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三章
03
しおりを挟むアダムの失敗はそれからも続いた。さすがにこれがただの失敗でないことは明白である。
何度も何度も数を確かめて、書類の文字だって確認した。なのに、倉庫にアダムが運びこみ、必要なものを厨房に届ける頃には数が減るのだ。
誰かが意地悪でアダムの仕事を邪魔している。執念深くじわじわと追い詰めるように。
今日もまたそれなりに値段の張る調味料の数が足りなかった。アダムを呼びつけた料理人は、今日ばかりは堪忍袋の緒が切れたのか手が出かけたほど。
その様子を遠くから観察している狸が、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。
ズキズキと苛む痛みが血液と一緒に全身に巡るようだった。痛みは負となり心に重くのしかかる。
周囲から向けられる視線は「失望した」と言葉がなくとも語っていた。
罰として重労働を強いられたアダムが、痛みを堪えながらなんとか仕事を終える。その頃にはもうすっかり陽は沈み夜がきていた。
信頼を得るには時間がかかるのに、失うのはこんなにも簡単で呆気ない。
誰がアダムを陥れようとしているのか分からなくて薄気味悪かった。思い当たるのはあの先輩だが、こんなにも分かりやすく嫌がらせをするだろうか?
ましてや、先輩は調理場を主にしていて、アダムや見習いベータのする仕事に手を出す余裕はない。
じゃあいったい誰なのか。思い出すのは、アダムを冷たく見る職場の人たち。誰も彼もがアダムを疎んでいるように思えて、ぎゅうっと喉が詰まる。
玄関の扉を開ける前、アダムは無理矢理に不安を押し殺す。そうして何度か笑顔の練習をすると、明るい声で「ただいまー」と扉をあけた。
鼓膜を揺るがす己の声は、不自然な甘さで歪に感じた。
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