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第3章
3-8 敵か味方か
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「だったら、私のこと応援してください。もちろんお礼はします」
「そういう問題じゃないんだけどな……」
念のため確かめたけれど、谷岡さんの小指には”糸”は”見え”ない。
(”見え”ないことでこんな気持ちになったのは、初めてかもしれない)
こんなに惹かれる相手と親しくなろうと努力をしている谷岡さんなのに、
まだ誰とも”縁の糸”は繋がっていないということだ。
何も埋まってなどいない固い地面を、宝箱があると信じ続けて一生懸命掘りあてようとしている。
そんな空しい努力を無理矢理見せられているような、やるせない気持ちだ。
(……無駄だからやめた方がいい、なんてこと口が裂けても言えないしな)
かといって、”応援”するのも同じ理由で気が引ける。
実らないとわかっているのに知らないふりをしてまで手を貸せるほど、お人よしでも優しくもない。
「……第一、秋元さんって、本人以外の周りがお膳立てして盛り上げるっていうの、苦手だと思うんだよね。
逆効果っていうか」
「! ……やっぱり、秋元さんのことよくわかってるんじゃないですか」
控えめだが苛立ちのこもった目で睨まれる。
(あー、なるほど)
どうやら谷岡さんは、彼女の中で私が『敵』か『味方』か判別したいらしい。
正直、めんどくさい。
秋元さんとは違う部類のめんどくささだ。
谷岡さんは、佳奈美とは違うタイプだけれど女子力の高さが窺える。
いつも髪の毛の先から爪の先まで抜かりなく手入れをしているイメージで、男性からの受けもいい方だ。
そんな彼女がアプローチしても取り付く島のない秋元さん……
(ま、秋元さんにとっては正直好みの女性とは程遠いんだろうな。知らんけど)
とはいえ、私自身とは関係のないところで私を『敵』認定されるのもたまったもんじゃない。
「……そういえば、松平さんが今度秋元さん誘うかもって言ってたよ。
同じ部署なんだし、乗っかってみれば?
(ごめん、松平さん)
ここでも私は難を逃れるべく都合よく松平さんを引き合いに出してしまった。
これで『敵』『味方』判定の対象からは一応外れられるだろう。
(……松平さんには今度コーヒーでも奢ってあげよ……あっ! 返信忘れてた!)
うっかり忘れてしまっていたことを思い出し、申し訳なさが募る。
「松平さんかぁ……でもあの人、秋元さんと仲良さそうには見えないんですけど」
(でしょうね)
「でも秋元さんより話しやすいでしょ?
違う部署の私に頼るより距離が近いんだし、何かと都合がいいんじゃないの」
「……それに、女の私からどうこうするより、同性の松平さんからの紹介の方が
秋元さんも話くらいは聞いてくれるんじゃない」
(知らんけど)
もっともらしいけれど半分適当な説得で、谷岡さんの矛先をなんとか松平さんに向ける。
「……そうですね、松平さんなら優しいし、話しやすいからそうしてみます」
(ごめん、松平さん……後で返信もします)
松平さんに心の中で何度目かの謝りをして、ビールを流し込む。
(……そういえば、秋元さんからの返信もまだだったな)
(というか、秋元さんの返事次第で松平さんへの返事も変わるんですけど)
新たなモヤモヤを抱えながら、残りのおつまみを平らげた。
―――帰宅後、お風呂に入りいつでも眠れるように寝支度を整えてからベッドに寝転ぶ。
(……あ、今日ゲームログインしてなかったな)
忙しくても毎日欠かさずログインをしないと、ログボアイテムが受け取れずもったいないと思う。
ちりも積もれば山となり、イベの時なんかは多少は役に立っているからばかにできない。
(インしたらその流れでゲーム始めちゃうんだけどね)
ベッドに潜り込みスマホを弄っていると、メッセージを受け取った。
(! ……返信きた)
秋元さんからのメッセージを早速開けると……
―――『何か用事ですか』
今まさに目の前で秋元さんがこう喋っているような様子が容易に想像できる(音声付き)。
(……質問で返された……はあ……そりゃそうだ、用件がわからないんだから、私でもこう返すだろうな)
松平さんからのメッセージも、先に秋元さんに送ってなければ迷わずこう返信してただろう。
そもそもまどろっこしいのは好きじゃない。
(あの時は佳奈美にせっつかれて思いついたことさっさと送るしかなかったけど……
はっきり誘ってみるか)
こうなったら無駄なやりとりは極力避けて、本題メッセージを送ることにした。
―――『最近できたショッピングモールが気になるので、秋元さんも一緒に行きませんか』
(……これだと、ひとりで行けよ、とか思われそう)
―――『私一人だと結局ずっと行かずじまいになりそうなので、誰かと約束したら行けるかな、と思ったので』
(……佳奈美は誘わないのか?って思うかも)
―――『佳奈美は予定あるそうなので、秋元さんに声かけてみました』
(……あとは? なんか足りない情報ない?)
続きを送った方がいいのか考えていると、早速返信が来た。
―――『長い』
「ぶっ」
(いきなり文句ですか)
―――『わかったから』
―――『土日どっちでも』
―――『適当に決めて』
―――『現地集合』
「え」
(OKってこと?)
