6人目の魔女

Yakijyake

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*** あの時の決断

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らしい。確かに私もここにいた間、フリッツさんたちを見た記憶はない。
 突然読んでしまって少し申し訳ないが、もちろんこの日に呼んだのには理由がある。私は買い物へ行くために二人を家に残して町へ出かけた。

***
今日はなぜ呼ばれたのか、いまいちわからない。ただ一緒に話がしたいだけなのか、それともほかに用があるのか。そんなことを考えながらベレッタが淹れたコーヒーを啜る。ほのかに苦かった。
ベレッタに置いてかれた私たちはただ、家の中を眺めることぐらいしかできなかった。こんな家にエリーナとベレッタは住んでいたのか。静かな森の中にひっそりと、澄んだ空気を吸いながら、エリーナは住んでいたんだ。
エリーナが住んでいた…エリーナが…エリーナ…
 「本当にいなくなっちまったんだな」
 「……」
 「やっぱり止めておけばよかったのかな。結果論だけど、あの時無理にでもとめていれば…」
 「……」
 重苦しい空気が漂った。エリーナが死んでから、毎日のように自問自答した。もしあの時。エリーナがテインに行く、と言ったあの日。私がこの結末を知っていたとしたら。
 私は止めただろうか。それとも…
 「ただいま」
 玄関から声が聞こえ、振り向く。そこで見た光景に私は一瞬呼吸をも忘れた。
 間違ってなどいなかった。そう確信した。いや、確かにエリーナの最期は惨く苦しいだったが、私は彼女を見て、決してこの出会いは間違っていなかったと直感した。髪の毛を青く染めたベレッタはまるで…まるで…
 「カトリナさん?」
 呼ばれてようやくこちらの世界に戻って来れた。
 「あ、ああ。ごめんなさい。少し思うところがあって…」
 彷彿とさせる青い髪。その肩より少し長いサラサラの髪を見て、思い出してしまった。普段のベレッタも可愛かったが、髪を青く染めたベレッタは一層美しく見えた。。
 「実は今日お呼びしたのは理由があって…今日はお母様との大事な記念日なんです。だから、みんなでお祝いしようと思って…」
 もう二十歳、されど二十歳。まだあどけなさの残る笑顔を溢しながら言った。
 「今日は『母の日』なんです。前にお母様とこの日をお祝いしたときに、とても喜んでくれたので…なので、一緒にお祝いしてくれませんか?」
 言葉を詰まらせた私の言葉を代弁するかのようにフリッツが口を開けた。
 「ああ、もちろん。きっとエリーナも喜ぶよ」
 エリーナの名前を出されたベレッタはさらに喜んだ。
 「では、二人とも一度外に出てもらえますか?」
 唐突なお願いに戸惑いつつも、言われるがまま外に出た。玄関を開けると外は涼しい、というよりも少し肌寒かった。外に出ると、写真屋がカメラをセッティングしていた。
 「実はこの場所を選んだのにも理由があって…」
 「カトリナさん、覚えていますか?今から二十年前、この場所で写真を撮ったこと」
 もちろん、そう答えた。今でも部屋に額縁に入れて大切に飾ってあるあの写真を忘れた日なんて一日たりともない。
 「どうしてもここじゃないとダメなんです。二十年前に撮ったこの場所じゃないと」
 その意見に反論する人間は誰もいなかった。
 やがて写真の準備が整ったようだ。写真屋の人の合図を受けて私たちはくっつく。私たちは写真を撮るときに何も言わなかった。にも拘わらず、自然と私たちはエリーナの場所を開けていた。傍から見れば不自然な空間。でも私たちにとってこの空間はいわば『家族の空間』なのだ。見えないだけで、きっとエリーナはここにいる。そんな気がして。
 パシャ。
 撮った一枚の写真。この二十年は色々あった。特にこの数年間は。必ずしもいいことばかりではなかった。失ったものも大きかった。でも、この形、この愛する家族は二十年前と何ら変わってはいなかった。撮り終わったあと、ベレッタがハンカチを差し出してくれた。自分が気づかぬうちに涙を流していた。こぼれた雫は頬を伝い、やがて足元の土に吸い込まれていった。
 写真を撮った後は、色々話した。エリーナの昔の話とか、近況とか。でも夕方には帰ることにした。夕方には出ないと家に着くののが遅くなる、というのもあるが、一番の理由はこの大切な日は『二人きり』で過ごしてほしいと思ったから。フリッツも私の言い分を理解してくれた。
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