上 下
87 / 95

14-1

しおりを挟む

 何か違うかな……。
 手にしていたネクタイを棚に戻した。

 仕事終わりにタクシーを飛ばして大連駅前の巨大ショッピングセンターに来たものの、何を見てもピンと来なくて祐樹は軽くため息をついた。

 孝弘の誕生日まであと数日なのに、プレゼントが見つからないのだ。

 ショッピングセンター内の飾りつけは赤色と金色で派手派手しく賑やかだ。外は真冬の寒さだが、商業施設はどこも人であふれている。

 経済発展するにしたがって、年々、収入は上がっており、それにつられるように店頭の商品も豊富になって人々の購買意欲はうなぎのぼりだ。

 10月の祐樹の誕生日には祐樹のリクエストで春餅を食べに行って、ネクタイをもらった。孝弘が選んでくれたそれは嬉しかったし、お返しのネクタイを贈ってもいいのだけれど少しつまらない気がする。

 でも孝弘の欲しいものって何だろう。
 そもそも孝弘はさほど物欲がないし、コレクションしている趣味の物もない。

 最近欲しいと呟いたものと言えばコードレスクリーナーだ。前任者が置いて行った掃除機があるのだが、それが重くて小回りがきかないと不満を言っていた。

 本人が欲しいっていうんだから、それでもいいんだけど……。家電コーナーで掃除機を横目に見ながら、ハンドミキサーやジューサーが並ぶ一角で足を止める。

 こういうちょっとした調理家電とかでもいいのかな、あげたら使うかも。


 料理に関して祐樹よりよほどマメな孝弘は、時間があるときは凝った料理も作ってくれる。祐樹はびっくりするのだが、凝ったように見えるけどオーブンで焼くだけだからとか圧力鍋で煮込むからあっという間だよとか言って、羊肉のローストだとか骨付き肉のビール煮込みなんかを出してくれる。

 でも調理家電だったら本人が選んだ方がいいよな、おれには使い勝手ってわからないし。ハンドブレンダーと英語で書いてあるイマイチ用途のわからない商品を眺めて、祐樹は首を振った。

「やっぱ一緒に買いに来た方がいいかな……」
 名刺入れや財布のコーナーでまた足を止め、悪くはないなと思う。

 あとは今必要な物でもいいのか。ぶ厚い手袋とか内側に毛皮のついた帽子や耳当て、暖かい部屋着なんかも候補に入れる。

 迷路のようなショッピングセンターを見て回っていると、目の前に春節大バーゲンと大きなのぼりが立っていた。

 そうか、もうすぐ春節だ。
 春節とは中国の正月のことだ。

 今年はいつだったっけ。
 確か2月半ばだったよな。

 勤務表を見て、そう思ったのを思い出す。農歴で祝う春節は毎年日付が変わる。日本でいう旧正月が中国では新年にあたり、大型連休になって盛大に年越し行事が行われるのだ。

 地方から出稼ぎに来ている人々が帰省する時期でもあり、田舎へ向かう国内線はものすごい混雑になる。年に一度の帰省という人も多いから、迎える家族も心待ちにしているのだ。

 そう言えば、達樹からメールが来ていたな。

 数日前、レオンが来ていた時だったからバタバタしていて返信するのを忘れていた。帰ったら返事を書かないと。

 大きなのぼりの前を通り過ぎ、本屋が見えてきたところでふと思いつく。

 孝弘は嫌がるかな? ちょっと考えて、たぶんそんなことはないだろうという結論になった。祐樹は踵を返して、春節大バーゲンののぼりを通ってカウンターに近づいた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

思い出の中で あの日、北京の街角で 番外編

ゆまは なお
BL
『あの日、北京の街角で』番外編。 孝弘が留学生だった頃のお話です。 本編の最終改訂版はこちら。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/28475021/523219176

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...