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 ホールのブッフェ料理に手を出す気にならず、二人で上階のダイニングに来た。個室なので気兼ねなく話ができる。

 …もちろんそれ以上のことも。

「君は勝負強いのかな?」
「あれはリカルドに花を持たせてくれたんだろ?」

 完璧なテーブルマナーで白身魚のカルパッチョを食べる加賀美は機嫌よく微笑む。ここのシェフは腕がいい。

「アキトはおいしそうに食べるね」

 そう言うリカルドはホワイトアスパラガスの白ワインソースを上品に口に運んだ。

「料理人は食いしん坊が多いからね」
「君こそ相当モテてきたんだろう?」

「それなりに」
 ワインを飲みながら完璧な微笑みで加賀美はリカルドをはぐらかす。

 思っていたより遊び慣れている上に性悪な加賀美にリカルドは振り回されている。それが楽しい。加賀美はリカルドが今までつき合って来たタイプとはまるで違った。

「で、俺は何をしたらいいんだ?」

 リカルドのいたずら心に火がついた。
 いたずらっぽく黒い瞳をきらめかせる彼をどうにかして困らせてみたい。

「ここで脱いでって言ったら?」
 加賀美は動揺も見せずににやりと笑う。

「悪くないけど、もっと刺激的なことがいい」
 そう言うと靴を脱いだ足先がリカルドの股間に入って来た。

 90度の位置に座っているから加賀美の右足だけだが、器用な指先が絶妙な力加減でそこを撫でさする。

「おい、ちょっと…」
 そこでノックの音がして、次の皿が運び込まれた。

 加賀美は何食わぬ顔でいたずらを続けている。

 リカルドにウニのパスタ、加賀美の前には四種のチーズリゾットがサーブされ、ウェイターが一礼して出ていこうとしたところで加賀美がフォークを落とした。

 もちろんわざとだ。

 振り向いたウェイターが素早く替えのフォークを差しだし、何食わぬ顔で「ありがとう」と加賀美は受け取る。

 足先のいたずらはまだ続いている。
 くにくにと器用にそこを揉まれて、リカルドは腹筋に力を入れた。

 ウェイターが床にかがんだら、テーブルの下の不埒なお遊びに気づくだろう。

 もちろん気づいたところで上流階級の破天荒な振舞いに慣れたウェイターは何も言いはしないだろうが、露出の趣味はないリカルドとしては避けたい事態だ。

 目線だけで焦るリカルドに加賀美は涼しげな笑みを見せて、足の指でさらにくいくいと押してくる。

 ウェイターがしゃがんだところで、間一髪、するりと足を引いた。同時にウェイターがフォークを拾い上げ、そっと部屋を出て行く。

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