の腕が半端なくって。一口だけ食べる間にいつも逃げられて・・・・・・ってすいません!殿下殺さないでっ。でもでも、殿下の隣の席は守ったじゃないですかっ」

ランディのふざけた言い訳を僕は容認出来ず、つい剣を握る手に力が入る。

もちろん本気で殺すつもりはないがこの苛立ちをどうしろと?

「当たり前だろう。もしもあの時、お前が間に入ってなかったら今頃アリシアの隣という楽園の様な場所が奪われていたんだぞ!?」

ランディは腕が立つが甘い物に目がないのが唯一の欠点なのだが、まさかデフェル子爵令嬢に菓子作りの才があったとは誤算だった。
僕は はあ、と溜息をついたあと本題に入った。

「で?脅迫状の件はどうなってる?」

僕がそう聞けばランディはピッと姿勢を正し敬礼の姿勢になった。

「はっ。今のところデフェル子爵令嬢の周りで何か大事が起きた報告はありません」
「そうか」

やはりただのいたずらだったのか?
入学して二週間が経つが、今のところデフェル子爵令嬢が命にさらされる様な事は起きていない。

「ところで殿下。こんなに晴れているのに外出されないのですか?今日アリシア様は観劇を見にセントラル劇場に行かれているそうですよ」
「何っ!?」

ガタンと僕が勢い良く立ち上がれば、ランディが「うわぁ、ビックリした」と大袈裟に驚く。

「ダレス伯爵令嬢が言ってました。チケット2枚ありますけど行きます?」

「アリシアの休日の予定をよく手に入れた。でかしたぞランディ!」

ランディが懐から取り出したチケットをバッと奪って僕は意気揚々とランディと共に部屋を出る。

「ぐずぐずするな、行くぞ!」

◇◇◇◇

セントラル劇場は城下町の中心にある。
休日で人が多いが僕とランディは黒いフードを被り人並みを掻き分けて進んでいった。

キャラメルポップコーンの香りに吸い寄せられたランディが店のショーウィンドウにへばりついたので、耳を引っ張って引き剥がそうとしたその時だった。

「お前、いい加減にしろよ」
「いでででっ。殿下やめてください。痛たたっ・・・・・・あれ?」

ランディが、店のショーウィンドウ越しに何かを発見したようでその視線を僕も追う。

「あ!・・・・・・え!?」

僕が目にしたのは、可愛らしいワンピースに身を包んだアリシア・・・・・・と、見知らぬ男だった。
バッと振り返りアリシアを視線で追う。

ミントグリーンのワンピースが可憐でかわいいな。じゃなくって、アリシアの隣にいる茶髪のやせ細った男は誰だっ。

僕は仲良くセントラル劇場に入っていく二人を呆然と見つめた。

「で、殿下?大丈夫・・・・・・じゃないですね」

ショックを受けた僕に気づいたランディが声をかけてきたが、僕は動くことも出来ずにその場で魂が抜けた廃人の様になった。


    
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