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サルチルの町

今更になって

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隆がアランの質問攻めにあっているその一方、リトス達がいる部屋ではライナとラルアは寝ており、リトスは部屋にやってきた誰かに口を押えられて起こされていた。

「っぷはぁ!…魔王か」

「いかにも。最近話し相手がいなくて暇でのぅ、酒を飲めとは言わんからゆっくり話さぬか?」

「そんな下手に出なくても魔王なんだから強引に連れていくなりすればいいのに」

「そうはいかん。おぬしは妾の友人なのだからな。友人に優しくせぬものは誰にでも優しくできぬだろう?」

リトスは隆のことを聞かれたのかと驚いたがラルアに優しくしているので自分に言ったのではないと胸をなでおろす。

「それはそうと早く妾のところに来ぬか。おぬしらの倒したアメジストとおぬしらを全滅させたトパーズは他の町に行っておるから城は妾と数人くらいしかおらんぞ」

「その数人も強いんでしょ?そりゃあ魔王のあんたからすれば弱いんだろうけどさ…死の街すら突破できるか不安だっていうのに更にその先なんて無理無理」

「それを何とかするのが勇者ご一行であろう。死の街で戦いを経験して妾を倒せるくらいになったら城に来て妾の部下を撃破して、満を持して妾に挑み、絶望的な力の差に慄き、しかしそれでも諦めず…というのが理想じゃな」

リトスが見えていないことを良いことに気配を消してリトスの頬をつついて遊ぶ魔王。
話しにくいリトスは指を払って腕を組む。

「その理想叶うの数年先になるけど大丈夫?しかも時間経てば経つほど魔王と戦う理由がなくなるけど」

「なぜ無くなる?隆は妾を倒すために呼ばれたのであろう?」

「隆が呼ばれたのは私の生まれ故郷であるエルフの森。そして魔王が侵攻したってデマが流されたのは最初に行ったチアミンの街」

「そうじゃったな。だが何故滅多に森の外に出ないエルフがそんなデマを知った?」

「それは…」言葉を続けようとしたリトスだがその先が出なかった。
言われてみれば変だった。森の中に侵入者は入ってくるが友好関係を結んでいる人間はいない。
ヒューマンのいる町で一番近い町はエルフを売り物としているヒューマンしかおらずこちらに狩られる命を張って有益な情報をくれる人がいるとはとても考えづらい。

「あの男…なんて名前だったっけ…グラム?違うな…村長でもないし…」

村にいた男エルフの名前を一人一人挙げては声と名前を一致させて「違う」と否定をする。

「記憶力がいいのぅ」

「生まれてずっと人口変わらないからね。…思い出した。ストロだ」

ストロ。それはまだリトスの視覚があった頃一度告白をしてきた男だった。
しかし狩人としての生活や自分の時間を優先したいリトスは数秒の間も許さずに断っていた。
それから数日間は「片付けの手伝いをする」「君の力になりたい」としつこく迫られたがそのたびに「いらない」と断っていた。
すると今度は弓を隠されたり井戸の中に落とされかけたりと意地悪をされ、それを知った村長に村を追放されかけていた。
それからは真面目に働くようになり、リトスに近づくこともなくなった。

「しかしだとしたらなんであのタイミングで…」

「視覚を失ったのは二年前じゃったな。その男は病気に関係しておらんのか?」

「関係ないと思うなー。でもまぁ視覚失ってすぐに言ったら疑われるのは当然だし二年待つ…のかな?」

「妾に聞かれても何とも言えん。知りたければ森に行けばいいじゃろう」

「えー帰るの…帰りたくないんだけど」

「帰らねば妾と数年、もしくは数十年かけて戦うことになるぞ?」

「うっ…でも隆達になんて言えばいいんだろう。もうあんな村には帰らないみたいなこと一度言ってるしな」

「そんなもの適当でいいだろう。知った後隆達がどんな反応をするのかは知らんがの」

そういえばそうだったと寝ているラルアに視線を向けるリトス。
前にも旅の目的が無くなればどうなるのかと考えて先延ばしにしていたがもうそんなことはできなくなっていた。
今いる町を出れば死の街は目の前にあるも同然となり一度故郷に帰るとなればここしかない。

「例えば…例えばの話。ストロがデマ流した犯人だと確定して私か誰かが制裁を加えて皆がバラバラになって…そうしたらあんたはどうするの?」

「そうじゃなぁ。おぬしらが妾に挑まなくなるのはつまらぬし一度相手をしてやろう。そうしたらあとは一緒に考えてやろう」

「え?戦うの?」

「隆はそのために呼ばれたのじゃろうが。一度あやつとは戦っておるが妾を魔王だとは見抜けぬかったし魔王として戦ってやらぬと悲しいじゃろう」

「くっくっく」といたずらな笑みを浮かべる魔王。

「では次会うときは妾の城、もしくはおぬしの村じゃな」

そう言うと魔王は姿を消し、横になったリトスは考えることをやめて眠りについた。

その翌日。覚悟を決めたリトスは宿屋の外に隆達を集め大切な話があると切り出した。

「実はね…私の村に代々伝わる魔王を倒す武器があるの」

自分は何を言っているのだろうとリトスは思った。
もう少しまともなことは言えなかったのだろうと。
しかし起きてからこれ以外何も浮かばなかったのである。
こんなことを信じるのはよほどのアホくらいだろう。
しかし、それを信じる者はいた。

「マジか。もしかして伝説の剣ってやつか!いやでもエルフの森にあるんだし弓と矢っていう可能性もあるよな…」

隆である。
元居た世界で異世界ファンタジーが大好きだった彼はこういった「実は最初にいた村に伝説の武器がある」といった展開に熱くなってしまう。

「いやいや何を信じているでござるか隆殿。他種族との交流に超がつくほど消極的なエルフにそんなものが作れるわけがないでござるよ」

呆れたようにため息をつくライナ。
しかしそのライナの煽りにも似たため息はリトスの脳をフル回転させるには十分だった。

「ええ、作るのは無理。だけど興味本位でどこぞのヒューマンが森に入ってエルフに殺されていたとしたら?」

「あり得る話だよな!」

やかましい程にテンションが高い隆。
今すぐにでも口に武器を突っ込みたいところだが信じている人数が少ないためここは勢いで押し切るしかない。

「魔王を倒せる伝説の武器を仮に持っていたとして…さてはてその人物は何故リトスさんの村に?」

「きっと迷い込んだんでしょ。近くには奴隷の町もあるんだしそこにエルフが売ってなくて仲間にしに来たんでしょ」

(それに前行った町の騎士団だっけ?あの人達が唯一魔王に対抗できたって言ってたし普通あの人達が持ってるはずだよね)

「まぁ普通はそう考えるよね。けど何故かあるの」

もうこれ以上正論を言われると何も言えなくなる。
しかし隆は「行ってみればわかるだろ!と」大声を上げ無理矢理納得させた。

「ったく、もうちょっと早く言ってくれよな。なんでこう重要な武器とかって最後まで渋られるんだか…」

「ごめん。…ありがとう」

「え?なんて?聞こえなかった」

「なーにも言ってない!ごめんね皆寄り道させて。村に戻ってパパっと取ってくればいいから」

「絶対何か起こるでござるよ…」

ライナの不安は見事的中することになる。
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