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チアミンの街

木から生まれし少女

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香ばしいスパイスの香り、熱した鉄板に乗せられた焼けた肉の音。
運ばれてきた料理は鶏丸々一匹使ったのではないのかという程に大きかった。

「美味そうだな!でもでけえ…」

「食べきるまで時間かかるなら席外してもいい?」

「ん?いいけどまた襲われるかもしれねえぞ?」

「その時は返り討ちにするから大丈夫。じゃあ行ってくる」

「おう、不安しかねえけど」

席を立ったリトスは奴隷販売店の中でも同族、草木の匂いのする販売店に向かった。
もしかすると自分ではない他のエルフが売られているかもしれない。
匂いが近くなるにつれて「知り合いだったらどうしよう」という悪い予感が頭をよぎる。
店まで行くと「私を買い取って」という声や「何でもするから買って」という声が聞こえる。

「いらっしゃい!…ってエルフの方じゃないですか!なんでこんな場所に!?」

「私の同族が売られてないか確かめに来たの。その様子だと売られてるの?」

女の店員に問いかけると手を振って否定する。

「そんなことあるわけがないじゃないですか!売っていたとしてもすぐに売れてしまいますから!」

「そう、じゃあなんでここの店から同族の匂いがするの?」

「草木の匂い…ああ!アルラウネのことですか!」

そう言って店員は店の奥からアルラウネと呼ばれる全身が葉で包まれた少女を連れてきた。

「匂いは合ってる…疑ってごめんなさい」

「いいですよ、エルフの方に会えただけでも貴重な体験ですから!そうです。この子を貰っていただきませんか?」

「貰ってって…私お金持ってないよ?」

「お金は要りません。事情は話すと長くなるので話しませんがアルラウネは人気がなく、幼いともはや売れないので差し上げます!」

喜々としてアルラウネの少女をリトスに勧める店員。
その様子は「あげる」というより「押し付ける」という雰囲気だった。
仕方なくリトスは引き取ることになり、付けていた首輪、腕輪を外して店を離れた。

「はぁ…なんで引き取っちゃったんだろう…」

手をつないで歩く二人。しかしアルラウネは言葉を離せないのか一言も話さない。

「それにしてもいい匂いするね君、アルラウネって皆こんな匂いなのかな」

少女は首をかしげているがもちろん伝わるはずはない。
やがて隆のいる店に戻ると半分以上食べ終えた隆が未だ黙々と食べていた。

「おう、帰ってき…お前ついにそいつの親を…」

「君はどんな思考回路してんの。奴隷屋で押し付けられたの。要らないからあげるって」

「なんだその押し付け方…絶対裏があんだろ」

「理由を聞こうと思ったんだけど事情は長くなるって言うし、どうせろくでもない嘘つくだろうから聞かないでおいたの。一応種族は説明しておくわね。アスモディアンのアルラウネ。魔力を持った木から生まれ、育った地によって成体になった時の肌の色、身体に咲く花、魔力貯蔵量が違うことが特徴的。仲間たちとはテレパシー、もしくは言葉でコミュニケーションをとるみたいなんだけどこの子は後者かな。ちなみに雑食」

過去の文献を思い出しながら説明するリトス。
隆はナイフとフォークをおいて真面目に話を聞いていた。

「へーそうなのうおぉぉ!?」

説明が終わり、フォークで刺そうとしていた鶏肉は鉄板の上から消え去り、一欠片も残っていなかった。
代わりに隆の隣には口の周りにハーブや油をつけたアルラウネの少女が知らん顔で立っていた。

「お前…食っただろ?」

首を振る少女。

「おうそうか。なら口の周りについてるものは何だ?」

(よだれ)

「そうだとしたら汚すぎるだろ!」

脳内に語りかけてくることに驚きもせず会話をする隆。
その様子にリトスは驚いているが自分が今「テレパシーが使える」と言ったことを思い出す。

「はぁ…まぁどうせ全部は食いきれなかったしな。店員さーん!」

隆は店員に口を拭くものを頼んで少女の口を拭いた。

(ありがと)

「はいはい。それよりこいつの名前って何だ?」

「そういえば決めてなかったね。何がいいと思う?」

「決めてないって…名前無えのか」

「奴隷になった時から名前は主人が付けることになってるの。で、何がいい?」

「唐突に決めろって言われてもな…」

腕を組んで悩むこと数分。

「…よし、決まった」

(ワクワク)

「今日からお前の名前は……ラルアだ!」

「ラルアか、君にしてはいい名前付けるね」

(ラルアー)

「そんじゃあこいつの名前も決まったことだしさっさと会計して俺の武器を買いに行くか!」

会計を済ませて武器屋を巡る三人。
立ち寄ってみては剣や斧、槍などを試しに振ってみるが隆の腕にしっくり来ない。

「なんか違うんだよな…おっちゃん、おすすめの武器はなんだ?」

「おすすめだぁ?武器も持ったことがないような素人に勧めるようなモンは…」

「無えのか」

「あるに決まってんだろぉ。お前さんみたいなガキんちょにピッタリの武器がなぁ!ほれ、手を出せ」

そう言われ隆が手を差し出すと頑丈そうな鋼でできた手と腕を覆う手甲を乗せられた。
その鎧は鉄の鎧とは違い、鮮やかな模様が全体的に施されていた。

「そいつはダマスカス鋼でできた手甲だ。威力は持ち主次第だが頑丈さは超がつくほど自信がある!剣を受ければ剣が折れ、ハンマーを振ればハンマーが砕ける!どうだ?いいだろ?その模様はダマスカス鋼独特のモンで分かるやつは見ただけで逃げ出す!」

「フフン」と自分で造ったように誇る店主。
装備をして感覚を試す隆も手甲を気に入り、購入を決定した。

「そんじゃあ値段は八百フルだ!」

「高え!金足りるか…?」

金貨を入れた袋から次々と金貨を取り出し、支払いが終わると袋の中身はほぼ空になった。

「まいど!武器の手入れは怠るなよ!」

「おう!手甲入れる袋とか手入れのための物とかサービスありがとな!」

「いいってことよ!」

武器を手に入れ、店を離れてベンチに座る三人。
次の行き先は決まっているはずだが隆はつい地図を広げてしまう。

「思ったんだけどさ…俺は強いと思う」

「は?」

「いやだって考えてみろよ。あの人攫いを二人もやったんだぜ?強くないわけがねえだろ?」

(すごい)

「だろ?だから俺は魔王を倒そうと思う」

「まぁ…そのために召喚されたんだし…でも今の弱さじゃ…」

「弱くねえ!俺は弱くねえ!」

「あ…そう。ならリボフラの城下町に行くのはやめてアスモディアン領地「デスユートピア」に行く?」

「何だその矛盾の塊のような名前…この街か」

地図には黒く塗りつぶされ、その上に「デスタウン」と書かれているだけ。
ほかの場所はしっかりと描かれているが、デスタウンの場所だけが黒く塗りつぶされている。

「一応…どんな場所か聞いていいか?」

「アスモディアンの領地に行くための最初の場所であり、魔王を倒すなら絶対に行かないといけない場所。同族かトロル以外の種族が入れば確実に殺される。住民を知ってるわけじゃないけどアスモディアンの中でも上位の種族が住んでるという噂くらいは聞いたことあるね」

「よし!城下町いこうぜ!」

こうして三人はリボフラの城下町に向かうため街を出るのだった。
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