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第13章-3

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 綾乃とつき合っているあいだ、なんとなく違和感を感じていたこと。この1年、いろんな女の子とつき合って気持ちを確かめてみたこと。

 以前から同性の仕草や体に惹かれていたこと。たぶんじぶんはゲイだろうと思うけど、確信は持てないしそれを認めるのが怖いこと。

 仮にゲイだと認めたとして、だれかとつき合ったりセックスしたりできるのか不安なこと。じぶんがどうなのかを知りたい、でも怖い。そんなことを切れ切れに話した。

 大澤はビールを飲みながら、ぎゅっと祐樹の片手を握って口を挟まずに話を聞き、話し終わると静かに「試してみるか」と言った。

「試してみるって?」
「じぶんが男とセックスできるか、知りたいんだろう?」

 祐樹はきょとんと大澤を見上げ、えっと目を見開いた。

「あ、の。大澤先輩と?」
「祐樹が嫌じゃないならな」

「先輩って男もオッケーな人でした?」

「大学1年の夏から半年くらい、つき合ってた奴がいる。告白されて、ほんとに一途というかまじめな感じの人だったからほだされたっていうか」

「全然知りませんでした」
「いや、さすがにうかつに言えねーよ。男とつき合ってるなんて」

「ですよね。…びっくりしました」
 現実に男とつき合っていたと聞いて、身近にそんなことがあったのかと改めて驚く。

「で、祐樹が試してみたいならつき合うけど、俺は抱かれてはやれないぞ」
「え、ええ? あー、はい。そうです、ね」

 なんだか急に酔いが回ってきた気がする。ビール2本足らずでそんな酔うはずもないのに、くらくらするような気分で大澤を見た途端、かーっと頬に血が上った。

「でもあの、先輩はおれを、その、抱ける、んですか?」

 緊張のあまり途切れ途切れになってしまう。大澤はちょっと首をかしげたが、だいじょうぶだろとうなずいた。

「抱けると思う。お前かわいいし。っていうかさ、そもそも俺は祐樹をけっこう好きなんだけど」

「…そうでしたね」

 でもそれは姫だった中等部のころの話では、と思ったものの、ここで蒸し返すのもどうかと思って口に出すのはやめておく。いや、そんなことよりも。

 ええ、と? 
 試してみるっていまから? ここで? 

 急激に心臓がバクバクしてくる。男同士のやり方をなんとなくは理解しているが、大澤はどこまでするつもりなんだろう。抱ける、と言ったが本当に?

 黙りこむ祐樹にくすっと笑って、髪をなでてくる。初めて会ったときから何度もされてきた行為なのに、ぴくっと体がちいさく跳ねた。

「どうする? やめておくか?」

 緊張で体を固くした祐樹に、笑いのにじむ声で大澤は問いかけた。どちらでもいいと選択権をくれている。追いつめられることのないそれを聞いて祐樹はこころを決めた。

 信頼して身を任せられる相手なんてそういない。じぶんのなかで大きくなっていく一方の違和感をこれ以上見ないふりをするのは無理だとわかっていた。

 それなら大澤の手を取ってみよう。そう決めて、顔を上げた。

「…知りたい、です」
「そうか。シャワー浴びるか?」

「あ、はい」
「じゃあ俺が先に浴びるから交代な。ユニットで風呂狭いから」

 ひとり残されたこたつで、うわあ、どうしよう、というのが正直な気持ちだった。ていうか大澤先輩とセックスって……マジで熱出そう。

 じぶんから言い出したのに、逃げ出したいような気持ちで待っていると大澤に呼ばれ、どこを洗っているのかもよくわからない状態で、とにかくシャワーをすませた。

 湯船につかってもいないのにのぼせそうだ。

 シャワーから出ると、今度は何を着るべきかで迷う。え、ここはやっぱバスタオルだけ? パンツは履くの? それとも服を着ておくべき? 

 現実逃避したいがための混乱は、大澤が脱衣室に乱入したことで終わった。

「ほら、服なんて着なくていいからこっち来い」
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