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トロルの森

再出発

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寝ていたラルアを起こし、事情を説明してから血の海が広がる馬車を降りた三人。
自分たちが進んでいた方向に行くとまず目にしたのは首から上のないトロルと体中が切り刻まれた馬。
死んでいるため動いているはずはなく、大きすぎて埋葬もできないため三人は目を閉じて祈りを捧げその場を去った。
どこまで続いているのか分からない森の中をひたすら歩く三人。向かう方向は分かっており、馬車が通れるように道もできているため迷いこそしていないが村から出発して襲われたのが早かったため街まで遠いことも分かっている三人は軽く絶望していた。

「地図を見る限り森を抜ければすぐに街へと着きそうなのではござるが…」

「その森があまりにも大きい。トロルでも馬車が必要なんだから私達がちょっと歩いただけで済むような距離ではない…でしょ?」

「そうなのでござるよ。そこで拙者は考えたのでござる、ここは森の中でラルア殿が力を存分に発揮できる場所なので木の一本を動かすことくらい容易いのではないかと」

(できるよ。恐らくライナの想像している動き方とは違うと思うけど)

そういうとラルアはライナを大きな木に背中をつけるように指示をしてライナは指示通りにぴったり背中を付ける。

「これからどうするのでござるか?」

(地面のエネルギーをこの木に集中させてライナの背中に丸太くらいの太くて大きな枝を打ち込む。そうすればだいぶ吹っ飛ぶと思うよ)

「ちょっと待つでござる!拙者が予想していたものと大きく違うでござる!だから逃がさないように足につけている蔦を解くでござる!そうしないと拙者が吹き飛ぶでござるよ!?」

(グッドラック)

叫んでいたライナは大きな枝によって遠く彼方へと飛んでいった。

「飛んでいったね…私はやらないよ」

(分かっているよ。ただライナが僕を利用しようとしてたから腹が立った)

「あー…そうだったんだ」

(とはいえ街まで歩いていくのは体力はまだしも精神的に辛いだろうし渋ってはいられないか。リトス、蔦を使って運ぶから大きな枝に跨ってて)

ラルアの蔦によって高いところに運ばれたリトス。
どこまで高いのか目で確かめることはできないが心地よい風が頬をかすめていくのがとても心地よかった。

(動かすからしっかりと捕まってて)

ラルアが木に力を入れると木に四本の足が生え、ゆっくりと歩き始めた。

「おお~これなら歩かなくてもいいね。さすがラルア」

(礼には及ばないよ。じゃあ森を抜けるまでは自動運転にしておくからその間に隆の居場所でも探そうか)


一方、リトス達が生き返ったことを知らない隆は糸使いを追って森を走っていた。

「君もしつこいな!小生を追っている暇があったら仲間を弔ったらどうなんだ!」

「てめぇを倒すことがあいつらへの弔いなんだよ!」

隆は一本の木を殴り飛ばして当てようとするが、糸使いは振り向きもせずに強靱な糸を木に巻きついてすぐにバラバラにする。

「この野郎…!」

「だから言っているではないか。君一人では小生を倒すことなんて不可能も不可能。楽器の使い方も分からないヒューマンがアスモディアンの演奏についてくることのように不可能なんだよ!」

糸使いの走る速度は疲れて遅くなるどころか徐々に上がっていき、隆は逆に疲れて足が歩くことすら拒絶し始めていた。

「ちく…しょう…」

「ヒューマンの割に体力があったことは敬意を示そう、これは小生からのプレゼントだ!その身を持って受け取るがいい!『車輪落とし』!」

糸使いは上空に跳ぶと隆の周りにある数十本の木の幹を次々と丸太状に切っていく。
丸太場に切られた幹は一度糸使いの元まで浮かび、隆に向かって勢いよく蹴り飛ばしていく。もちろん普通の森にある木の幹であればそこまで太くはない。
しかしこの森の木はとても大きく、飛んでくる丸太の大きさは人間一人を潰すには十分過ぎる大きさだった。

「これで終いだ!」

最後の一つを全力で蹴り飛ばすと他に飛ばした丸太が一気に破壊され、隆の姿は木に埋もれて見えなくなった。

「さて、楽しんだし帰るとするか。…そういえば彼らに名前を教えていなかったな。まぁまた会ったときにでも話せばいいか」

糸使いは糸でドアを作るとどこかに消えていった。

一方、足の生えた木で移動中の二人の耳には向かっている方向で大きな音がしているのが聞こえていた。

(凄い音がしたね、もしかしたら隆が誰かと戦っているのかもしれない)

「そうだとしても今の音だとかなり遠いなぁ、スピード上げられる?」

(うん。じゃあしっかり捕まっててね)

リトスが木にしがみついたのを確認すると木は猛スピードで隆のいる方向へと走り出した。
激しく揺れる木はラルアと根で繋がっているようになっているためラルアを振り落とすことはないもののリトスはつなぎ止められていないためリトスは必死にしがみついた。
やがて音のした場所に着くと大量の丸太や枝や葉が山のように何かに覆いかぶさっていた。

(まさかこの中に隆がいるんじゃないだろうね…)

「いや、いるよ。中からもがいてる音が聞こえる」

(はぁ…中にいるのが敵だったらどかさなくていいんだけどな…)

体から現れた枝を箒のように操り一気に丸太等をどかしていくラルア。
やがて自力で脱出できるようになったのか葉っぱだらけの隆が姿を現した。

「やっほ、敵は倒せた?」

「お、お前ら…死んだんじゃ…」

「ちょっと色々あってね。あの糸使いは?」

「あいつなら…逃がしちまった。すまねえ」

申し訳なさそうに俯く隆。
隆が謝ることがかなり珍しいため二人はかなり驚いたが、隆を責めることなく木に乗せて街に向かうことにした。

「そういやライナはどうしたんだ、あいつも生き返ってるんだろ?」

(僕を便利な道具として扱おうとしたから街に向かって飛ばしてあげたよ)

「おいおい…俺じゃねえんだからそんなことしたら死ぬだろ…」

「大丈夫でしょ、あの子忍者だし」

その予想は見事に的中し、お尻を空に突き出したような情けない姿でライナは倒れていた。
ラルアがお尻を枝で何度かつつくと「ひゃん」という声を上げて反応し、「酷いでござる」、「あんまりでござる」と子供のように怒り始めたが。枝で両足を縛りつけられるとまた飛ばされると思ったのか一気に態度を変えてリトスの隣に腰を下ろした。

「さて、全員揃ったし街に向かって出発だな!」

(嬉しそうだね)

「あったりまえだろ!俺一人じゃ何もできないからな!」

「おお、隆殿にしては珍しい発言でござるな」

「ふふん、俺も学習くらいするからな。今のところは正直ラルア頼りになってるがいつかは俺も頼りになるような男になるからな!」

(それは楽しみだね。じゃあ強くなるためにもこの世界の色んなことを学ばなくちゃいけないね)

「そのためにも今は無事に街に着けるよう頑張らないとね」

一行は糸使いのことを思い出し一瞬黙るが「何とかなる」と口にして笑いあったのだった。
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