その後、スマホはうんともすんとも言わなくなった。
(……あ、松平さんになんて返事しよう……)
「そういう問題じゃないんだけどな……」
念のため確かめたけれど、谷岡さんの小指には”糸”は”見え”ない。
(”見え”ないことでこんな気持ちになったのは、初めてかもしれない)
こんなに惹かれる相手と親しくなろうと努力をしている谷岡さんなのに、
まだ誰とも”縁の糸”は繋がっていないということだ。
何も埋まってなどいない固い地面を、宝箱があると信じ続けて一生懸命掘りあてようとしている。
そんな空しい努力を無理矢理見せられているような、やるせない気持ちだ。
(……無駄だからやめた方がいい、なんてこと口が裂けても言えないしな)
かといって、”応援”するのも同じ理由で気が引ける。
実らないとわかっているのに知らないふりをしてまで手を貸せるほど、お人よしでも優しくもない。
「……第一、秋元さんって、本人以外の周りがお膳立てして盛り上げるっていうの、苦手だと思うんだよね。
逆効果っていうか」
「! ……やっぱり、秋元さんのことよくわかってるんじゃないですか」
控えめだが苛立ちのこもった目で睨まれる。
(あー、なるほど)
どうやら谷岡さんは、彼女の中で私が『敵』か『味方』か判別したいらしい。
正直、めんどくさい。
秋元さんとは違う部類のめんどくささだ。
谷岡さんは、佳奈美とは違うタイプだけれど女子力の高さが窺える。
いつも髪の毛の先から爪の先まで抜かりなく手入れをしているイメージで、男性からの受けもいい方だ。
そんな彼女がアプローチしても取り付く島のない秋元さん……
(ま、秋元さんにとっては正直好みの女性とは程遠いんだろうな。知らんけど)
とはいえ、私自身とは関係のないところで私を『敵』認定されるのもたまったもんじゃない。
「……そういえば、松平さんが今度秋元さん誘うかもって言ってたよ。
同じ部署なんだし、乗っかってみれば?
(ごめん、松平さん)
ここでも私は難を逃れるべく都合よく松平さんを引き合いに出してしまった。
これで『敵』『味方』判定の対象からは一応外れられるだろう。
(……松平さんには今度コーヒーでも奢ってあげよ……あっ! 返信忘れてた!)
うっかり忘れてしまっていたことを思い出し、申し訳なさが募る。
「松平さんかぁ……でもあの人、秋元さんと仲良さそうには見えないんですけど」
(でしょうね)
「でも秋元さんより話しやすいでしょ?
違う部署の私に頼るより距離が近いんだし、何かと都合がいいんじゃないの」
「……それに、女の私からどうこうするより、同性の松平さんからの紹介の方が
秋元さんも話くらいは聞いてくれるんじゃない」
(知らんけど)
もっともらしいけれど半分適当な説得で、谷岡さんの矛先をなんとか松平さんに向ける。
「……そうですね、松平さんなら優しいし、話しやすいからそうしてみます」
(ごめん、松平さん……後で返信もします)
松平さんに心の中で何度目かの謝りをして、ビールを流し込む。
(……そういえば、秋元さんからの返信もまだだったな)
(というか、秋元さんの返事次第で松平さんへの返事も変わるんですけど)
新たなモヤモヤを抱えながら、残りのおつまみを平らげた。
―――帰宅後、お風呂に入りいつでも眠れるように寝支度を整えてからベッドに寝転ぶ。
(……あ、今日ゲームログインしてなかったな)
忙しくても毎日欠かさずログインをしないと、ログボアイテムが受け取れずもったいないと思う。
ちりも積もれば山となり、イベの時なんかは多少は役に立っているからばかにできない。
(インしたらその流れでゲーム始めちゃうんだけどね)
ベッドに潜り込みスマホを弄っていると、メッセージを受け取った。
(! ……返信きた)
秋元さんからのメッセージを早速開けると……
―――『何か用事ですか』
今まさに目の前で秋元さんがこう喋っているような様子が容易に想像できる(音声付き)。
(……質問で返された……はあ……そりゃそうだ、用件がわからないんだから、私でもこう返すだろうな)
松平さんからのメッセージも、先に秋元さんに送ってなければ迷わずこう返信してただろう。
そもそもまどろっこしいのは好きじゃない。
(あの時は佳奈美にせっつかれて思いついたことさっさと送るしかなかったけど……
はっきり誘ってみるか)
こうなったら無駄なやりとりは極力避けて、本題メッセージを送ることにした。
―――『最近できたショッピングモールが気になるので、秋元さんも一緒に行きませんか』
(……これだと、ひとりで行けよ、とか思われそう)
―――『私一人だと結局ずっと行かずじまいになりそうなので、誰かと約束したら行けるかな、と思ったので』
(……佳奈美は誘わないのか?って思うかも)
―――『佳奈美は予定あるそうなので、秋元さんに声かけてみました』
(……あとは? なんか足りない情報ない?)
続きを送った方がいいのか考えていると、早速返信が来た。
―――『長い』
「ぶっ」
(いきなり文句ですか)
―――『わかったから』
―――『土日どっちでも』
―――『適当に決めて』
―――『現地集合』
「え」
(OKってこと?)
その後、スマホはうんともすんとも言わなくなった。
(……あ、松平さんになんて返事しよう……)
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