座敷わらしのプテロ

ゆまは なお

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「座敷わらし?」
「そうだ」
 男はにこにこと俺を見ている。座敷が苗字でわらしが名前じゃないよな? キラキラネーム全盛時代でもまさかそれはないだろう。
 俺は体を起こして男の手を肩から外させた。やけに冷たい。それになんだか頼りない感じがする。存在感が希薄と言うか、幽霊と言われても納得するような。

「本当に忘れたのか? いつも一緒に遊んだのに」
「え?」
「それにおやつをよく分けてくれただろう?」
「おやつ?」
「ぱちぱちキャンディとかぽりぽりラムネとか」
 子供の頃、好きだった駄菓子だ。
「えーと、あんたはここに住んでるのか?」
「当り前だろう。座敷わらしなんだから」
 しごく当然と言った態度で肯定された。
 
 …ちょっと頭の具合が悪いのかもしれない。
 端正な顔で目には理知的な光があるけれど言ってることは滅茶苦茶だ。
 それにしても雨戸も閉めきりの家で、どうやって生活してたんだ?

「大体、座敷わらしって子供だろ?」
「そうだ」
「あんたは大人じゃん」
「それは仕方ない。敏明が俺を見つけたからこんなに育ってしまった」
「俺が見つけた?」

 …だいぶ具合が悪いのかもしれない。
 自分を座敷わらしと思いこむなんて。
 祖母ちゃんはこいつの面倒を見てたのか? 
「えーと。病院とか行ってる?」
「笑子さんのこと?」
 笑子は祖母の名前だ。
 やっぱり祖母ちゃんの知り合いらしい。

「あの…、祖母ちゃんは先月亡くなったんだ」
「そうかと思ってはいた。優しい人だったな」
 男は沈んだ顔で呟く。
「うん」
 男が祖母の死を悼んでいるのを感じたが、本題に入らないと。

「えーと、それで、この家は俺が住むことになったんだ」
「本当に? 敏明がここに住むのか?」
 男はぱっと表情を明るくした。
 一人が寂しかったんだろう。でも俺は得体の知れない男と暮らすのは嫌だ。
「ああ。だから悪いけど」
 出て行って欲しいと言いかけてためらった。
 どんな事情か知らないが祖母と暮らしていたようだし、頭の具合も心配な男を追い出していいものか迷ったのだ。でも居つかれても困る。

「悪いけど?」
「あー、どこか行くあては?」
「え?」
「だから親戚とか…、ていうか家は?」
「ここだ」
 …やっぱり病院かな。身元がわからないなら警察?
 それよりもこんな親戚がいたか母に訊くのが先か。一瞬のうちにそんな考えが頭を巡る。

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