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一章
08
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──おかあーしゃんっ!
ゆさゆさと体を揺さぶられて、遠くでサミーが自分を呼んでいる気がした。
だが、すぐに違和感は霧散して、アダムは夢中で走り出す。
目前に立つ宰相の股間からアナコンダが現れたのだ。
アダムは怯えて飛び上がり、どうにかして逃げようと藻掻く。その様子を見ていた宰相は憎たらしく笑った。
「馬鹿め」
宰相が言うなりアナコンダが大きな口を広げた。
鼻先すれすれまで近づかれたその時。かっ、と目を開く。
「アナコンダーーーッ!」
ガバリと起き上がったアダムは、ゼイゼイと肩を震わせた。
額に浮かんだ汗を拭い、隣に座り込む小さな影に気づく。
サミーが潤んだ瞳でこちらを見ていた。それでようやく、自分が気を失ったのだと察した。
「お、お、おかあしゃん~っ」
「わわっ」
飛びついてきた息子を抱きしめ、とんとんと背中を優しく叩く。
ごめんねと囁きながら、ソファに座る男を見上げた。先程とは違いちゃんと服を着ている。
アダムは胸を撫で下ろし問いかけた。
「ずっとそこにいたんですか」
「そうだが? 人の裸体を見るなり奇声をあげて倒れる奴がいるなんてな」
一人だけ優雅に腰掛ける宰相は、ふっと鼻で笑う。ぴくりとアダムのこめかみが痙攣した。
「……私が聞いているのは、目の前で人が倒れて、そのうえ子供が泣いているのに、貴方は何をしているのかということです」
固まる口角を無理矢理にあげて笑う。
宰相は問いかけの意図に気づかず泰然と答えた。
「お前が倒れていたのはほんの数分だ。そこの子供が泣き出したのも。観察していたが、特に体に異常もない。すぐに目を覚ますとわかっていて、何をやれと?」
「……」
ぷつん。何かが切れる音がした。
だが、アダムはぐっと言葉を飲みこむ。こんな奴は相手をするだけ無駄だ。
アダムは意識から馬鹿男を追い出すことにした。
そして、サミーを見下ろして、柔らかい髪の毛に指を通す。
きっと怖い思いをしただろう。寝て起きたらアダムがいなくて、下に降りれば倒れているのだから。
できる限り悲しませたくない。痛い思いも、怖い思いもだ。
自分が至らないばかりに、これまでサミーは色んなものを我慢してきたのだ。
あの貧しかった日々は何度だってアダムの心に爪を立てる。
「サミー。もう大丈夫だよ。だから、もう一度お休みしようね」
サミーの涙に濡れた瞼がとろんと閉じる。まだ起きるには早い時間だ。おまけに泣いたものだから、疲れてしまったのだろう。
アダムは丸い頬に口付けると囁き体を揺する。 大好きな母の腕の中で安心したのか、サミーはあっという間に眠ってしまった。
「……寝室に寝かせてきます。話はそれからでいいですよね」
「かまわない」
こちらを静観する宰相に伝えアダムは二階へと移動した。そして、大事に大事にサミーをベッドへ寝かせると一階へ戻る。
ゆさゆさと体を揺さぶられて、遠くでサミーが自分を呼んでいる気がした。
だが、すぐに違和感は霧散して、アダムは夢中で走り出す。
目前に立つ宰相の股間からアナコンダが現れたのだ。
アダムは怯えて飛び上がり、どうにかして逃げようと藻掻く。その様子を見ていた宰相は憎たらしく笑った。
「馬鹿め」
宰相が言うなりアナコンダが大きな口を広げた。
鼻先すれすれまで近づかれたその時。かっ、と目を開く。
「アナコンダーーーッ!」
ガバリと起き上がったアダムは、ゼイゼイと肩を震わせた。
額に浮かんだ汗を拭い、隣に座り込む小さな影に気づく。
サミーが潤んだ瞳でこちらを見ていた。それでようやく、自分が気を失ったのだと察した。
「お、お、おかあしゃん~っ」
「わわっ」
飛びついてきた息子を抱きしめ、とんとんと背中を優しく叩く。
ごめんねと囁きながら、ソファに座る男を見上げた。先程とは違いちゃんと服を着ている。
アダムは胸を撫で下ろし問いかけた。
「ずっとそこにいたんですか」
「そうだが? 人の裸体を見るなり奇声をあげて倒れる奴がいるなんてな」
一人だけ優雅に腰掛ける宰相は、ふっと鼻で笑う。ぴくりとアダムのこめかみが痙攣した。
「……私が聞いているのは、目の前で人が倒れて、そのうえ子供が泣いているのに、貴方は何をしているのかということです」
固まる口角を無理矢理にあげて笑う。
宰相は問いかけの意図に気づかず泰然と答えた。
「お前が倒れていたのはほんの数分だ。そこの子供が泣き出したのも。観察していたが、特に体に異常もない。すぐに目を覚ますとわかっていて、何をやれと?」
「……」
ぷつん。何かが切れる音がした。
だが、アダムはぐっと言葉を飲みこむ。こんな奴は相手をするだけ無駄だ。
アダムは意識から馬鹿男を追い出すことにした。
そして、サミーを見下ろして、柔らかい髪の毛に指を通す。
きっと怖い思いをしただろう。寝て起きたらアダムがいなくて、下に降りれば倒れているのだから。
できる限り悲しませたくない。痛い思いも、怖い思いもだ。
自分が至らないばかりに、これまでサミーは色んなものを我慢してきたのだ。
あの貧しかった日々は何度だってアダムの心に爪を立てる。
「サミー。もう大丈夫だよ。だから、もう一度お休みしようね」
サミーの涙に濡れた瞼がとろんと閉じる。まだ起きるには早い時間だ。おまけに泣いたものだから、疲れてしまったのだろう。
アダムは丸い頬に口付けると囁き体を揺する。 大好きな母の腕の中で安心したのか、サミーはあっという間に眠ってしまった。
「……寝室に寝かせてきます。話はそれからでいいですよね」
「かまわない」
こちらを静観する宰相に伝えアダムは二階へと移動した。そして、大事に大事にサミーをベッドへ寝かせると一階へ戻る。
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