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三章
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しおりを挟むアダムは目の前で起きていることに、もはや驚く気力もなかった。そう、例えるならば、限界にまで搾り取られた滓のような気持ちだ。
もはや羞恥さえも感じない。真っ白だ。己がやらかした事を認識すればするほど、限界値を超えた頭は考えることを放棄した。
「早く口をあけろ」
「……」
言われるがままに開くと、宰相の持つスプーンが運ばれる。食べやすいように少しだけ乗せられたご飯は、小さなアダムの口に無理なく収まった。
咀嚼して飲み込むと、待っていた宰相が再び寄越してくる。
なぜ自分は、宰相の手ずからご飯を食べているのだろうか。
いや、もう、考えるのはよそう。考えたって、起きてしまったことはどうにもならないのだから。
「よし、全て食べたな。次はこれだ」
「いや、いやいやいや」
「なにしてる。早く食べないか」
諦めたアダムだが、例の果実を指で摘んだ宰相を見て後退る。
さすがにそれはどうなのか。
スプーンで食べさせてもらうのも、慣れるまでに時間がかかった。なのに今度は指で摘んだものを食べなければならないというのか。
ずいっと迫ってきた指先を見て、無表情が張り付いた顔を見る。そして、背後でひっそりと揺れる尻尾を見て、アダムは諦めるしか無かった。
「……あーん」
しぶしぶ口を開くと、ぽいっと果実が放り込まれる。そのとき、僅かに指先が唇に触れて、アダムはかあっと自身の顔が熱くなるのが分かった。
おかげで、忘れたくても忘れられない、あの日の痴態が蘇る。いくらヒートとはいえ、あんな姿を晒すとは。今すぐ塵になりたい。とにかくどこかに埋まってしまいたい。
どこかでチーンと馬鹿にするような音がなった気がした。
「ほら、もっと食え」
「は、はい」
「うまいか?」
「……お、おいひいです」
ぶんぶんっと一瞬だけ尻尾が大きく振れた。
表情や言葉よりも行動に感情が現れる。それを知ることになったのは、この数日でだ。
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