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三章

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 魔の森に近づくと騒がしかった。
 三ヶ月も経つと森のざわめきで、魔物たちの言いたいことが何となく分かるようになる。今日は通り過ぎようとしたアダムに「早くこっちにおいで」と呼びかけているようだった。
 一度だけ泥に汚れた自分を見下ろす。が、むしろいいかと開き直った。今日は魔物たちとゴロゴロ地面を転がっても、サミーに「ずる~い!」と言われない。
 泥を落とすのが大変だから、外遊びはほどほどにとサミーに言っている手前、思うがままに森の中ではしゃぐわけにはいかなかった。
 けど今日は思いのまま遊んでやる。
 そんなアダムを歓迎するように、森へと足を踏み入れた刹那、アダムの体はひょいっと持ち上げられた。

「わわっ」

 思わずパタパタと手足を揺らすと、目の前に迫った熊が口を開ける。まるでガハハと笑っているようだ。
 もっふもふの大きな手には、恐ろしいほど鋭く長い爪がある。熊はアダムを傷つけないように、器用に抱きしめると、のっそのっそと歩いて森の中心へと向かった。

「なんだ? 今日はやけに元気だなぁ」

 いつもより多くの魔物がアダムを待っていた。近くの木には鋭い瞳をした鷲が止まっていて、地面には大きな蛇がうにょうにょとくねっている。

「今日は祭りかなにかなのか?」

 どすんと地面に座り、足の間にアダムを座らせた熊に問う。すると、一回二回と頭を振る。ちっちゃな耳とクリクリの瞳が可愛い。
 アダムがへらりと笑い背中を預けると、どこからともなく狼の魔獣がやってきた。
 もちろん、宰相ではない。本物の魔獣である。

「久しぶりだな」

 初めてこっちに来た頃はよく出迎えてくれた狼だった。確か、番の雌が妊娠しており臨月を迎え、いつ産まれてもおかしくない状態だったのだ。
 仲睦まじく歩いていく姿を思い返したとき、てってっと軽やかでいて、どこか危なっかしい足音がする。
 そちらを見遣ったアダムは破顔した。母親と同じ銀色の狼が三匹と、父親と同じ黒色の狼が三匹。計六匹の子狼が、ぴょんぴこと駆けてくる。

「そうか。ちゃんと無事に生まれてたんだな! おめでとう、お父さんになったんだね」

 アダムが狼を撫でながら微笑むと、お返しとばかりにペロリと顔を舐められた。元気が溢れかえる子狼の後ろからは、優しげな面立ちをした番の雌狼がやってくる。
 こちらにも久しぶりだと挨拶をすると、ぶんぶんと尻尾をふりアダムの肩に腕を乗せて喜んだ。
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